日本のトンネル掘削、最新技術
四角形シールドマシンで掘削断面最小限に
鹿島は堺市北区の高速道路のトンネル工事で、四角形のシールドマシン「アポロカッタ」による施工を始めた。円形のシールドマシンと比べ掘削断面を最小限に抑えられる。地盤形状の変形を抑える充填(じゅうてん)剤も活用する。
一般の生活道路への影響を極力少なくし、都市部における地下空間を構築する。
アポロカッターによる施工区域は、阪神高速大和川線常磐工区。地表部分から掘り下げる開削トンネル350メートルと、出入り口ランプ376メートルを構築する。掘削する幅、深さともに最大で38メートル。
当初は出口ランプ部も開削工法による構築を予定していたが、近隣住民への影響を考慮し、シールドマシンによる非開削工法に変更した。
掘削機構はカッターヘッド、揺動フレーム、公転ドラムで構成。カッター部分が小さく高速回転するため硬質な地盤でも掘削できる。
鹿島は25日、岩手県釜石市で施工中のトンネル工事において、発破を使ったトンネル掘削工法であるNATM(ナトム)による大断面トンネル(掘削断面積110平方メートル以上)で、国内最高となる月進270メートルを達成したと発表した。期間は2016年6月14日―7月14日までの31日間。これまでの記録は、前田建設工業が16年2月に達成した232・5メートルだった。
鹿島が国内最高を達成した工事は、「国道45号唐丹第3トンネル工事」。11年3月11日に起きた東日本大震災からの復興リーディングプロジェクト「三陸沿岸道路」の一部となるトンネル。延長は2998メートルで、幅員は12メートル。
同社は同トンネルの工事で、一度の発破による掘進距離の確保や、リアルタイムでの掘削作業の時間把握による段取り調整などを実施。さらに、故障に備えた複数機械の配置、コンクリート吹き付け作業の効率化など、さまざまな施工の合理化に向けた取り組みを行った。
安藤ハザマは、古河ロックドリル(東京都中央区、三村清仁社長)、マック(千葉県市川市、宮原宏史社長)と共同で、人工知能(AI)を用いて山岳トンネルの掘削面の安定度を自動的に予測するシステムを開発し、現場での運用を始めた。
掘削面の不安定箇所を確実に把握でき、作業の安全性を向上できる。
安藤ハザマなどが共同開発した新システム「TFS―learning(ラーニング)」は、掘削面に爆薬を詰めるための穴を掘る時に得られるデータを用いて、掘削面を目視観察して評価した点数を基に、掘削面の安定度を自動予測する。山口大学の進士(しんじ)正人教授が開発を指導した。山岳トンネル工事の現場に展開していく。
具体的には、生物の進化を模倣してデータ構造を変形、合成、選択する遺伝的プログラミングを活用。爆薬用の穴を掘削する時のデータと、掘削面を目視観察して評価した点数を機械学習する。
そこから数理モデルを構築し、発破後の掘削面の安定度を予測。施工データを蓄積するごとに機械学習し、数理モデルを随時更新する。
大林組は山岳トンネルの掘削面前方の予測結果を取り入れた3次元(3D)モデリング技術、コンストラクション・インフォメーション・モデリング(CIM)システムを開発した。
機械による削孔などのデータと、ボーリングにより崩落の可能性がある岩石の予測をCIMデータに取り込んだ。地質の“見える化”により、施工の効率化と安全性の向上を目指す。
新システムは、1秒ごとに得られる削孔データの解析値を折れ線グラフで図化し、3D―CADに取り込みモデル化する。掘削前に当初予定した現場と、実際の現場状況について違いを明確化。必要に応じて、トンネルの荷重を支えるため仮設する支保工の配置を修正できる。
また、ボーリングによって得た画像から、崩落可能性のある岩石をシステム上で明確にでき、適切な対策を検討できる。新システムはすでに、複数のトンネル工事で適用している。
清水建設は山岳トンネルの施工で、掘削時に発生する振動の反射波を利用し、掘削面前方50―100メートル先の地盤状況を3次元(3D)的に探査するシステムを開発した。掘削作業を実施しながら地盤探査でき、システムの設置から計測、撤収まで30分以内に行える。「先進ボーリング」と組み合わせることで、掘削面の前方探査を効率的に実施でき掘削工程への影響と費用を最小限に抑えられる。
