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「繊細にして、大胆」早くも自身の進退に言及したシャープの戴社長

東証1部再上場後に社長退任へ。後任は日本人に
「繊細にして、大胆」早くも自身の進退に言及したシャープの戴社長

戴社長

 シャープの戴正呉社長(写真)は5日、東証1部への上場復帰を果たした後で社長を退任する意向を示した。自身の進退について「東証1部に復帰したら台湾に戻る」と述べた。後任は日本人に任せる考えだが、シャープ外部からの登用も検討する。

 戴社長は11月に開いた会見で、2017年度に当期黒字化を果たし、遅くとも18年度には東証1部に復帰したい考えを表明していた。シャープは16年3月期が2559億円の当期赤字となって債務超過に陥り、同年8月に東証2部に降格した。その後、台湾・鴻海精密工業などから出資を受けて債務超過を解消、業績も回復しつつある。ただ、主力の液晶事業は赤字の状態で経営再建には不安要素もある。

日刊工業新聞電子版2016年12月5日



「緊張感は生半可なものじゃない」


 「繊細にして、大胆」―。取引銀行幹部の戴社長に対する人物評だ。鴻海グループ副総裁でもある戴社長の経営管理面の細かさや厳しさは、誰もが認めるところだ。シャープ幹部も「戴社長がいるときの緊張感は生半可なものじゃない」と明かす。繊細さは社員に向けられる人心掌握術にも表れている。

 鴻海による買収の完了と前後して、経営企画本部の福井博之執行役員、太陽電池や複写機事業を率いた向井和司常務執行役員、家電事業の小谷健一執行役員ら「男(おとこ)気がある」と社内で慕われた幹部が次々と会社を去った。人材流出は鴻海の買収が決まる以前から続く深刻な問題。日本電産クボタなど関西企業の受け皿もあり、歯止めがきかない状況だ。

 戴社長はこの状況に機敏に反応。人望は厚かったがすでに電子部品メーカーに転職していた中山藤一専務に復職を呼びかけ、複写機事業のトップに復帰させる配慮をみせた。

 また、シャープは14年以降、2回に渡って中期経営計画が破綻。旧経営陣の発言に重みがなくなり、社内外で企業としての信用を失いつつあった。戴社長はその空気を感じ取り、創業の地に建つ旧本社地区ビルの買い戻しを有言実行。その上で、18年度テレビ販売1000万台という高い目標を示し、「必ず成し遂げよう」と呼びかけ、自らのリーダーシップを明快に示した。

 一方、「繊細さ」とともに兼ね備えるという「大胆さ」は、その行動力に表れている。戴社長は大阪市内の社員寮に入居し、社員と一つ屋根の下で生活を始めた。役員報酬も受け取らず、早朝に出社して経営危機に立ち向かう姿をみせた。

 戴社長の大胆さがさらに発揮されそうなのは、今後に本格化するリストラ局面だ。社員向けメッセージでも「資産の有効活用や過剰設備の撤廃などさまざまな観点から費用対効果を追求する」と明言している。16年度下期以降の黒字化の足かせになる拠点や事業は思い切って改革するとみられる。人員については「削減でなく適正化する」と発言を抑え気味だが、管理職手当の廃止やインセンティブ制度の検討も始まり「信賞必罰」の徹底を着々と進めている。

 戴社長による鴻海流シャープ再生劇の幕は上がった。自ら掲げた「ワン・シャープ」の言葉通り、全社をまとめ上げ、復活を果たせるか。戴社長の手腕が社内外から注目される。
日刊工業新聞2016年11月2日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
自身では当初からの考えでしょうが、あえてここで発言するのは経営陣、社員への危機感共有とモチベーション向上もあるでしょう。

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