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2017年、“この世界の片隅で” 日本は何を発信していくのか

 「年の初めのためしとて 終わりなき世のめでたさよ」―。正月休みをぐうたらに、のんびりと過ごした。おせちを肴(さかな)に飲み、惰眠をむさぼった。

 夢を見た。初夢ではなく昼寝の時だったかも知れない。遅ればせながら、年末にアニメ映画『この世界の片隅に』を見たせいだろう。原作はこうの史代さんの同名コミック。

 舞台は第2次大戦下の広島と呉。主人公は18歳で呉に嫁いだすず。東洋一の呉軍港を爆撃する米軍機に、大切な人やモノを奪われながらも、こつこつと前向きに生きる姿を描いている。全編にホンワカとしたムードが漂い、戦争を忘れる。それが哀しさを一層増幅させる。

 戦争に大義などない。主義主張も、宗教も、文明も繁栄も、人類の生存が優先する。すずは「うちらはその(戦争の)記憶の器としてこの世界にあり続けるしかないんですよね」と空を見上げる。戦争を知る世代が、今年も一人また一人といなくなる。政府は自衛隊の海外活動に“駆けつけ警護”を付与した。新しい世代の戦争証人をつくろうとでもしているのか。

 アニメ『この世界の片隅に』はじわりと観客動員数を伸ばしている。『君の名は。』には及ばないが、世界15カ国以上での上映が決まっているという。
日刊工業新聞2017年1月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
すでに劇場で2回見た。ネタバレになるのであまり詳しくは書かない。誰かがこれまで見た映画の中で、原爆投下に最もリアリティーがあったと記していた。単なる戦争映画ではない。日常を描いているかこそのリアリティー。エンディングロールでクラウドファンディングに参加した人の名前がすべて出てくる。そこでもまた胸が熱くなる。映画の内容と同じく日本人のしやなやかな心を見た。

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