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幸せだと長生きするのは本当か?

不健康で不幸でも長生きする。ひたすら自身で健康増進に努めよ
 10年前、京都の桂川の遊歩道で当時54歳無職の息子さんが、86歳の認知症の母親の首を絞めて殺害、自身も死のうとした認知症母殺害心中未遂事件がありました。地方裁判所の判事が泣き、行政の不備を指摘しました。しかし、現在でも介護にまつわる悲しい事件は多発しています。

 日本は世界最高水準の長寿国で、世界最速で超高齢社会に突入した国です。これほど誇らしいことはないはずなのに、現実の空気は明るくはありません。歳をとる負の部分ばかりが気になって、不安が広がっています。秦の始皇帝が不老長寿を願った昔から「老いや死への不安」は人類の普遍的問題でした。今私たちが直面しているのはそんな不安ではありません。

 10月22日、都民公開講座でロコモティブシンドローム(略称ロコモ〈運動器症候群〉)の話をしました。ロコモとは運動器(骨、関節、筋肉など)の障害のため「立つ」「歩く」などの機能が低下している状態です。

 進行すると介護が必要になるリスクが高くなるので、日本整形外科学会は2007年からこの概念を提唱し、周知に努めています。しかし、16年3月の時点で認知度は47・3%、国の要請である80%にはほど遠く、少々焦っているところです。

 Lancetという医学誌に「幸せだと長生きするとは本当か?」という論文が発表されました。「幸せだと、免疫や代謝が活性化するので寿命が延びる」という仮説を、70万人10年間のデータを解析し得た結論は、“不健康は不幸の原因となる可能性はあるが、幸福度は総死亡率に影響しない”というものでした。不健康で不幸でも長生きするということです。

 25年には都内の75歳以上の人口が200万人近くになります。現在でも、私の病院がある品川区の高齢者の独居世帯は38・1%、高齢者夫婦のみの世帯と合わせると60%を超えています。

 一方介護施設や療養向け病院は不足しています。急性期病院から在院日数制限に追われ退院し、不十分な回復で家に戻っても自宅で家族に見守られ生活できる人がどれほどいるでしょうか。

 不健康で不幸でも長生きしてしまうのです。介護は、いつ誰が当事者になっても不思議ではありません。あなた方の身近で“介護疲れ”、“殺人”、“心中事件”、“孤独死”などが起こるかもしれません。超高齢社会は「自分の健康は自分で守る」、「ひたすら自身で健康増進に努めるしか方法は無い!」と導入で話したら、“つかみ”は最高でした。
(文=横山孝・公益財団法人河野臨牀医学研究所附属第三北品川病院理事長) 
日刊工業新聞2016年11月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「幸せ」と「不幸」は相対的なものであって、個人個人の中では意識しなくてもそれを繰り返している。バイオリズムというみたいなものか。確かにその変数の中で健康の割合はかなり大きいのは確か。老いとどう向き合うか。平均寿命は延びたが、健康寿命も延びなければ、社会全体の「空気」は悪くなる。

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