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トランプ政策に固唾を呑む自動車業界。警戒感と期待感と

メキシコへの投資優先度は明らかに低下する?フォードも名指しで批判
トランプ政策に固唾を呑む自動車業界。警戒感と期待感と

トランプ氏と開催中のロサンゼルス自動車ショー

 米次期大統領のトランプ氏の政策に、自動車業界が神経をとがらせている。トランプ氏が主張してきた北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しは各社主力の北米事業に打撃を与えかねず、米フォードモーターはけん制。日本勢は成り行きを注視する。一方で、トランプ氏が掲げる減税やインフラ投資が市場を活性化するという期待感も少なくない。

 16日(現地時間)開幕した「ロサンゼルスモーターショー」。会場で記者団の取材に応じたホンダの神子柴寿昭専務執行役員は「(政策が見えるまでは)仮の話はできない」と明言を避けた上で「コスト競争力が高いメキシコは生産拠点として非常に重要だ」との認識を示した。

 ホンダはメキシコで生産する小型車やスポーツ多目的車(SUV)を米国に年間約10万台輸出する。その規模は米国販売の1割弱を占める。メキシコから米国の輸出に関税が課されることになれば影響は小さくない。

 同じくメキシコに工場を持つマツダ幹部も会場で「現時点で影響は分からないとしか言えない」としながらも「先行きが不透明なのは確かだ」とし、事態の推移を注視している。

減税やインフラ投資で販売活性化も


 現地報道によれば、フォードのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)は、米工場の小型車生産をすべてメキシコに移転する計画に変わりはないと表明。トランプ氏はフォードがメキシコへの投資を加速していることで米国の製造業と雇用を脅かしているとして、同社をたびたび名指しで批判していた。

 浜銀総合研究所の深尾三四郎主任研究員は「メキシコへの投資優先度は明らかに低下する」とみる。自動運転やつながる車など業界環境がこれまでにないスピードで変化する中で「経営資源を何に投下すべきか決めるのに時間はない。トランプ氏の政策の方針転換が明らかになるまでの時間的コストは大きい」と分析する。

 一方で、トランプ氏の政策に期待する声もある。米国の新車市場はピークアウトしたとの見方が大勢だが、IHSオートモティブによれば、トランプ氏の政策によって1―2年後ろにずれる可能性がある。「減税やインフラ投資が実現すれば消費者購買を再活性化するのでは」との見方だ。

 米自動車工業会は燃費規制の緩和を求める要望書を新政権発足チームに提出した。カリフォルニア州の「排ガスゼロ車(ZEV)規制」に代表される米国の厳しい環境規制は自動車各社の開発資源を圧迫しており、規制緩和が実現すれば、朗報だととらえる企業もある。

 IHSオートモティブはトランプ氏の政策が「自動運転技術のルールや、燃費や排気など車業界における規制上の問題に影響を与える可能性がある」とも指摘。市場規模で世界2位の米国の動向は世界が注目しており、自動車業界をめぐるトランプ氏の発言に各社はしばらく敏感になりそうだ。

(ロサンゼルスのハイウェイ)

LAモーターショー、 SUVに存在感


 16日開幕した「ロサンゼルスモーターショー」では、スポーツ多目的車(SUV)の初公開が相次いだ。米市場はガソリン安 を追い風にSUVを含む「小型トラック」の販売拡大が続き、「需要動向が鏡に映っている」(日本車幹部)ようなムードだ。

 マツダは主力SUVの「CX―5」の全面改良モデルを披露した。マツダのデザインテーマ「魂動」の新たな赤系ボティーカラーを採用し、操縦性を高める制御技術「Gベクタリング」を搭載した。「お客さまが得る体験はさらに素晴らしいものになる」と毛籠勝弘専務執行役員は仕上がりに自信をみせた。

 伊アルファロメオは同ブランドで初となるSUV「ステルビオ」を初公開。日産自動車は映画スターウォーズとコラボレーションした演出でSUV「ローグ」を発表し会場を盛り上げた。

 ホンダも年内に発売予定のSUV「CR―V」の全面改良モデルを展示、トヨタ自動車は新型SUV「C―HR」の市販モデルを17日に初披露。米国市場は成長が鈍化しているが、小型トラック市場は拡大している。今後も小型トラックの需要が続くと見られ各社がSUVを訴求している。
(文=池田勝敏<米カリフォルニア州・ロサンゼルス>)
日刊工業新聞2016年11月18日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
経営が社内リソースの配分に優先順位を付けることならば、大きな不確定要素が入ってきたことになる。ひとまずこの半年、1年はその変数は大きくなる。より大きいメーカー(グループ)が有利になるのではないか。

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