清水建設が開発した新システム「S―BEAT」は、トンネル内で観測した振動データから地盤の反射面の位置を推定する反射法弾性波探査を応用し、地盤の状況を予測する。
具体的には、トンネルの側壁に打ち込んだロックボルトに、5―6メートル間隔で5本のロックボルト頭部に受振センサーを設置。油圧ブレーカーが掘削面で打撃する時に発生する振動について、直接伝わる直接波と岩盤に反射して戻る反射波を受振センサーで測定する。
打撃振動の速度を基に、反射波が伝わった距離を算出。振動が発生した発振点と、反射波をとらえた複数の受振点のデータから共通の反射点を割り出す。
さらに、反射波の到来方向も合わせて総合評価することで、反射点の3D分布を予測。地盤の硬軟や断層の存在などを推定できる。2カ所のトンネル工事で実証し、1カ所のトンネル工事で適用した。
先進ボーリングは地盤状況を直接確認できるが、掘削作業を中断するほか高額の費用がかかる。S―BEATは掘削作業と同時並行で実施できるため初期費用も低額で、日常的に地盤探査が可能。
詳細な調査が必要な場合にボーリングすることで掘削工程への影響と費用を最小限に抑えられる。
熊谷組は11日、西尾レントオールと共同で、山岳トンネル工事におけるコンクリートの吹き付け作業を、遠隔操作できる技術を開発したと発表した。重機を遠隔操作する無人化施工技術を活用。掘削面への吹き付けを、モニターカメラを見ながら離れた場所で施工できるようにした。作業員の安全性向上や、粉じんの暴露を防げる。
新開発の技術は、コンクリート吹き付け機に3台のカメラを設置した。うち2台は、トンネル掘削面に岩盤を支える支保工の立て込みを行う棒状のブームに1台ずつ搭載し、従来の作業者の目線を確保した。残り1台はキャビン上方に搭載し、吹き付け箇所全体を把握できる。
作業員はLANケーブで接続されたモニターカメラの動画を見ながら、吹き付け機を操作して施工する。九州新幹線の第1岩松トンネル(長崎県大村市)などの工事で実効性を確認した。今後は山岳トンネル工事における、コンクリート供給設備の遠隔操作技術の開発に取り組む。
日立造船は韓国SK建設から、シールド掘進機2機を受注した。韓国の鉄道トンネルの建設工事向けで、受注額は数十億円規模とみられる。1号機は出荷済みで、2号機は6月中旬に出荷する。シールド掘進機は日本市場では長期的には縮小が見込まれ、各社とも海外展開を加速している。日立造船は海外生産も視野に入れ、世界首位のドイツ・ヘレンクニヒトを追撃する。
韓国での受注は今回で3件目。受注した2機は、韓国鉄道公社の慶全本線釜田駅と馬山駅間を結ぶ鉄道トンネル工事向け。釜山広域市内から金海市内までの32・7キロメートルのうち、大渚2洞から2路を約4400メートルずつ掘削する。
納入するのは泥土圧タイプの掘進機で、口径は7・89メートル。堺工場(堺市西区)で製作した。泥土圧タイプは、土質条件に幅広い適応性を持ち、長距離や曲線施工なども高い安全性・経済性を持つ。
日立造船はこれまでに、シールド掘進機を米国や中国、シンガポール、インドなど海外向けに100機以上を納入した。日本国内を合わせると、1200機以上の実績を持つ。
日本ではリニア新幹線の着工や、2020年の東京五輪に伴う高速道路整備などで、足元の需要は増えている。ただ長期的な事業拡大には、中国やインド、東南アジアなど海外市場の深耕が不可欠だ。
シールド掘進機事業が属するインフラセグメントの2016年3月期売上高見通しは260億円。全社売上高の約7%と比率は大きくはないが、世界的な需要は伸びる傾向にあるため、同社は重要分野の一つに位置づけている。
口径10メートル以上の大口径掘進機を扱える日本企業は、日立造船のほか、IHIとJFEエンジニアリング(東京都千代田区)が設立したジャパントンネルシステムズ(JTSC)、川崎重工業、三菱重工業(JTSCに合流予定)の4社のみ。世界シェアはヘレンクニヒトが圧倒的に高く、日本勢は顧客開拓の余地が多い。
一般の生活道路への影響を極力少なくし、都市部における地下空間を構築する。
