日本発のロボット革命起こせるか―政府主導の協議会始動、各分野の状況は?
政府主導の産学官組織「ロボット革命イニシアティブ協議会」が始動した。安倍晋三政権がロボットによる新たな産業革命を日本発で起こすべく、1月に新戦略をまとめた。戦略の推進母体として同協議会を立ち上げ、東京オリンピック・パラリンピックのある2020年を念頭に業種を問わずロボット導入を加速する。一方、4月に発覚した飛行ロボット(ドローン)の官邸侵入事件が図らずも今後の課題を浮き彫りにした。イノベーションと規制のバランス確立も重要テーマだ。今は“革命前夜”の高揚感が漂っている。
■労働不足解消・廃炉の切り札
「ロボット革命の決起集会だ」―。安倍晋三首相は15日の創立記念懇親会でこう宣言した。
運転支援技術を搭載した自動車、人工知能(AI)により自律制御が可能なスマートフォンやスマート住宅などあらゆる分野でロボット化が進む。少子高齢化で医療・介護や飲食店、建設現場など至るところで人手不足も深刻化し、ロボット導入機運はかつてないほど高い。
政府は東京五輪が開催される2020年を目安にロボット活躍の場を現在の製造現場に加えて飲食店やホテル、農業、医療、インフラ分野などに広げる方針。また高い放射線量から東京電力福島第一原子力発電所に人が立ち入れない問題に対し、「ロボットなくして廃炉なし」(竹下亘復興相)との期待もある。
ロボット革命の実現にはモノのインターネット(IoT)やAIなど幅広い技術分野の統合が必要だ。飛行ロボット(ドローン)などで課題の安全・プライバシーの確保というハードルも待ちかまえる。産学官を広く巻き込んだ協議会には従来の垣根を取り払った行動や発想が求められる。安倍首相も「産業の壁、省庁の壁を壊してほしい」と注文を付けた。
安倍首相は自動車やロボットなど日本が高い競争力を持つ産業がいずれ「下請けになりかねない」と危惧する。ロボット革命は単なる製造業の高度化ではなく、「産業革命を起こす」(甘利明経済再生担当相)ものと期待されている。
【各分野の取り組み】
■モノづくり・サービス/人との協調、多様な用途
製造業では従来の溶接、搬送、仕分けといった作業に加え、組み立てや検査など、より高度な仕事のロボット化が進みつつある。作業の平準化と効率化、生産履歴管理(トレーサビリティー)の強化など省人化にとどまらない多様な導入メリットが見いだされ始めていることが理由だ。
組み立てなどは完全な自動化が難しいため人とロボットの連携も注目されており、産業用ロボット業界では人と協調する自動化システムの開発が加速している。
一方、サービス業では物流周辺など各種バックヤード業務におけるロボットの活躍が期待されている。各地で人手不足が深刻化する中、接客以外の単純作業に労力を費やしている現場が多く、潜在的ニーズは高い。ただ、ユーザーのニーズは多種多様で供給側が対応しきれていないのが現状。双方をマッチングしシステム構築を担う存在が求められている。
■インフラ・災害対応/現場実証、着々進む
社会インフラの維持管理や、地震、風水害などの災害対応でもロボットの役割が高まっている。国土交通省と経済産業省は次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入に向け、共同で事業を展開。企業や大学などからロボット技術を公募し、現場での検証・評価を実施している。
対象は(1)橋梁(2)トンネル(3)水中(ダム・河川)(4)災害状況調査(5)災害応急復旧―の5分野。14年度は計89技術の応募があり、現場検証を65技術、評価を39技術で行った。
このうち、水中ロボットは水深100メートル程度の深い場所で水中点検を実施。潜水士による作業を回避できる可能性を示した。災害状況調査用の飛行ロボットでは、従来不可能だった被災部分の接近撮影や計測が可能で十分役立つレベルであることを確認した。15年度も公募し、現場検証・評価を行う。16年度の試行的導入、17年度の本格導入を目指し、ロボットの性能向上が期待される。
■医療・介護/開発支援、審査機関を短縮
政府は手術支援ロボットなどの普及を後押しする。脳卒中で麻痺した手足の動き、知覚を回復させるニューロリハビリシステムや、これまで以上に多くの部位で開腹せずに手術できる軟性内視鏡手術システムなどの開発を支援する。
これらの先進的な医療機器・システムは、医薬品医療機器等法では「新医療機器」、クラス分類では高度管理医療機器になる可能性が高い。政府は審査期間を短縮するため、新医療機器の標準的な総審査期間に処理できる割合を18年度に8割まで引き上げる。「先進的な開発をする先頭集団は、重要な支援対象。一方で、先進的ではなかったとしても、治療を効果的に補助する器具などを中小企業が開発できるようにもする」(経産省ヘルスケア産業課)。
介護ロボットは、3年に1回だった介護保険対象機器への追加手続きを、15年度から随時受け付けに変更。国内市場の規模を20年に500億円に拡大する。
■農業/深刻な高齢化、作業負担軽減
農業分野は現場作業者の高齢化が深刻で、後継者不足にも悩んでいることから作業負担軽減、生産性向上などでロボットのニーズは大きい。
一方、土地所有や中山間地の問題に阻まれて担い手の規模拡大や集積が進んでいない。小規模事業者ゆえに大規模な設備投資ができないこと、ロボットを使う時期が農産物収穫期など特定期間に集中するため、投資負担の割に効果を出しにくい実情がある。農林水産省の施策ではこうした点も踏まえ、果樹園で使うアシストスーツや草刈りロボットなど、現場のニーズに即した機器開発を進めている。
