バレンタインデーはなぜ2月に?チョコレートの美味しさを科学する
<情報工場 「読学」のススメ#24>今の季節ならば「常温」で保存を!
**チョコレートの食感は結晶構造で決まる
2月14日、バレンタインデー。もともとはローマ帝国の祝日が由来だそうだが、日本では「女性が男性にチョコレートを贈る日」として、すっかり定着している。
ところで男性の読者の方は、バレンタインデーに贈られたチョコレートをどうしているだろうか? もらったその日に食べてしまう人もいるだろう。しかし、ずっと好きだった人から初めてもらった時など、もったいなくてしばらく取っておきたいと思う人もいるかもしれない。
では、どうやって保存するか。今の季節ならば「常温で保存する」のが正解(ガナッシュや生チョコなど要冷蔵のものを除く)。経験した人もいるだろうが、冷蔵庫に長期間入れておくと、固くなりすぎてボソボソで不味くなる。さらに時間が経つと、「ブルーム」と呼ばれる白い粉が表面につき、見た目も悪くなる。
もちろん夏場であれば、常温で放置してはいけない。確実に溶ける。手にくっつくほどベタベタになったチョコレートを美味しいと感じる人は稀だろう。もしかしたら、真冬の2月のバレンタインデーにチョコレートを贈る慣習をつくろうと目論んだお菓子メーカー(諸説あり)は、チョコレートの保存性のことまで考えていたのかもしれない。
「冷やしすぎる」あるいは「周囲が暑い」ことがチョコレートの美味しさを損なうという事実には、「食感(テクスチャー)」が関係している。カカオの風味や砂糖やミルクの配分など、チョコレートの美味しさを決める要素は他にもあるが、食感の重要度がきわめて高いのは間違いない。ここで言う食感とは、パリッと割れる、ほどよい固さのチョコレートが口の中でとろける感触を指す。その食感は、チョコレートという食品の物性(物質の持つ性質)によってもたらされる。
広島大学大学院の上野聡教授が著した『チョコレートはなぜ美味しいのか』(集英社新書)は、食品の美味しさや形状の変化を物性の側面から研究する「食品物理学」の基本と最新成果を、チョコレートなどを題材に紹介、解説している。
同書によれば、チョコレートの食感は、「ココアバター(カカオ脂)」の結晶構造で決まる。チョコレートの原料であるカカオ豆は発酵、乾燥、焙炒(ロースト)というステップを踏む。ローストした豆を細かく砕いたのが「カカオマス」だ。ココアバターはカカオマスから搾り出された脂である。典型的な固形のチョコレートはカカオマスや粉乳、砂糖をココアバターで固めたものだ。
以下は単純化した説明になるが、ココアバターの結晶は「I(1)型」から「VI(6)型」までの6段階に変化する。数字が大きな型の結晶が多く含まれるほど、チョコレートは固くなる。また、温度が低くなるほど大きい数字の型の結晶が増える。つまり、加熱すると溶け、冷やすと固くなるというチョコレートの性質は、ココアバターの結晶の変化によるものなのだ。
6種類のうち、もっとも美味しい、すなわち食感が優れているのは「V(5)型」だという。「IV(4)型」ではまだ柔らかすぎで「VI型」では固すぎ。「V型」の結晶の融点は約33度なので、夏以外の常温では溶けないが、口の中に入れると体温でうまくとろける。融点が約36度の「VI型」は「溶けなさすぎ」なのだ。冒頭に書いたように、冷やしすぎると「VI型」結晶の含有量の多い、ボソボソのチョコレートになってしまう。
したがって、美味しいチョコレートをつくる重要なポイントの一つは、いかに「V型」結晶を多くするか、ということになる。チョコレートを冷やして固める際の温度設定がキモになるのだが、これが簡単ではない。一気に冷やすと「V型」を通り越して「VI型」になってしまう。かといって冷やし方が足りないと「IV型」までで止まる。
さらに、ココアバターの結晶の変化は「不可逆」の性質があるという。たとえば冷却して「III(3)型」から「IV型」になった結晶は、加熱しても「III型」に戻らない。バレンタインデーに、市販のチョコレートを溶かして「手作りチョコ」をつくる女性は多い。しかし、上野教授によれば、実はこの方法では美味しいチョコレートを作るのは難しいのだ。市販のチョコレートの「V型」結晶を加熱して溶かしても「V型」のままであり、それを再び冷やすと「VI型」になってしまうからだ。
<次ぎのページ、カカオ豆不足は却って技術進歩のチャンス>
2月14日、バレンタインデー。もともとはローマ帝国の祝日が由来だそうだが、日本では「女性が男性にチョコレートを贈る日」として、すっかり定着している。
ところで男性の読者の方は、バレンタインデーに贈られたチョコレートをどうしているだろうか? もらったその日に食べてしまう人もいるだろう。しかし、ずっと好きだった人から初めてもらった時など、もったいなくてしばらく取っておきたいと思う人もいるかもしれない。
では、どうやって保存するか。今の季節ならば「常温で保存する」のが正解(ガナッシュや生チョコなど要冷蔵のものを除く)。経験した人もいるだろうが、冷蔵庫に長期間入れておくと、固くなりすぎてボソボソで不味くなる。さらに時間が経つと、「ブルーム」と呼ばれる白い粉が表面につき、見た目も悪くなる。
菓子メーカーの戦略?
