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2020年への急務!観光県・沖縄がトップを走る「危機管理」とは?

2020年への急務!観光県・沖縄がトップを走る「危機管理」とは?

図上訓練には約100人が参加した

 2016年の入域観光客数が過去最高の861万人を記録した沖縄県。国内随一の観光県だが、誘客以外にも全国をリードする分野がある。「観光危機管理」だ。大規模災害発生時の観光客や観光産業に対する危機対応策で、このほど初めて「観光危機管理体制運用図上訓練」を那覇市内で実施した。

 観光危機管理がカバーするのは、自然災害だけでなく疫病や海外テロによる風評被害など幅広い。今回は直接的な災害被害として大地震を対象とした。最大規模の被害が予想される、沖縄本島南東沖を震源とするマグニチュード8・8の地震を想定。最大震度6強、最大津波高5・7メートルによる家屋倒壊や浸水で、県内各地で幹線道路の通行止めや停電などが発生したと設定。発災直後から2日目までの状況をイメージして、連絡調整や情報の収集・発信、観光客の避難誘導などを約4時間にわたりシミュレーションした。

 参加したのは県の観光行政部門、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB、那覇市)、県内市町村の観光・防災担当、ホテル事業者・組合など17機関から約100人。観光危機管理は観光客の避難や対応だけでなく、災害直後から産業復興に向けて動くのが特徴。今回も県庁に復興企画班を置く想定で進めた。

 沖縄県にとって観光をはじめとしたサービス産業は、県内総生産の4分の1以上を占める基幹産業。その経済の屋台骨を危機時に守ることを目的に、全国で初めて14年度に「県観光危機管理基本計画」、同じく15年度に「同実行計画」を策定。今回はそれに基づき初めて実施したものだ。

 訓練では運営側が災害状況を設定して随時知らせた。これに応じて参加者は、県の対策本部を筆頭に、県の各班、実行部隊であるOCVB、現場の市町村などが動き、連携体制を確認した。図上訓練であるため、実際に避難誘導などをすることはなかったが、行動の確認や情報の収集や伝達を行った。

 訓練後の課題として市町村担当者から多く聞かれたのが、自身の機関のマニュアル不備。また「住民より観光客の方が多い」という自治体もある中で、観光客の人数把握の難しさも挙がった。増加している外国人に対する、情報発信や通訳対応も解決策が必要とされた。

 観光客からの問い合わせ対応策の必要性も浮き彫りに。運営側は観光客役として、電話での問い合わせをあえて積極的に行っていた。担当者が限られる中で、被害状況の把握と同時に個々の問い合わせ対応を求められた。そのため自治体担当者からは「問い合わせに追われた」「対応の線引きが必要と感じた」など反省点が出た。問い合わせの“もぐらたたき”に振り回されないため、災害に即応したコールセンター設置なども検討すべきだという。

 このように見ていくと問題点ばかりのようだが、訓練の目的はこれら課題の洗い出しにある。「事前の想定通り動けた」との声もあったが、初動はマニュアル通り対応できていても、停電下にファクスで情報収集する内容になっているなど改善点が判明するケースもあった。訓練の成果だといえる。

 沖縄県の危機管理計画の策定にも携わり、訓練を監修した高松正人JTB総合研究所常務観光危機管理研究室長は「これまで実行計画という文字だけだったものが、訓練により行間までイメージできるようになった。また市町村の観光担当と防災担当が参加したことで、情報共有できるようになる」と評価する。沖縄県では今後も訓練を通じてさらなる体制を強化するとともに、県内自治体にも観光危機管理計画の策定を求めていく構えだ。
ニュースイッチオリジナル
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
観光危機管理において先頭を走る沖縄でも、一歩一歩進んでいる状況。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、全国的に対応を急ぐべきだと感じました。 また、災害時の観光客の把握という点では、最近急増している民泊が穴になりそう。と一瞬思いましたが、宿泊者がairbnbなどのサービスを介して予約していれば、むしろ一元的にデータを収集できる気もします。民泊がすでにサービスとして根付きつつある以上、自治体側は災害時に情報提供を受けるような体制もつくる必要がありそう。

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