ロボットや省力化機器が動きやすいよう、作物の種類や植え方を変える方法も見逃せない。農業・食品産業技術総合研究機構では、ロボットの稼働効率を高める果樹の樹形や枝のはわせ方などの研究をしている。機械収穫がしやすい大豆やホウレンソウなどの品種開発も進めている。
■労働不足解消・廃炉の切り札
「ロボット革命の決起集会だ」―。安倍晋三首相は15日の創立記念懇親会でこう宣言した。
運転支援技術を搭載した自動車、人工知能(AI)により自律制御が可能なスマートフォンやスマート住宅などあらゆる分野でロボット化が進む。少子高齢化で医療・介護や飲食店、建設現場など至るところで人手不足も深刻化し、ロボット導入機運はかつてないほど高い。
政府は東京五輪が開催される2020年を目安にロボット活躍の場を現在の製造現場に加えて飲食店やホテル、農業、医療、インフラ分野などに広げる方針。また高い放射線量から東京電力福島第一原子力発電所に人が立ち入れない問題に対し、「ロボットなくして廃炉なし」(竹下亘復興相)との期待もある。
ロボット革命の実現にはモノのインターネット(IoT)やAIなど幅広い技術分野の統合が必要だ。飛行ロボット(ドローン)などで課題の安全・プライバシーの確保というハードルも待ちかまえる。産学官を広く巻き込んだ協議会には従来の垣根を取り払った行動や発想が求められる。安倍首相も「産業の壁、省庁の壁を壊してほしい」と注文を付けた。
安倍首相は自動車やロボットなど日本が高い競争力を持つ産業がいずれ「下請けになりかねない」と危惧する。ロボット革命は単なる製造業の高度化ではなく、「産業革命を起こす」(甘利明経済再生担当相)ものと期待されている。
【各分野の取り組み】
■モノづくり・サービス/人との協調、多様な用途
製造業では従来の溶接、搬送、仕分けといった作業に加え、組み立てや検査など、より高度な仕事のロボット化が進みつつある。作業の平準化と効率化、生産履歴管理(トレーサビリティー)の強化など省人化にとどまらない多様な導入メリットが見いだされ始めていることが理由だ。
組み立てなどは完全な自動化が難しいため人とロボットの連携も注目されており、産業用ロボット業界では人と協調する自動化システムの開発が加速している。
一方、サービス業では物流周辺など各種バックヤード業務におけるロボットの活躍が期待されている。各地で人手不足が深刻化する中、接客以外の単純作業に労力を費やしている現場が多く、潜在的ニーズは高い。ただ、ユーザーのニーズは多種多様で供給側が対応しきれていないのが現状。双方をマッチングしシステム構築を担う存在が求められている。
■インフラ・災害対応/現場実証、着々進む
社会インフラの維持管理や、地震、風水害などの災害対応でもロボットの役割が高まっている。国土交通省と経済産業省は次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入に向け、共同で事業を展開。企業や大学などからロボット技術を公募し、現場での検証・評価を実施している。
対象は(1)橋梁(2)トンネル(3)水中(ダム・河川)(4)災害状況調査(5)災害応急復旧―の5分野。14年度は計89技術の応募があり、現場検証を65技術、評価を39技術で行った。
このうち、水中ロボットは水深100メートル程度の深い場所で水中点検を実施。潜水士による作業を回避できる可能性を示した。災害状況調査用の飛行ロボットでは、従来不可能だった被災部分の接近撮影や計測が可能で十分役立つレベルであることを確認した。15年度も公募し、現場検証・評価を行う。16年度の試行的導入、17年度の本格導入を目指し、ロボットの性能向上が期待される。
■医療・介護/開発支援、審査機関を短縮
政府は手術支援ロボットなどの普及を後押しする。脳卒中で麻痺した手足の動き、知覚を回復させるニューロリハビリシステムや、これまで以上に多くの部位で開腹せずに手術できる軟性内視鏡手術システムなどの開発を支援する。
これらの先進的な医療機器・システムは、医薬品医療機器等法では「新医療機器」、クラス分類では高度管理医療機器になる可能性が高い。政府は審査期間を短縮するため、新医療機器の標準的な総審査期間に処理できる割合を18年度に8割まで引き上げる。「先進的な開発をする先頭集団は、重要な支援対象。一方で、先進的ではなかったとしても、治療を効果的に補助する器具などを中小企業が開発できるようにもする」(経産省ヘルスケア産業課)。
介護ロボットは、3年に1回だった介護保険対象機器への追加手続きを、15年度から随時受け付けに変更。国内市場の規模を20年に500億円に拡大する。
■農業/深刻な高齢化、作業負担軽減
農業分野は現場作業者の高齢化が深刻で、後継者不足にも悩んでいることから作業負担軽減、生産性向上などでロボットのニーズは大きい。
一方、土地所有や中山間地の問題に阻まれて担い手の規模拡大や集積が進んでいない。小規模事業者ゆえに大規模な設備投資ができないこと、ロボットを使う時期が農産物収穫期など特定期間に集中するため、投資負担の割に効果を出しにくい実情がある。農林水産省の施策ではこうした点も踏まえ、果樹園で使うアシストスーツや草刈りロボットなど、現場のニーズに即した機器開発を進めている。
ロボットや省力化機器が動きやすいよう、作物の種類や植え方を変える方法も見逃せない。農業・食品産業技術総合研究機構では、ロボットの稼働効率を高める果樹の樹形や枝のはわせ方などの研究をしている。機械収穫がしやすい大豆やホウレンソウなどの品種開発も進めている。
日刊工業新聞2015年05月18日 深層断面