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「アクセラレーター×自治体」 地域ごとに起業支援の芽

起業家と共に起業家を支援できる人材の育成が必要に
「アクセラレーター×自治体」 地域ごとに起業支援の芽

「デモデイ」でアピールするグレーアンドネイビーの中村社長

 東京都が2015年度に始めた短期集中型起業家育成事業「青山スタートアップアクセラレーションプログラム」の活動が勢いを増している。受講生の第2期生9社が11月8日、投資家や大企業約100社を前に投資などを呼びかける卒業発表「デモデイ」を開き、事業プランを発表。第3期生の活動も始まった。自治体や民間、大学など支援側も活性化してきた。ベンチャーブームの今、起業支援の現状を追った。

 創業支援施設「青山スタートアップアクセラレーションセンター」(東京都渋谷区)で開かれたデモデイでは、資金調達や共同開発募集など9社が9様の支援を訴えた。感性アルゴリズムAI技術を使ったサービスを展開するリトルソフトウェア(東京都渋谷区)の川原伊織里社長は、ペットの猫が安らぐ音や、自動車の運転者向けに眠気を回避させる香り(アロマ)を開発したことなどをアピール。脳波を最適化できる商品として教育に関する『集中モード』を共同開発する企業の募集を呼びかけた。

 ペットボードヘルスケア(東京都港区)の堀宏治社長は複数社を起こした“連続起業家”で、今回、資金調達の協力者を求めた。有機ペットフードとペットの健康管理アプリ、自動給餌機能を持つIoT(モノのインターネット)デバイスを組み合わせた国内初のペットヘルスケアIoTサービスを提供する予定で「ペットフードを購入すればハードウエア代を事実上無料にする」と宣言した。

 持ち手がアルミ削り出しの歯ブラシ「BYTAPS」の定期配送サービスを展開するグレーアンドネイビー(東京都渋谷区)の中村友憲社長は、17年に海外展開を計画する。そもそも市場自体がないため、自ら市場創出にも乗り出す。デザインと使いやすさに敏感で意識の高い人向けに「新しい当たり前をつくり、日常生活を変えていく」と強気だ。

日刊工業新聞2016年11月28日



大阪でも動き出すエコシステム


 大阪市のベンチャー支援が軌道に乗り始めた。創業期のベンチャー企業を勉強会や交流会などを通じて支援する「シードアクセラレーションプログラム」の第1期生となる起業家10人が4カ月間のスケジュールを終え、6社が資金調達に成功するなど大きな成果をみせた。11月には第2期がスタートする。中小企業の町である大阪から、ますます多くのベンチャー企業が飛び立つことが期待される。

 「マスコミへの露出が増え、テレビ番組の出演で話題になり、月間販売台数が3倍になった」と、あっと(大阪市中央区)の武野團社長は喜ぶ。同社は健康状態をチェックする毛細血管血流観測装置「血管美人」を手がける。プログラムの最大の成果について「普通なら会えないベンチャーキャピタリストから助言をもらい、ネットワークが広がった」と武野社長は話す。

 同プログラムでは大企業や投資家、各種専門家など約70人がメンター役となり、ベンチャー起業家へ専門的なアドバイスなどで支援する。大阪市が2013年4月、ベンチャーキャピタリストや銀行、起業家などさまざまな人が出会い、支援を受け、大きく育つ場として大阪駅近くに開設した拠点「おおさかイノベーションハブ」を主な活動の場とする。

 腰痛患者にオンラインで最適な対策の提案や優良治療院の紹介を行うサービス「ポケットセラピスト」を展開するバックテック(京都市下京区)の福谷直人社長は「10人程度だったユーザーが4カ月で約20倍の200人になった」と振り返る。効果的な広報によって新聞や雑誌などメディアへの露出も増えた。資金調達面では、サイバーエージェント・ベンチャーズ(東京都渋谷区)との第三者割当増資の契約も進み、動画コンテンツの追加や新しいアプリ開発に励む。

 プロのワンポイントアドバイスで野球やゴルフの上達を目指すアプリ「スポとも」を開発しただんきち(大阪府摂津市)は、ABCドリームベンチャーズ(大阪市福島区)から約2000万円を資金調達したほか、「事業提携に向けてネットワークが広がった」(与島大樹社長)という。現在水面下で進んでいる提携の話もあるといい、「自分たちの成長がプログラムへの一番の恩返し」(同)と意気揚々だ。

 首都圏に比べ関西にはベンチャーキャピタリストの数も圧倒的に少ないのが課題だが、同様の取り組みは大阪府や神戸市、京都市でも始まった。今回のプログラムで資金調達に成功した6社の、出資と借り入れを含めた総額は2億600万円。大阪市の吉村洋文市長は「わずか4カ月で2億円以上のお金が動いたのは大きな成果。2期3期と続け、大阪発イノベーションの創出と、起業家が新たな起業家を育てるエコシステムを目指したい」と意気込みをみせる。
第1期の成果発表会には吉村市長(右から6人目)も駆けつけた

日刊工業新聞2016年10月20日



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前田亮斗
前田亮斗 Maeda Ryoto
海外でもtechstarsなどのアクセラレーターが自治体と組んで多くのアクセラレーションプログラムを行って積極的にベンチャー企業の育成に取り組んでいる。日本でも神戸市が500startupsというシリコンバレーのベンチャーキャピタルと組みアクセラレーションプログラムを行っているほか、大阪市も独自のシードアクセラレーションプログラムを行っている。政令指定都市クラスはもちろん、地域の特色を活かしたそれぞれのアクセラレーションプログラムが展開できれば各地から多くの有望ベンチャーが生まれる可能性は高い。起業家と共に起業家を支援できる人材の育成が必要。

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