ベトナムの工場は一本立ちできるか。現調率でタイとまだ大きな開き
裾野産業じわり成長も、政府の支援薄く
ベトナムの裾野産業がじわり育ちつつある。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ベトナムに進出した日系企業の原材料・部品の現地調達比率は、2010年度の2割から15年度は3割に上昇した。日系企業が積極的に現地調達を増やそうと、地場企業の育成に注力している点が奏功している。ただ、現調率が5割のタイや6割の中国と比べるとまだ一定の開きがある。ベトナム政府は、もう一段の裾野産業の育成が欠かせない。
「11年に4社だったベトナムのサプライヤー(部材供給会社)が16年は20社になった」。トラックの過積載計量器メーカー、タナカ・スケール・ベトナム(ドンナイ省)の長谷川英利社長はこう笑顔をみせる。
工業用計量器で東南アジア諸国連合(ASEAN)ナンバーワンを目指す同社は、ベトナムに根付くことを意識している。そのために地場企業を積極的に活用しており、計量器に使う曲げ加工を施した鉄材などを現地調達している。
当初は地場企業に対し、鉄材が輸送過程で傷付かないよう「樹脂フィルムで製品を梱包する」(長谷川社長)ような基礎的な作業まで教え込んだという。注文をつけることで地場企業は腕を磨き、その繰り返しで品質は向上する。まだ大半の部材は周辺国から輸入しているが、既存サプライヤーを育てつつ新規開拓にも取り組み、現調率を高めていきたい考えだ。
スポーツ用グローブが主力のトライオン(大阪市中央区)もベトナム工場(カントー市)で現調率の向上に励む。まずは製品に直結しない梱包用の段ボール資材をベトナムで調達。バーコードなどが書かれた製品タグは、工場のあるベトナム南部のカントー市でつくれるよう取り組んだ。
製品タグの場合、印刷が雑だと製品まで安っぽく見えてしまう。意外に見過ごせないアイテムで、「地元カントー市に重要性を訴え、地場企業への高性能な印刷機の納入支援を依頼した」(ベトナム工場の中村素行ゼネラルマネージャー)。
同市に進出している日系企業はまだ1社しかなく、市政府も協力姿勢をみせた。従来は大都市ホーチミンから取り寄せていたものを徐々にカントー市に置き換えつつある。
「これで4度目の試作品。まずまずの出来だ」。やや複雑な樹脂成形品を片手に満足そうなのは、医療用分析機器のアペレ(埼玉県川口市)ベトナム法人で働く長谷川徹也ゼネラルディレクター。
血液検査に使う装置の外枠部分に、ベトナムメーカーの樹脂成形品が使えないか挑戦中だ。性能を左右するコアの電子部品は日本から輸入するが、それ以外はベトナムでの調達を検討していく。
(樹脂成形品を手にするアペレの長谷川ゼネラルディレクター)
ベトナムの裾野産業に詳しい三菱総合研究所の櫻田陽一主席研究員によると、ベトナムは輸入原材料の70―80%を中国に依存し、輸入品から現地生産への切り替えが喫緊の課題という。
完成品向けのコア部品を扱う1次下請けはベトナムに進出した日系や台湾系の企業が占め、「地場企業は3次下請けのネジや梱包(こんぽう)材メーカーが多い」(櫻田主席研究員)。
ベトナム企業が難易度の高い製品をつくれない理由として、現地で企業支援の国際協力機構(JICA)ボランティアとして活動する村上隆一氏は「中小企業の機械設備の75%が中古品」である点を指摘する。その中古品もほとんどメンテナンスがなされておらず、「本来の性能の半分ぐらいしか出せない」(村上氏)という。
中国の発展過程と比較すると、「中国政府は有力な中小企業に対し、資金を投入してドイツ製の最新鋭機械をどんどん導入した」(同)。中国企業の技術指導にあたっていた日本の中小企業は瞬く間に追いつかれ、日本に帰国してより複雑な製品の開発を余儀なくされたという。対して、ベトナムの場合、「政府が予算不足から企業を十分支援できていない」(同)と映る。
同じくJICAボランティアとして活動する新小田満氏は「裾野産業の中でも自動車用鋼板、高機能樹脂、アルミニウムがないのが課題」と語る。台湾の素材大手、台湾プラスチックがベトナム中部に大型製鉄所を建設し鋼板の現地生産を進めているが、外資頼みの状況だ。
今後の方向性として、三菱総研の櫻田氏は「日本の中小企業の発展に貢献した公設試験研究機関(公設試)がベトナムにも必要」と指摘。すでに似たような機関はあるものの機械が貧弱で職員のレベルも高くないことから「日本が積極的に支援していくべきだ」(櫻田氏)と訴える。
