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ソニーが「プレステVR」へ参入を決めた瞬間

発売2年前、CEOの手元からコントローラーが落ちた
ソニーが「プレステVR」へ参入を決めた瞬間

ソニーはプレイステーションVRでゲームやそれ以外の新たな市場創出を狙う

 米ソニー・インタラクティブエンタテインメントの開発現場。仮想現実感(VR)ゲームのデモを終えたグローバル最高経営責任者(CEO)のアンドリュー・ハウスは、コントローラーを机に置いた。しかし置かれたはずのコントローラーは落下。開発担当者が慌てて受け止めた。机はVRに映し出された仮想上のものだった。

 人が頭に端末をかぶり、別の世界を体験する製品は、これまでになかった価値観だ。ハウスはVRの事業に慎重だったが、没入感の高さと魅力を肌で感じた。「これで行こう!」。2016年10月の「プレイステーション(PS)VR」発売から2年ほど前、事業への参入を決めた。

 PSVRは臨場感の高いゲームを体験できるだけでなく、生活や仕事の仕方を変える潜在性を秘める。ただ、確立された市場はない。

 ハウスは「VR制作ノウハウを幅広く共有しながら、まずはゲームで優良なコンテンツを育てることが非常に大きな一歩になる」と気を引き締める。ゲームで足場を築き、段階的に映画や音楽といった娯楽、さらにBツーB(企業間)分野へ広げる。PSの世界をゲーム外へ広げる取り組みは、この3年ほどの重要な方針だ。

 営業黒字が定着しつつあった中で、再び赤字に陥った13年。ソニーは「PS4」で、プレステを再定義した。「PSが世に出た当時の最初の精神」(ハウス)に立ち返り、開発初期の段階からゲームクリエイターと連携し、ゲーム機としての価値を追求した。

 またハードウエアやシステム構成に頼った差別化から脱却し、ネットワーク基盤を構築。配信制の動画や音楽など利用形態を広げ、ゲーム外の領域を取り込む「総合エンターテインメントハブ」を標榜(ひょうぼう)した。

 会員制サービスを軸に、コンテンツやサービスなどで継続的に稼ぐ「リカーリング型ビジネス」シフトも先駆的に実施。ネットワークビジネスは収益の柱となった。今後はゲームをしない人もメリットを感じるサービスを拡充し、さらなる会員数の増加を狙う。

 PSVRという新たなツールを得た今、再び“プレステ旋風”を巻き起こせるか。
(敬称略)
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2017年1月27日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
実際はいろいろな判断材料があって参入を決めたと思うが発売時期は結果的に絶妙だったと思う。久しぶりにソニーの事業で大きな可能性を感じるプロダクツ&サービスだ。

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