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「健康年齢」が若ければ保険料を安く。長寿リスクに向き合う

文=斎藤勝利(第一生命ホールディングス会長)
 世界有数の長寿国である日本―。ところが本来、喜ばしいことであるはずの長寿が、手放しで喜べない昨今だ。公的年金の給付水準は抑制が見込まれ、会社員の老後資金の柱のひとつである企業年金も設置率が減少傾向にある。

 先進国に共通する「長寿リスク」―。米国も同様で、ベビーブーム世代の高齢化に伴い年金受給世代の資産枯渇問題が注目されるようになった。こうした中、注目を浴び、販売額を伸ばしているのが終身年金の一種である「長寿年金」である。

 この年金は、長生きするほど生涯にわたり高い年金額を受け取れる。比較的小さな資金で「超高齢期」の生活資金を確保できることが訴求点だ。年金支払い開始前に死亡すれば、保険料は掛け捨てとなるが、低金利下で自己資金を増やせる運用環境にない日本においても、終身年金の価値が見直されてもよいのではないか。

 いかに資産を残すかに力点が置かれてきた従来の発想とは対極にある。しかし、年金受給開始前に他の資産を使い切ってしまったとしても超高齢期の生活資金を確保できる点においては、自助努力が一層求められる時代、マクロ経済にも非常に裨益する仕組みと考える。

 米国のある生命保険会社では、例えば50万ドルの資産を持つ65歳男性に対し「資産の9割は伝統的な投資商品に投資し、残り1割を85歳年金支払い開始の長寿年金に加入」するよう推奨している。

 さらに社会保障制度の持続可能性を担保するには適正受診の推奨や、発病してから治療するだけでなく病気にならない自助努力を促す施策も重要だ。

 そんなコンセプトを商品化したのが第一生命グループのネオファースト生命が12月に、発売した医療保険「カラダ革命」。実年齢ではなく、健診データをもとに算出する「健康年齢」が若ければ保険料が安くなるという新しい価値観を導入した。

 「健康年齢」は3年ごとに見直されるため、加入者が運動や食事など生活習慣を通じて健康増進に取り組む動機付けにもなる。

 安心で持続可能な社会保障制度の実現には、公的負担のあり方や財源についての一層の議論が求められる。加えて、健康分野の成長産業化、個人の自助努力や企業の健康経営を促す施策では民間活力や知恵が生かされる余地が大きい。われわれは事業を通じて、健康寿命の延伸に貢献していきたい。
                      

(第一生命ホールディングスの斎藤勝利会長)
日刊工業新聞2016年12月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
平均寿命と健康寿命の差がもたらす負のインパクトは、社会にも大きくのしかかる。厚労省の推計では、社会保障費のうち医療給付費は、2012年度の35.1兆円から、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年には54.0兆円に拡大すると指摘。介護給付金(19.8兆円)と合わせると社会保障給付費全体の49.5%を占め、年金(40.6%)を超える規模になると目されている。 斎藤藤会長は社会保障制度の抜本改革が先送りされてきたことに強い危機感を持つ。その背景には、負担構造の実態が正しく認識されていない一因もあるという。「健保組合や協会けんぽなど「被用者保険」から高齢者に振り向けられる支援は医療、介護合わせて年間10兆円に迫る。健保組合の保険料収入に占める高齢者医療への負担割合は平均4割を超え、半分を超える健保組合も全体の約2割に上る。現行の枠組みはもはや限界に近い」(斎藤会長)

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