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医療費が増えも病院は儲からない…現行保険制度そろそろ限界?

 最近、新聞などで話題になっている抗がん剤のオプジーボは、1人につき年間3000万円とも言われている大変高価な薬です。患者さんが実際に負担する費用は、その人の収入などによって一概にいくらとは言えませんが、かなり低く抑えられています。

 私見ながら、医療費が増え続ける中、現在の保険制度をこのまま維持するのは難しいと考えています。例えば、病院を受診する時の負担は、医療費の1割から3割になります。高額療養費制度で負担上限は10万円前後(収入によって変わります)と決められていますので、実際の負担割合はさらに低くなります。先端医療の中には多額の費用が発生するものがいくつもあります。患者さんが負担する以外の費用は健康保険などから補います。全体で見れば保険料だけでは足りないために国が負担しています。

 保険を受けられる医療の制限、あるいは国民皆保険制度そのものの見直し、そういったことを考える時期なのかもしれません。これは制度を決めるだけの話ではなく、国民全体で「医療とは何か」を考えることも必要ではないでしょうか。

 2017年度の国の予算編成が進められています。予算の中で医療費が占める割合は、16年度では、総額96兆7000億円に対して、社会保障費は31兆9000億円、つまり約3分の1を占めています。そして、医療費は11兆2000億円ですから、社会保障費のさらに約3分の1になります。思ったよりも少ないと感じた方もいらっしゃるかもしれません。総額としては毎年増えているものの、超高齢社会を迎え必要とされる医療も増える中、本来必要だった額からすれば抑制される一方というのが病院の実感です。

 国の借金は、いまや1000兆円とも聞きますので、緊縮財政の必要性は理解できます。しかし、抑制するにしても、安易に金額云々(うんぬん)だけで進める話ではないと思います。

 余談になりますが、医療費が増えているとなると、病院はさぞ儲(もう)かっていると思われるかもしれませんが、そんなことは全くありません。都内病院の約半数が赤字というデータもあります。それでも、職員は一生懸命に日々の医療に取り組んでいます。

 そうした中で医療費抑制といわれると、オリンピック施設費用など、無駄遣いに見えるものも多くあるのに何とも納得がいかない…と、つぶやきが遠吠えになってしまいました。失礼いたしました。
(文=医療法人社団和風会理事長 石田信彦)
日刊工業新聞2017年1月13日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
国外に住む友人から、歯医者にかかっただけで高額の医療費を請求され愕然とした、という話を聞きました。その時は「日本でよかった」と思っただけでしたが、医療費の現状を見ると、いつか日本もそうなってしまうのだろうかと考えさせられます。

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