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「科研費」12年間連続で首位、一橋大が考える社会科学の未来

蓼沼宏一学長に聞く「来年度から他学部科目を必修化する。」
「科研費」12年間連続で首位、一橋大が考える社会科学の未来

蓼沼学長

 社会科学系の一橋大学は理系や医学部を抱える大学に比べると予算規模は小さく、企業との共同研究も小規模だ。だが国の科学研究費助成事業(科研費)の新規課題採択率は51・6%と12年間連続で首位にあり、研究の質は高い。社会の改善に資する実学研究と専門職業人の育成で社会貢献を目指す。蓼沼宏一学長に構想を聞いた。

 ―自然科学は基礎研究と応用研究の投資配分で揺れています。社会科学の状況は。
 「社会科学には三つの側面がある。社会経済現象がどのように起きているのか解明する純粋科学としての側面と、共通益を最大化するための制度や政策を究明する応用科学としての面、利害対立やジレンマの中で衡平や正義を追究する道徳科学としての面だ」

 「消費税の増税に当てはめると、増税で価格変動や生産への影響を解明するのが純粋科学。増税による財務破綻回避など国民の共通益を探るのが応用科学。負担の大小と衡平性、正義にかなうか検証するのが道徳科学だ。基礎か応用かではなく社会課題の解決には俯瞰(ふかん)的に社会を見る力が求められている」

 ―1人の教員でカバーできる範囲には限界があります。異分野連携の体制は。
 「一橋は学部間の壁がほぼ存在しない。教育では学生に幅広く深い教養を身につけてもらうため、2017年度から他学部科目を必修化する。研究では、社会科学高等研究院を中核に、学際研究を進める。医療政策・経済研究センターでは経済や保険、経営などの視点から超高齢社会の医療や介護、社会保障を研究する。東京医科歯科大学の医療実務、東京工業大学の医療工学の専門家と連携する」

 「産業技術総合研究所とも包括連携協定を結んだ。産総研が技術、一橋が経営を教え、科学と技術、ビジネスをつなぐ人材を育てる」

 ―新分野開拓は。
「先端数理情報科学を使った社会分析の教育プログラムと、観光産業などの高度経営人材の育成を構想中だ」
【略歴】
蓼沼宏一(たでぬま・こういち)84年(昭59)一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。89年米ロチェスター大学大学院経済学博士号取得。90年一橋大専任講師、92年助教授、00年教授、11年大学院経済学研究科長。東京都出身、57歳。
日刊工業新聞2016年12月1日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
一橋大は社会科学の中でも実学研究と教育を追求してきた。その価値を知るのは卒業生だ。OBが授業や研究に事例を提供するなど、現場と学術をつなぐサイクルがある。課題は人脈の理系への拡大だ。理系は技術開発と社会受容性の整合が必要だ。これに応えることが第一歩になる。 (日刊工業新聞科学技術部・小寺貴之)

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