もちろん夏場であれば、常温で放置してはいけない。確実に溶ける。手にくっつくほどベタベタになったチョコレートを美味しいと感じる人は稀だろう。もしかしたら、真冬の2月のバレンタインデーにチョコレートを贈る慣習をつくろうと目論んだお菓子メーカー(諸説あり)は、チョコレートの保存性のことまで考えていたのかもしれない。
「冷やしすぎる」あるいは「周囲が暑い」ことがチョコレートの美味しさを損なうという事実には、「食感(テクスチャー)」が関係している。カカオの風味や砂糖やミルクの配分など、チョコレートの美味しさを決める要素は他にもあるが、食感の重要度がきわめて高いのは間違いない。ここで言う食感とは、パリッと割れる、ほどよい固さのチョコレートが口の中でとろける感触を指す。その食感は、チョコレートという食品の物性(物質の持つ性質)によってもたらされる。
広島大学大学院の上野聡教授が著した『チョコレートはなぜ美味しいのか』(集英社新書)は、食品の美味しさや形状の変化を物性の側面から研究する「食品物理学」の基本と最新成果を、チョコレートなどを題材に紹介、解説している。
同書によれば、チョコレートの食感は、「ココアバター(カカオ脂)」の結晶構造で決まる。チョコレートの原料であるカカオ豆は発酵、乾燥、焙炒(ロースト)というステップを踏む。ローストした豆を細かく砕いたのが「カカオマス」だ。ココアバターはカカオマスから搾り出された脂である。典型的な固形のチョコレートはカカオマスや粉乳、砂糖をココアバターで固めたものだ。
6段階の結晶化のうち「5番目」がいちばん美味しい
以下は単純化した説明になるが、ココアバターの結晶は「I(1)型」から「VI(6)型」までの6段階に変化する。数字が大きな型の結晶が多く含まれるほど、チョコレートは固くなる。また、温度が低くなるほど大きい数字の型の結晶が増える。つまり、加熱すると溶け、冷やすと固くなるというチョコレートの性質は、ココアバターの結晶の変化によるものなのだ。
6種類のうち、もっとも美味しい、すなわち食感が優れているのは「V(5)型」だという。「IV(4)型」ではまだ柔らかすぎで「VI型」では固すぎ。「V型」の結晶の融点は約33度なので、夏以外の常温では溶けないが、口の中に入れると体温でうまくとろける。融点が約36度の「VI型」は「溶けなさすぎ」なのだ。冒頭に書いたように、冷やしすぎると「VI型」結晶の含有量の多い、ボソボソのチョコレートになってしまう。
したがって、美味しいチョコレートをつくる重要なポイントの一つは、いかに「V型」結晶を多くするか、ということになる。チョコレートを冷やして固める際の温度設定がキモになるのだが、これが簡単ではない。一気に冷やすと「V型」を通り越して「VI型」になってしまう。かといって冷やし方が足りないと「IV型」までで止まる。
さらに、ココアバターの結晶の変化は「不可逆」の性質があるという。たとえば冷却して「III(3)型」から「IV型」になった結晶は、加熱しても「III型」に戻らない。バレンタインデーに、市販のチョコレートを溶かして「手作りチョコ」をつくる女性は多い。しかし、上野教授によれば、実はこの方法では美味しいチョコレートを作るのは難しいのだ。市販のチョコレートの「V型」結晶を加熱して溶かしても「V型」のままであり、それを再び冷やすと「VI型」になってしまうからだ。
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