アポロカッターによる施工区域は、阪神高速大和川線常磐工区。地表部分から掘り下げる開削トンネル350メートルと、出入り口ランプ376メートルを構築する。掘削する幅、深さともに最大で38メートル。
当初は出口ランプ部も開削工法による構築を予定していたが、近隣住民への影響を考慮し、シールドマシンによる非開削工法に変更した。
掘削機構はカッターヘッド、揺動フレーム、公転ドラムで構成。カッター部分が小さく高速回転するため硬質な地盤でも掘削できる。
日刊工業新聞2016年10月12日
国内最高の月進270m
鹿島は25日、岩手県釜石市で施工中のトンネル工事において、発破を使ったトンネル掘削工法であるNATM(ナトム)による大断面トンネル(掘削断面積110平方メートル以上)で、国内最高となる月進270メートルを達成したと発表した。期間は2016年6月14日―7月14日までの31日間。これまでの記録は、前田建設工業が16年2月に達成した232・5メートルだった。
鹿島が国内最高を達成した工事は、「国道45号唐丹第3トンネル工事」。11年3月11日に起きた東日本大震災からの復興リーディングプロジェクト「三陸沿岸道路」の一部となるトンネル。延長は2998メートルで、幅員は12メートル。
同社は同トンネルの工事で、一度の発破による掘進距離の確保や、リアルタイムでの掘削作業の時間把握による段取り調整などを実施。さらに、故障に備えた複数機械の配置、コンクリート吹き付け作業の効率化など、さまざまな施工の合理化に向けた取り組みを行った。
日刊工業新聞2016年8月26日
AIで安定度予測
安藤ハザマは、古河ロックドリル(東京都中央区、三村清仁社長)、マック(千葉県市川市、宮原宏史社長)と共同で、人工知能(AI)を用いて山岳トンネルの掘削面の安定度を自動的に予測するシステムを開発し、現場での運用を始めた。
掘削面の不安定箇所を確実に把握でき、作業の安全性を向上できる。
安藤ハザマなどが共同開発した新システム「TFS―learning(ラーニング)」は、掘削面に爆薬を詰めるための穴を掘る時に得られるデータを用いて、掘削面を目視観察して評価した点数を基に、掘削面の安定度を自動予測する。山口大学の進士(しんじ)正人教授が開発を指導した。山岳トンネル工事の現場に展開していく。
具体的には、生物の進化を模倣してデータ構造を変形、合成、選択する遺伝的プログラミングを活用。爆薬用の穴を掘削する時のデータと、掘削面を目視観察して評価した点数を機械学習する。
そこから数理モデルを構築し、発破後の掘削面の安定度を予測。施工データを蓄積するごとに機械学習し、数理モデルを随時更新する。
日刊工業新聞2016年10月12日2016年11月2日
3Dモデリングで崩落を予測
大林組は山岳トンネルの掘削面前方の予測結果を取り入れた3次元(3D)モデリング技術、コンストラクション・インフォメーション・モデリング(CIM)システムを開発した。
機械による削孔などのデータと、ボーリングにより崩落の可能性がある岩石の予測をCIMデータに取り込んだ。地質の“見える化”により、施工の効率化と安全性の向上を目指す。
新システムは、1秒ごとに得られる削孔データの解析値を折れ線グラフで図化し、3D―CADに取り込みモデル化する。掘削前に当初予定した現場と、実際の現場状況について違いを明確化。必要に応じて、トンネルの荷重を支えるため仮設する支保工の配置を修正できる。
また、ボーリングによって得た画像から、崩落可能性のある岩石をシステム上で明確にでき、適切な対策を検討できる。新システムはすでに、複数のトンネル工事で適用している。
日刊工業新聞2016年8月31日
掘削と地盤探査を同時に実現
清水建設は山岳トンネルの施工で、掘削時に発生する振動の反射波を利用し、掘削面前方50―100メートル先の地盤状況を3次元(3D)的に探査するシステムを開発した。掘削作業を実施しながら地盤探査でき、システムの設置から計測、撤収まで30分以内に行える。「先進ボーリング」と組み合わせることで、掘削面の前方探査を効率的に実施でき掘削工程への影響と費用を最小限に抑えられる。
