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オフィス街の緑地はなぜ暑さを和らげるのか?「地球シミュレータ」で解明!

緑を生かした街づくり進む
オフィス街の緑地はなぜ暑さを和らげるのか?「地球シミュレータ」で解明!

丸の内パークビルの中庭の様子

 都市部のオフィス街にある緑地は都市の高温化を和らげ、快適な都市環境を実現する上で欠かせない空間だ。ただ、緑地がもたらす気温の低温化現象などのメカニズムは解明されていない。そこで三菱地所設計と竹中工務店海洋研究開発機構(JAMSTEC)は共同で、スーパーコンピューター「地球シミュレータ」を使って緑地の低温化現象をシミュレーションし、その要因を解明した。今回の成果により、緑地を生かしたより快適性の高い空間づくりが進むことが期待される。

 【東京・丸の内で】
 オフィス街にある緑地は、ビルに囲まれた空間の中で暑さや熱気を和らげるのに寄与している。その緑地が具体的にどのような低温効果を持っているのか。こうした問題意識の下、三菱地所設計と竹中工務店は2012年、13年の夏季に都心の「丸の内パークビルディング」(東京都千代田区)の中庭を対象に気温の低下効果を検証した。
 同ビルは三菱地所設計が設計し、竹中工務店が施工した。中庭に芝生があり、最も高い木で高さ約17メートルに達するなど緑豊かな一画。そこで夏季の夜間気温、樹木が茂っている部分の温度、風向・風速などを観測。その結果、中庭で気温低下が生じ、その要因が樹木にある可能性が出てきた。

 この具体的なメカニズムを解明するため、JAMSTECが地球シミュレータ上で精緻な熱環境のシミュレーションを行った。地球全体や特定地域など、さまざまな規模で気象や海洋の現象を計算できるマルチスケール大気海洋結合シミュレーションモデル(MSSG)を活用。これに植物の葉の表面から水蒸気が放出される蒸散のほか、日射や熱放射などの放射が熱を伝える効果や、樹木が熱を遮り風を弱める効果などを計算に組み入れた。

 【複雑環境に対応】
 熱環境をシミュレーションできるソフトはすでに発売されている。ただ「複雑な都市環境を対象に刻々と変わる温度変化をパーフェクトには再現できない」(松田景吾JAMSTEC地球情報基盤センター先端情報研究開発部地球シミュレーション総合研究開発グループ研究員)と、今回のシミュレーションモデルの優位性を強調する。
 シミュレーションは13年8月7日21時―8日3時を対象に実施。2キロメートル四方を5メートルの解像度で実施したが、2時―2時半は500メートル四方を1メートルの解像度とし、時間の経過に合わせて風向や気温の変化を計算。時間は0・1秒刻みとした。

 【中庭効果裏付け】
 その結果、中庭内の気温が道路沿いに比べて顕著に低下することを確認。樹木の放射冷却と蒸散により葉の表面温度が低下し、空気が冷却することが判明した。実際の観測で示された気温低下を再現し、裏付けることとなった。

 JAMSTECの松田氏は今回の成果について「3者の協力により可能になった」と指摘する。三菱地所設計が丸の内ビルの設計監理、竹中工務店が気象観測の測定・分析、JAMSTECが熱環境のシミュレーション―と役割を分担。正確なシミュレーションを行う上で設計図面のデータを活用できたほか、実際の観測データを基に現場の変化を推測して、シミュレーションモデルに反映することもできた。今後、三菱地所設計は建物の建築前に樹木などの配置をシミュレーションしてその効果を確認できるように、簡単に使える汎用ソフトの開発を検討する。竹中工務店は建築計画を作成する上で、居住空間に隣接した場所に緑地を配置し、快適性の向上に役立てる考えだ。
 JAMSTECも都市の高温化問題に取り組む自治体の街づくりにシミュレーション技術を生かす意向をみせる。
(村山茂樹)
(日刊工業新聞2015年05月25日 モノづくり面)
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
都会のオアシスが活躍する季節がやってきます。仕事で疲れているときに緑を見ると、リフレッシュ、リラックスできるなど、温度を下げる以外にも効果がたくさんありそうです。

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