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自動運転で「ニッポンの素材力」がさらに生きてくる

圧延銅箔にマルチマテリアル・・さらに技術を磨く
自動運転で「ニッポンの素材力」がさらに生きてくる

自動運転の普及で、より付加価値の高い圧延銅箔の出番が増えそうだ

 自動車業界に変革をもたらす自動運転。その普及は、自動車用素材を供給する鉄鋼・非鉄金属業界でも日本の技術力を生かせるステージを広げる。

 例えば、人や障害物を検知し、衝突防止につなげるミリ波レーダー。そのアンテナ基板向けに圧延銅箔(はく)を供給するのがJX金属だ。

 圧延銅箔は、現在、主流の電解銅箔に比べ、表面の円滑性に優れるため、その分、検知精度に悪影響を与える伝送損失を低減。圧延後に施す表面処理の施工性も改善する。JX金属は世界で唯一、銅鉱山開発から製錬、圧延、表面処理まで一貫体制を敷く。

 神戸製鋼所の川崎博也会長兼社長は「銅の配線や端子が増えるほど車体が重くなる。そうなると軽量化ニーズが一層高まる」とみる。鋼材と鉄より軽いアルミニウムを1社で提供できるのは世界でも同社のみ。強度を高め、肉厚を薄くすることで軽量化するハイテン(高張力鋼板)も得意だ。

 同社はハイテンとアルミを適材適所で使い分ける“マルチマテリアル”を数年前から提唱する。その最大の難関は鉄とアルミの接合。両素材の融点は異なり、溶接が非常に難しいためだ。

 欧米企業は高級車を中心にマルチマテリアルで先行しているが、鉄とアルミはビレットで留めたり、かしめを使ったり、機械的な接合がほとんど。コストが高く、大衆車ではハードルが高い。

「鉄・アルミ接合」、手法は秘中の秘


 神鋼は機械的な手法を採用せず溶接を主体とした「生産に優しい」(川崎会長兼社長)日本流マルチマテリアルを提案する。

 詳細は秘中の秘だが「溶接手法は抵抗、アーク、レーザーとあるし、ダイレクトに溶接するかどうか、いろいろ提案している」(同)と一端を明かす。それを実現できるのは鉄とアルミに加え、社内に溶接材料事業を併せ持つという強みがあるから。溶接ロボットなどを使う車体メーカーの現行設備をほとんど変えず、接合できる技術を目指す。

 鉄鋼大手はマルチマテリアルではなく、あくまでハイテンの高強度化で対応する考えだ。ただ、JFEスチールの柿木厚司社長は「鉄の周辺で他素材を使うことは想定しないといけない」と柔軟姿勢に転じる。

 その一つは日本勢が得意とする炭素繊維との連携。すでに水素ステーション用蓄圧容器では、鋼管の表面に三菱レイヨンの炭素繊維を何重にも巻き、強化した製品を試作した。

 これをハイテンに応用すれば自動車の骨格部品などに、より高強度の軽量部材を提案できる。鉄鋼と化学の両業界の連携で、日本発の複合素材を発信できる日は近い。
(文=大橋修、小野里裕一)

日刊工業新聞2017年1月13日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自動運転車よりもまずEVの普及で素材は大きく変わる。特殊鋼倶楽部の調査によると、EV化で特殊鋼の使用量が減る。多く使われるエンジン、排気処理装置、トルクコンバーターがなくなるのが主因。量が減るだけでなく、EVから耐熱鋼と快削鋼が消え、ステンレス鋼が大幅に減るなど鋼種の範囲も狭まる。EVの普及が進む2027年には計算上、最大41万トンの需要を失う可能性もあるという。その一方で多くの新素材が誕生する。日本の素材メーカーは先頭を走っているが、その地位を死守しなければいけない。これまで日本の完成車メーカーのプレゼンスの高さが素材や部品メーカーの競争力をけん引してきたが、EV・自動運転時代の競争環境の変化に乗り遅れないようにしないと。

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