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くまモンの“上司”が明かす人気の理由

蒲島郁夫熊本県知事の「卓見異見」
くまモンの“上司”が明かす人気の理由

(C)2010熊本県くまモン

 くまモンは、今や国内のみならず、海外にまで活躍の場を広げている。
 
【莫大な経済波及効果】

 2011年3月の九州新幹線全線開業に伴い、熊本に人を呼び込む仕掛けを考える中で、“おまけ”として登場したくまモンは、最初は一過性のものだと考えていた。ここまでくまモンが人気者になったのには、三つの要因があると思っている。一つ目は、生みの親である小山薫堂さんと水野学さん、このお二人が一流であったこと。二つ目は、お金がない中で、職員が一生懸命考え、ツイッターやフェイスブックなどを活用して広めたこと。三つ目は、くまモン自身の成長である。自ら努力し、すばらしいキャラクターになっていく。そこが大きい。

 前回、くまモンは「目標の政治」の一つであると書いた。蒲島県政の目標は「県民総幸福量の最大化」である。県民の幸福量を高めるためには、「経済的豊かさ」、「誇り」、「安全安心」、「夢」、この四つの要因が最も重要だと考えている。そして、くまモンは、この四つのいずれの要因にも貢献する存在なのである。

 一つ目の「経済的豊かさ」。日銀熊本支店によると、くまモンが熊本県に及ぼした経済波及効果は、11年11月から2年間で1244億円、PR効果は90億円以上である。また、くまモンの関連商品の売り上げは、14年には643億円に上るなど、莫大(ばくだい)な経済的効果をもたらしている。

 二つ目の「誇り」。ある民間企業の調査によると、くまモンは今や、ミッキーマウスやハローキティと同じくらいの認知度、好感度を誇る。くまモンを通して熊本県が注目され、知名度が上がることで、熊本県民がプライドを持つようになる。

 三つ目の「安全安心」。くまモンが福祉施設を訪問し、子どもやお年寄りとふれあうことで、心の安らぎにつながっている。交通安全や消防・防災の啓発にも一役かっている。

 【「しあわせ部長」の職務】

 四つ目の「夢」。くまモンは最初臨時職員だったが、今では営業部長兼しあわせ部長である(ダイエット失敗の罰として、6月まで部長代理に降格)。NHK紅白歌合戦や歌舞伎座の舞台にも立った。すごい出世である。また、熊本が全国に、全世界に今、フロンティアを開拓しつつある。ドイツのシュタイフ社がテディベアくまモンを作成し、1体3万円で1500体発売されたところ、5秒で売り切れたのである。また、フランスのバカラ社はクリスタルくまモンを、BMWはくまモンMINIを作成するなど、海外企業とコラボレーションが実現している。これは「夢」につながる。

 くまモンは、使用料無料の「楽市楽座」戦略により、今後もその共有空間をさらに拡大させ、人々の幸福に貢献していくのである。
 
【新戦略生み出す時期に】

 私は職員に、「皿を割ることを恐れるな」と言い続けている。くまモンは、その失敗を恐れずに挑戦する精神から生まれた政策でもある。そして最近では、「第二のくまモンを探せ」と指示している。くまモンのようなキャラクターをつくるのではなく、くまモンのように県民総幸福量を最大化させる政策を打ち出そうという意味である。阿蘇地域の「世界農業遺産」登録は、その有力候補である。観光振興や農産物ブランド化により経済的豊かさが向上し、県民のプライドにも貢献、そして阿蘇の農産物は安全安心であり、将来「世界文化遺産」になるかもしれないという夢もある。熊本県は「第二のくまモン」を発掘しながら、「県民総幸福量の最大化」に向けて全力で取り組んでいるのである。

【略歴】かばしま・いくお 1979年米ハーバード大院修了。政治経済学博士。筑波大教授を経て、97年東大法学部教授。2008年熊本県知事就任、現在2期目。著書に『私がくまモンの上司です』など多数。熊本県出身、68歳。
 
 ※「卓見異見」は毎週月曜日に日刊工業新聞で4人の執筆陣が交代でユニークな視点でさまざまなテーマを取り上げています
日刊工業新聞2015年05月25日 パーソン面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
くまモン人気はいまだ衰えず、というかまだまだ加速中という感じです。ただ、大阪の土産物店で、くまモングッズを普通に売っているのを見たときはちょっと複雑な気持ちになりましたが…。

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