清水建設が開発した新システム「S―BEAT」は、トンネル内で観測した振動データから地盤の反射面の位置を推定する反射法弾性波探査を応用し、地盤の状況を予測する。
具体的には、トンネルの側壁に打ち込んだロックボルトに、5―6メートル間隔で5本のロックボルト頭部に受振センサーを設置。油圧ブレーカーが掘削面で打撃する時に発生する振動について、直接伝わる直接波と岩盤に反射して戻る反射波を受振センサーで測定する。
打撃振動の速度を基に、反射波が伝わった距離を算出。振動が発生した発振点と、反射波をとらえた複数の受振点のデータから共通の反射点を割り出す。
さらに、反射波の到来方向も合わせて総合評価することで、反射点の3D分布を予測。地盤の硬軟や断層の存在などを推定できる。2カ所のトンネル工事で実証し、1カ所のトンネル工事で適用した。
先進ボーリングは地盤状況を直接確認できるが、掘削作業を中断するほか高額の費用がかかる。S―BEATは掘削作業と同時並行で実施できるため初期費用も低額で、日常的に地盤探査が可能。
詳細な調査が必要な場合にボーリングすることで掘削工程への影響と費用を最小限に抑えられる。
日刊工業新聞2016年8月10日
コンクリ吹き付けを遠隔操作
熊谷組は11日、西尾レントオールと共同で、山岳トンネル工事におけるコンクリートの吹き付け作業を、遠隔操作できる技術を開発したと発表した。重機を遠隔操作する無人化施工技術を活用。掘削面への吹き付けを、モニターカメラを見ながら離れた場所で施工できるようにした。作業員の安全性向上や、粉じんの暴露を防げる。
新開発の技術は、コンクリート吹き付け機に3台のカメラを設置した。うち2台は、トンネル掘削面に岩盤を支える支保工の立て込みを行う棒状のブームに1台ずつ搭載し、従来の作業者の目線を確保した。残り1台はキャビン上方に搭載し、吹き付け箇所全体を把握できる。
作業員はLANケーブで接続されたモニターカメラの動画を見ながら、吹き付け機を操作して施工する。九州新幹線の第1岩松トンネル(長崎県大村市)などの工事で実効性を確認した。今後は山岳トンネル工事における、コンクリート供給設備の遠隔操作技術の開発に取り組む。
日刊工業新聞2016年7月12日
韓国の鉄道向けシールド掘進機受注
日立造船は韓国SK建設から、シールド掘進機2機を受注した。韓国の鉄道トンネルの建設工事向けで、受注額は数十億円規模とみられる。1号機は出荷済みで、2号機は6月中旬に出荷する。シールド掘進機は日本市場では長期的には縮小が見込まれ、各社とも海外展開を加速している。日立造船は海外生産も視野に入れ、世界首位のドイツ・ヘレンクニヒトを追撃する。
韓国での受注は今回で3件目。受注した2機は、韓国鉄道公社の慶全本線釜田駅と馬山駅間を結ぶ鉄道トンネル工事向け。釜山広域市内から金海市内までの32・7キロメートルのうち、大渚2洞から2路を約4400メートルずつ掘削する。
納入するのは泥土圧タイプの掘進機で、口径は7・89メートル。堺工場(堺市西区)で製作した。泥土圧タイプは、土質条件に幅広い適応性を持ち、長距離や曲線施工なども高い安全性・経済性を持つ。
日立造船はこれまでに、シールド掘進機を米国や中国、シンガポール、インドなど海外向けに100機以上を納入した。日本国内を合わせると、1200機以上の実績を持つ。
日本ではリニア新幹線の着工や、2020年の東京五輪に伴う高速道路整備などで、足元の需要は増えている。ただ長期的な事業拡大には、中国やインド、東南アジアなど海外市場の深耕が不可欠だ。
シールド掘進機事業が属するインフラセグメントの2016年3月期売上高見通しは260億円。全社売上高の約7%と比率は大きくはないが、世界的な需要は伸びる傾向にあるため、同社は重要分野の一つに位置づけている。
口径10メートル以上の大口径掘進機を扱える日本企業は、日立造船のほか、IHIとJFEエンジニアリング(東京都千代田区)が設立したジャパントンネルシステムズ(JTSC)、川崎重工業、三菱重工業(JTSCに合流予定)の4社のみ。世界シェアはヘレンクニヒトが圧倒的に高く、日本勢は顧客開拓の余地が多い。
日刊工業新聞2016年3月22日