日本初のテレビドラマは戦前に放送されていた!
東急電鉄広報マンによるノンフィクション作品第二弾はテレビ開発史
**森田創氏インタビュー
―戦前に日本初のテレビドラマが放送されていたとは全く知りませんでした。
「国産テレビの実用化は科学技術立国・日本の威信をかけた国家プロジェクトとしてスタートし、1941年12月8日、まさに真珠湾攻撃当日の朝まで続けられた。実用化目前にありながら日米開戦で状況は一変。技術はレーダーなど軍事利用に振り向けられることとなる」
「これまで語られることが少なかった戦前のテレビ開発にスポットを当て、時代に翻弄(ほんろう)されながらも、新しい未来を切り開こうと情熱を傾けた技術者たちの挑戦を描きたかった」
―ドラマの制作陣や出演者が置かれた状況や時代背景が丁寧に描かれています。
「ノンフィクションは生の声や体温をいかに伝えるかが作品の命。6歳の子役としてドラマに出演した中村メイコさんは当時を克明に記憶しておられたし、天才バイオリニストとして出演した豊田耕児さんにも話を聞くことができた」
「戦前のテレビ開発に関する文献は少なく実情を探るのに苦労したが、ドラマに携わった人は、髪の毛が焦げるほどの強烈な照明をはじめ苛酷(かこく)な制作現場について『とんでもない目に遭った』と書き残している。当時を知る人から、こうしたエピソードを直接聞くことで、私自身が納得感をもって作品に投影できた」
―幻に終わった40年の東京五輪後も全国で祝賀行事が相次いだ「紀元2600年」後もテレビ開発には莫大(ばくだい)な国費と人材が投入されたそうですね。一方で戦争の足音が近づき、表現の自由が奪われていく―。まさに本書にある「テレビは進み、時代は暗転する」です。
「緊迫した時代に連動してテレビ技術が進んだことも、テレビ技術が進み戦争に一歩近づいたこともどちらも真実。ただ、技術者は純粋に実用化に挑み、制作側は時局と妥協しながら、自身の主張をオブラートに包み時代風刺の効いた作品を作り続けた。そんな反骨精神も作品を通じ伝えたかった」
―前作「洲崎球場のポール際」もプロ野球創世期がテーマです。戦前の一瞬の「きらめき」のようなものを描くのはなぜですか。
「戦前は歴史の教科書にあるような軍事一色、灰色一辺倒ではなく、活気に満ちた時代だった。敗戦によって日本人の歴史観は大きく塗り替えられ、どことなくふたをしたい気持ちがあったかもしれないが、当時を冷静に見つめ直すことで、良かったものは良かったと、フェアに評価してもいいのではないかとの思いが根底にある」
―2020年の東京五輪を控えた今の日本が当時と不気味に重なるように感じるそうですが、なぜですか。
「五輪にせよ、安倍晋三政権の経済政策『アベノミクス』にせよ目標を定め、達成を目指す姿勢は理解できるが、反面、モノが言いにくい雰囲気を感じる。メディアも伝えたいことがあるはずなのに、それを失い、あるいは捨てて、時代に迎合していく雰囲気は昭和15年頃と重なるような気がしてならない」
「テレビドラマの原点というメディアの『ゼロ地点』を知ることで、健全な批判精神にも思いをめぐらせてもらえれば作者としてこの上ない喜びである」
【略歴】
森田創(もりた・そう)東京急行電鉄広報課長 99年(平11)東大教養卒、同年東京急行電鉄入社。現在、広報課長。前作「洲崎球場のポール際 プロ野球の聖地に輝いた一瞬の光」は第25回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。神奈川県出身、42歳。>
―戦前に日本初のテレビドラマが放送されていたとは全く知りませんでした。
「国産テレビの実用化は科学技術立国・日本の威信をかけた国家プロジェクトとしてスタートし、1941年12月8日、まさに真珠湾攻撃当日の朝まで続けられた。実用化目前にありながら日米開戦で状況は一変。技術はレーダーなど軍事利用に振り向けられることとなる」
「これまで語られることが少なかった戦前のテレビ開発にスポットを当て、時代に翻弄(ほんろう)されながらも、新しい未来を切り開こうと情熱を傾けた技術者たちの挑戦を描きたかった」
―ドラマの制作陣や出演者が置かれた状況や時代背景が丁寧に描かれています。
「ノンフィクションは生の声や体温をいかに伝えるかが作品の命。6歳の子役としてドラマに出演した中村メイコさんは当時を克明に記憶しておられたし、天才バイオリニストとして出演した豊田耕児さんにも話を聞くことができた」
「戦前のテレビ開発に関する文献は少なく実情を探るのに苦労したが、ドラマに携わった人は、髪の毛が焦げるほどの強烈な照明をはじめ苛酷(かこく)な制作現場について『とんでもない目に遭った』と書き残している。当時を知る人から、こうしたエピソードを直接聞くことで、私自身が納得感をもって作品に投影できた」
―幻に終わった40年の東京五輪後も全国で祝賀行事が相次いだ「紀元2600年」後もテレビ開発には莫大(ばくだい)な国費と人材が投入されたそうですね。一方で戦争の足音が近づき、表現の自由が奪われていく―。まさに本書にある「テレビは進み、時代は暗転する」です。
「緊迫した時代に連動してテレビ技術が進んだことも、テレビ技術が進み戦争に一歩近づいたこともどちらも真実。ただ、技術者は純粋に実用化に挑み、制作側は時局と妥協しながら、自身の主張をオブラートに包み時代風刺の効いた作品を作り続けた。そんな反骨精神も作品を通じ伝えたかった」
―前作「洲崎球場のポール際」もプロ野球創世期がテーマです。戦前の一瞬の「きらめき」のようなものを描くのはなぜですか。
「戦前は歴史の教科書にあるような軍事一色、灰色一辺倒ではなく、活気に満ちた時代だった。敗戦によって日本人の歴史観は大きく塗り替えられ、どことなくふたをしたい気持ちがあったかもしれないが、当時を冷静に見つめ直すことで、良かったものは良かったと、フェアに評価してもいいのではないかとの思いが根底にある」
―2020年の東京五輪を控えた今の日本が当時と不気味に重なるように感じるそうですが、なぜですか。
「五輪にせよ、安倍晋三政権の経済政策『アベノミクス』にせよ目標を定め、達成を目指す姿勢は理解できるが、反面、モノが言いにくい雰囲気を感じる。メディアも伝えたいことがあるはずなのに、それを失い、あるいは捨てて、時代に迎合していく雰囲気は昭和15年頃と重なるような気がしてならない」
「テレビドラマの原点というメディアの『ゼロ地点』を知ることで、健全な批判精神にも思いをめぐらせてもらえれば作者としてこの上ない喜びである」
森田創(もりた・そう)東京急行電鉄広報課長 99年(平11)東大教養卒、同年東京急行電鉄入社。現在、広報課長。前作「洲崎球場のポール際 プロ野球の聖地に輝いた一瞬の光」は第25回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。神奈川県出身、42歳。>
日刊工業新聞2016年10月17日