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新日鉄住金社長インタビュー「我々は米国のラストベルトとは違う」

「錆びて古くなった設備をもう一度、ここで再構築する」
 円安や株高の進行で明るさを取り戻しつつある日本経済。ただ、年明け早々、米国のトランプ新大統領就任による政策転換をはじめ、中国経済の構造転換、欧州連合(EU)の不安定化など不安要因がめじろ押しだ。金属や化学、繊維、製紙など素材業界のトップは激変が予想される2017年をどのように展望しているのか。初回は新日鉄住金の進藤孝生社長に、海外情勢や鉄鋼業界の動向を中心に聞いた。

 ―ドナルド・トランプ米大統領就任をはじめ、四つのリスクを指摘されています。
 「それに加え、欧州の保護貿易主義の高まり、中国の過剰能力・過剰債務問題、そして為替だ。仮に四つのリスクが発現しても鉄鋼業への影響は少ない。むしろ我々の顧客へのマイナスを心配している。ただ、世界の鉄鋼マーケットは底堅い。鋼材の消費量も緩やかだが、前年を上回る」

 ―トランプ氏には期待する声もあります。
 「減税と財政出動で景気はかなり刺激される。ただ、果たして“ラストベルト”の疲弊した中間層の後押しになるだろうか。米国が国内生産を増やせばコストは上がり、インフレ要因になる。整合性をどう取るのか。また、製造業の復活には外から投資も呼び込まないといけない。一朝一夕にはいかない」

 ―中国の構造調整に向けた動きは評価されています。
 「昨年はその問題に取り組む体制が整った1年だった。年末には世界各国で話し合うグローバルフォーラムの第1回会合にもこぎ着けた。中国自身も過剰能力の削減に乗り出している。こうした動きには期待したいし、我々も協力する。時間はかかるが、この問題の解決がない限り、日本はおろか世界の鉄鋼業の繁栄はない」

 ―そうした中、会社の業績は厳しい局面にあります。
 「現行の3カ年経営計画のうち2年が終わろうとしている。当初の見通しより環境が様変わりした。下方ケースも想定していたが、それすらも下回る激変ぶりだ。特に原料炭の上昇(16年10月にそれまでの2倍以上に急騰)を考えると、財務的な目標の達成は厳しい。だが『こういう企業体質をつくるんだ』と掲げたことは着々と進んでいる」

 ―国内製造基盤の再構築や人への投資などには予定通り、資金を投じていますね。
 「当社の製鉄所の設備は多くが40年以上経過している。ラストベルトとは違って、我々は錆びて古くなった設備をもう一度、ここで再構築する。人についても採用を増やし、団塊世代の大量退職に適切に対処している」
(聞き手=大橋修)
日刊工業新聞2017年1月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
国内の製鉄所で取り組む製造基盤強化とラストベルトの対比は、今更ながらだがユニークな視点。進藤社長だけでなく日本の鉄鋼関係者は、投資を怠ってきたが故に衰退したラストベルトへは一様に辛辣(しんらつ)だ。加えて、米国主導のグローバリズムに追い立てられ、海外展開を迫られた身としては、今の保護主義の高まりを“リスク”の一言だけで片付けられない複雑な思いもあろう。 (日刊工業新聞第ニ産業部・大橋修)

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