(文=大城麻木乃)
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地場企業じっくり育成
「11年に4社だったベトナムのサプライヤー(部材供給会社)が16年は20社になった」。トラックの過積載計量器メーカー、タナカ・スケール・ベトナム(ドンナイ省)の長谷川英利社長はこう笑顔をみせる。
工業用計量器で東南アジア諸国連合(ASEAN)ナンバーワンを目指す同社は、ベトナムに根付くことを意識している。そのために地場企業を積極的に活用しており、計量器に使う曲げ加工を施した鉄材などを現地調達している。
当初は地場企業に対し、鉄材が輸送過程で傷付かないよう「樹脂フィルムで製品を梱包する」(長谷川社長)ような基礎的な作業まで教え込んだという。注文をつけることで地場企業は腕を磨き、その繰り返しで品質は向上する。まだ大半の部材は周辺国から輸入しているが、既存サプライヤーを育てつつ新規開拓にも取り組み、現調率を高めていきたい考えだ。
スポーツ用グローブが主力のトライオン(大阪市中央区)もベトナム工場(カントー市)で現調率の向上に励む。まずは製品に直結しない梱包用の段ボール資材をベトナムで調達。バーコードなどが書かれた製品タグは、工場のあるベトナム南部のカントー市でつくれるよう取り組んだ。
製品タグの場合、印刷が雑だと製品まで安っぽく見えてしまう。意外に見過ごせないアイテムで、「地元カントー市に重要性を訴え、地場企業への高性能な印刷機の納入支援を依頼した」(ベトナム工場の中村素行ゼネラルマネージャー)。
同市に進出している日系企業はまだ1社しかなく、市政府も協力姿勢をみせた。従来は大都市ホーチミンから取り寄せていたものを徐々にカントー市に置き換えつつある。
「これで4度目の試作品。まずまずの出来だ」。やや複雑な樹脂成形品を片手に満足そうなのは、医療用分析機器のアペレ(埼玉県川口市)ベトナム法人で働く長谷川徹也ゼネラルディレクター。
血液検査に使う装置の外枠部分に、ベトナムメーカーの樹脂成形品が使えないか挑戦中だ。性能を左右するコアの電子部品は日本から輸入するが、それ以外はベトナムでの調達を検討していく。
(樹脂成形品を手にするアペレの長谷川ゼネラルディレクター)
輸入原材料の7-8割を中国に依存
ベトナムの裾野産業に詳しい三菱総合研究所の櫻田陽一主席研究員によると、ベトナムは輸入原材料の70―80%を中国に依存し、輸入品から現地生産への切り替えが喫緊の課題という。
完成品向けのコア部品を扱う1次下請けはベトナムに進出した日系や台湾系の企業が占め、「地場企業は3次下請けのネジや梱包(こんぽう)材メーカーが多い」(櫻田主席研究員)。
ベトナム企業が難易度の高い製品をつくれない理由として、現地で企業支援の国際協力機構(JICA)ボランティアとして活動する村上隆一氏は「中小企業の機械設備の75%が中古品」である点を指摘する。その中古品もほとんどメンテナンスがなされておらず、「本来の性能の半分ぐらいしか出せない」(村上氏)という。
中国の発展過程と比較すると、「中国政府は有力な中小企業に対し、資金を投入してドイツ製の最新鋭機械をどんどん導入した」(同)。中国企業の技術指導にあたっていた日本の中小企業は瞬く間に追いつかれ、日本に帰国してより複雑な製品の開発を余儀なくされたという。対して、ベトナムの場合、「政府が予算不足から企業を十分支援できていない」(同)と映る。
同じくJICAボランティアとして活動する新小田満氏は「裾野産業の中でも自動車用鋼板、高機能樹脂、アルミニウムがないのが課題」と語る。台湾の素材大手、台湾プラスチックがベトナム中部に大型製鉄所を建設し鋼板の現地生産を進めているが、外資頼みの状況だ。
今後の方向性として、三菱総研の櫻田氏は「日本の中小企業の発展に貢献した公設試験研究機関(公設試)がベトナムにも必要」と指摘。すでに似たような機関はあるものの機械が貧弱で職員のレベルも高くないことから「日本が積極的に支援していくべきだ」(櫻田氏)と訴える。
(文=大城麻木乃)
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日刊工業新聞2016年11月24日