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モノづくり会社の自信を取り戻せるか。ソニー流「インダストリー4.0」の行方

工場に根付くDNAが製品に付加価値を生み出す
モノづくり会社の自信を取り戻せるか。ソニー流「インダストリー4.0」の行方

生産拠点の役割を明確にし、高付加価値のモノづくりを実現する(ソニー提供)

 手の中にすっぽりと収まる携帯型のアロマディフューザー。製品化に寄与したのは、長さ1センチメートルほどの筒状部品だ。わずか直径0・6ミリメートルの穴を複数備え、香りを保持する。製品を開発したソニーの藤田修二は、設計開発部隊が自らの発想を形にしていく様を見て「工場の人たちは超優秀。人材の厚さや技術力のすごさを知った」と感激を隠さない。

 この微小部品を生産するのは、国内外の生産を管理するソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO、東京都港区)。幸田サイト(愛知県幸田町)で開発した3次元(3D)プリンターを使い、微小部品の生産を実現した。

できないことがあれば自分たちで


 ここでは高精細レンズ用金型成形機など自前の製造装置が至る所で稼働し、製品に付加価値を生み出している。生産技術部門長の内木洋一は「できないことがあれば自分たちで作ってしまうDNAが根付いている」と胸を張る。ただ、数年前までは大きな経営的な課題もあった。

 「高付加価値にシフトする」。2013年、SGMO社長の岸田光哉は大号令をかけた。生産の海外移管が進む中、ピーク時に最大15カ所あった国内拠点は役割が薄まっていた。「日本でしかできないことをやろう」。構造改革を断行し、4拠点に機能を集約。稲沢サイト(愛知県稲沢市)は設計技術や高密度実装、幸田サイトは超精密加工、湖西サイト(静岡県湖西市)は業務用機器、木更津サイト(千葉県木更津市)は顧客サービスを担うことになった。

 稲沢サイトの2階には、柱や内壁を取り払った6000平方メートルの広大なフロアがある。そこにいるのは各地の事業所から集まった設計開発の技術者だ。担当していた製品は異なるが、技術者間の融合に一役買っている。岸田は「もともと製造装置を置いていた場所をそのまま利用した」と笑う。

 SGMOでは若手が生産技術力の高さをアピールすることが目立つようになってきた。「ソニーはモノづくりの会社なんだ」。そう自負する社員も増えた。「ソニーはいつの時代もチャレンジャーだ」。岸田は挑戦し続ける風土とそれを担う人材を育成しようと、日々現場を駆け回る。
                  


日本発の生産技術を標準化


 「日本は最先端の設計・生産を行う」。2016年4月、生産子会社のソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO、東京都港区)はこの役割を打ち出し、モノづくりの本拠地として始動した。

 国内外の生産拠点を統括するほか、調達などエレクトロニクス製品の生産関連機能を集約し一元的に管理する。ミッションは日本発の生産技術を標準化して海外拠点に導入し、効率と品質の両面からモノづくり力を底上げすること。SGMO社長の岸田光哉は使命の達成に向け「人と機械のバランス」を重視する。

 設計部隊や実装ラインを集約した稲沢サイト(愛知県稲沢市)には、高密度実装の標準化ラインがある。同じメーカーの装置で統一し運用した方が作業しやすいが、ここでは最新鋭の装置を優先した結果、工程ごとに3社の装置を導入した。サイト長の中崎光夫は「自前で実装機を開発していた歴史があるため、独自のツールでプログラムを一元化できる」と懸念を払拭(ふっしょく)する。

「人と機械の最適配分がの目指す姿」


 一方、精密加工を担う幸田サイト(愛知県幸田町)。一眼レフカメラ用交換レンズの組み立て工程は5―6割が人手だが、作業時の動きを数値化して機械に反映するなど自動化の検討を進めている。すでに自動化された工程もあり、その比率は少しずつ高まっている。

 使いにくい機械には人のノウハウを取り入れ、人の勘に頼っていた工程は機械化し高いレベルで生産技術を標準化する。幸田サイト長の川島良成は「人と機械の最適配分がソニーの目指す姿だ」と語る。タイの工場ではスマートフォン向け実装システムやデジカメ用レンズの生産に日本の技術を導入するなど、海外展開も進み始めている。

 モノづくり改革は人材育成にも及んでいる。SGMOの人材を積極的に海外工場に派遣。16年からはマレーシアやタイの留学生を採用し、日本で育てる取り組みにも着手した。岸田は「グローバルレベルで体制を一元化できたことが大きい」と効果を実感しつつある。ソニーの設立趣意書には「理想工場」の文言がある。その実現に向け、岸田は「ソニー流の『インダストリー4・0』を起こす」と笑顔で話す。モノづくりのマザー工場が大きなうねりを巻き起こしつつある。(敬称略)

 
日刊工業新聞2017/1/23/24日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
華やかな製品がクローズアップされがちなソニーですが、工場を訪れると「やはりモノづくりの力あってこそだな」と思い知らされます。優れた生産・設計技術はたくさん隠れていたけど、会社が規模を追う拡大基調の時代には、国内の生産拠点は単純に各事業部の”工場”の側面が強かったこともあったとか。 冒頭のコメントはそれを象徴しているように思います。生産現場で会った方々は皆さん、「ソニーのモノづくり」に並々ならぬ情熱を持っている人ばかりでした。改革は現場から。垂直方向の事業間融合が生まれてきた今、どんな製品が登場しソニーの経営に影響を与えるのか、楽しみです。

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