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日本の板ガラス産業は生き残れるか。経産省は再編促すが・・

市場縮小と新興国過の過剰生産に苦しも、各社は独自路線で改革へ
日本の板ガラス産業は生き残れるか。経産省は再編促すが・・

旭硝子鹿島工場の溶融窯。需給ギャップの解消が課題

 日本の板ガラス産業は少子高齢化による市場縮小や新興国の過剰生産にさらされ、厳しい事業環境が続く。メーカーは化学品や電子材料に多角化を計り苦境の板ガラス事業を補うが、抜本的な改革は避けて通れない。特に国内の板ガラス市場は過剰設備の様相が色濃く、経済産業省が再編を促す事態となったが、メーカーが大同団結する動きはない。日本の板ガラス事業をどう立て直すのか。旭硝子など主要3社の戦略を探った。

出荷額40%減


 経産省は2015年6月、旭硝子、日本板硝子、セントラル硝子の国内板ガラスメーカー3社に対して、過剰設備の統廃合を求める報告書を公表した。特定の業界に生産設備の削減などを促す「産業競争力強化法」に基づく措置で、石油精製、石油化学に次ぐ3例目だ。

 同省の試算によると、国内の板ガラス出荷額は住宅着工や自動車販売の減少を背景に90年をピークに減少し続けている。14年度の出荷額は90年度と比べ、約40%も減った。

 生産量と生産能力のギャップも開き続けており、14年度のギャップは約26万トン(同年の推定生産量は110万トン)。30年度のギャップは14年度比で最大2・7倍に拡大すると推定され、この時期に現有能力の40%程度は余剰になると見ている。

 同省は生産工程に大差がなく、大きな投資が必要な上工程の素板(もといた)製造の共同運営を促し、広がるギャップを解消させる考え。供給を絞ることで製品価格を上向かせ、低い利益率の好転を目指す。

 これには、国内の石化業界で実績があり、複数社で設備を一体運営する「有限責任事業組合(LLP)」方式を選択肢の一つとして挙げる。

 国内生産首位・旭硝子の板ガラス事業の営業利益率は14年12月期に0・1%。15年12月期はやや上向いたが、1・9%に留まる。

「メーカーのプライドでもある」


 国内市場を分け合う3社は、経産省の発表から1年半が経とうとしている今も再編に向けた動きをみせない。旭硝子の島村琢哉社長は将来的な再編の可能性に含みを残すが、「経産省の提言は真摯(しんし)に受け止め検証していく」と述べるに留まり、慎重な姿勢を堅持する。

 「技術に大差はないとはいえ、素板製造(溶融窯の自社保有)は板ガラスメーカーの根幹部分。各社が培ったノウハウも詰まっており、メーカーのプライドでもある」。あるメーカー関係者は、再編に向けて足並みがそろわない背景をこのように話す。

 需給バランスを整え製品価格を上げる必要性を感じながらも、長らく販売競争を繰り広げてきた他社と生産の“中核”を共有することに対する抵抗感は少なからずあるようだ。

 3社は板ガラス事業の利益率の引き上げを喫緊の課題に抱えつつ、再編には慎重だが、共通して強調するのは製品の「高付加価値化」だ。新興国との競合が激しい低加工品の生産を縮小し、付加価値品の研究・開発に経営資源を傾ける。

 業界には「日本側が素板の供給調整を行ったところで新興勢力の攻勢は避けられない」との見方もあり、新興国を引き離す加工技術をさらに高度化し、独自路線を強化する狙いもある。

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日刊工業新聞2016年11月9日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
世界シェア首位の旭硝子は81年にベルギーの板ガラス製造大手、グラバーベルを買収。同2位の日本板硝子も06年に英ピルキントンの大型買収を実施したほか、セントラル硝子も仏大手サンゴバンと業務提携するなど、一時、日系メーカーが世界市場で攻勢をかけた。特に象徴的だったのは「小が大をのみ込んだ」日本板硝子の6000億円を投じたピルキントン買収。グローバル化に道を開いたが、この10年の期間中、2人の外国人社長は途中で辞任し、業績を見れば必ずしも成功したとは言いがたい。 中国の過剰生産問題は鉄鋼だけの問題ではない。板ガラス以外にも化学、石油精製、紙、造船など数多い。さらに欧米では保護主義が一段と高まる可能性が高く、日本企業は悠長な事は言ってられない。

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