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エアバッグ向け繊維の新工場をベトナム作りたい旭化成。直面する課題とは

原料ー原糸一貫生産に踏み切るのか。原糸のみでは利幅が小さく
 旭化成はベトナムに自動車用エアバッグなどに使うナイロン繊維工場を2019年度にも新設する検討に入った。投資額は100億円規模になる。全世界でエアバッグ装着車台数が堅調に伸びる中で、エアバッグ関連メーカーのベトナム進出が相次ぐ。市場の安定成長が期待でき、素材の地産地消に向けて大型投資の必要性が高まっている。

 旭化成は現在、宮崎県延岡市の工場でエアバッグの原糸となるナイロン66繊維を製造している。ベトナム進出となればナイロン繊維では初の海外生産拠点となる。19年度にも稼働する予定。年産能力は当初1万―2万トンになるとみられる。17年度中に投資の最終判断を下す方針だ。

 ナイロン繊維はエアバッグの需要拡大に伴い、これまで延岡工場を増設してきた。16年に生産能力を1割増強したばかりだが、すでに能力不足に陥っている。

 このため18年にかけて約25億円を投じて、さらに能力を1割程度引き上げる見込み。ただ、工場の増設余地は少なく、大規模な増産のために需要地の東南アジアで候補地を探していた。

 世界のエアバッグ市場は安全意識の高まりから順調に拡大するほか、タカタのリコール(無償回収・修理)問題による代替特需も素材メーカーにとって追い風だ。ナイロン繊維はエアバッグ以外にタイヤコード(芯材)にも使われている。

 ただ、旭化成が手がけるのは原糸のみ。東洋紡や東レなどは原糸から生地まで一貫生産している。原糸のみの事業形態では、生地に比べ利幅が小さいため、大型投資は慎重に検討して決断する方針だ。

ファシリテーター・峯岸研一氏


 旭化成がエアバッグ向けナイロン66繊維「レオナ」をベトナムで生産する可能性が高まりました。レオナの強みは、原料のシクロヘキサノール―アジビン酸とシクロヘキサンジアミンーAH塩から原糸までを、ほぼ自社で一貫生産していることです。アジビン酸については自社独自のシクロヘキサン法で生産していることも見逃せません。しかも、重合は、日系同業他社の固相重合法と異なった連続重合紡糸法で、生産性に定評があります。

 世界のナイロン66繊維の生産メーカーは少なくありません。しかし、エアバッグ向けの主要メーカーとなると、旭化成、東レ、東洋紡の日系3社に、東洋紡グループのPHPとインビスタの5社に絞られます。韓国メーカーやPHP技術で中国・神馬グループも生産していますが、絶対量は僅かです。原糸が470dtx以下と産業資材向けとしては細物なのに、高強力性など厳しい品質要求に対応しなければならないことが挙げられます。
<続きはコメント欄で>
日刊工業新聞2017年1月23日
峯岸研一
峯岸研一 Minegishi Kenichi フリーランス
 旭化成は中国、フィリピン、タイで日系基布生産メーカー向けを中心に需要を拡大して来ました。さらに、タイに近いベトナムは日系メーカーによるエアバッグ基布―モジュール生産に加え、欧米メーカーの生産拡大や韓国メーカーがエアバッグ向け基布の本格生産を明らかにするなど、原糸需要の増加が予想されます。  こうした状況を見据え、新プラント建設に向けてF&Sを始めるわけですが、課題もあります。何といっても同社の強みである原料ー原糸一貫生産なのか、また国内と同様に連続重合紡糸か、バッヂ紡を採用するかなどです。エアバッグの需要拡大とともに、原糸生産においても新規参入が予想されます。その中で重要なのは自社の独自性と強みを、如何にして活かすことです。

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