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スマートグラスは地方創生・教育改革の起爆剤になるか?

AR(拡張現実)の未来 「セイコーエプソン×ニュースイッチ」
 セイコーエプソン(以下エプソン)は5年前にスマートグラスを発売。「CEATEC JAPAN 2014」内で表彰された「CEATEC AWARD 2014」にてライフスタイル・イノベーション部門グランプリを受賞している。「CEATEC JAPAN 2016」においては最新機種「BT-300」を国内初出展した。
 ニュースイッチは10月5日、同展示会にてエプソンと共同で「AR(拡張現実)の未来」と題したセッションを行った。

<メインスピーカー>
 セイコーエプソン株式会社 ビジュアルプロダクツ事業部HMD事業推進部長 津田 敦也氏
<ゲストスピーカー>
 諏訪市観光課観光係 係長 片桐 秀樹氏
<ゲストスピーカー>
 諏訪地方観光連盟 小林 世子氏
<ゲストスピーカー> 
 諏訪市立高島小学校教諭 大畑 健二氏
<モデレータ>
 日刊工業新聞社 デジタル編集部 ニュースイッチ担当部長 明 豊


(左より、大畑氏、小林氏、片桐氏、津田氏、明)

「グーグルグラス」よりも早かった


 エプソンは2011年にスマートグラスを発売して以来国内トップランナーの位置で挑戦を続けてきました。このシーテックでも最新機種「BT-300」をお披露目。今回はスマートグラスの開発責任者を務める津田さんにお越しいただいています。

 またエプソンのホームグラウンド、諏訪市で観光・教育現場と連携し、スマートグラス活用の幅を広げています。ARは地方創生の一助となるのではといわれていて、その実例をお話いただきたいと思っています。

 まずは津田さんより、エプソンの考えるARの現在とこれからについてお話いただけますでしょうか。

津田 エプソンの技術的な話と、いくつかの活用事例をお話したいと思います。最初のモデル「BT-100」を出したのは2011年。「グーグルグラス」よりも早かったんです。世界初の両眼シースルーです。この当時ははっきり言ってARをやろうとは考えていなかった。外で大画面の映像を見ていただこうということだけでした。さまざまなお客様から意見をもらい、小型化やセンサの搭載を進め、今回紹介するのが第三世代の「BT-300」です。

 当社独自の技術は「導光板」にあります。これはスマートフォンなどのバックライトと同じような原理ですが、ハーフミラーになっているのでレンズ越しの視野と情報が同時に見られるという仕組みです。

 さらにBT-300からはシリコン有機ELを採用したことで駆動回路を内蔵でき小型化を実現。レンズを通してみた視野と情報が映し出されるスクリーンの境目が見えず、情報が浮かんで見えるという最大の特徴があります。これは実機を体験していただいた方が一番わかりやすいと思います。

 次にAR・VRについて整理してみます。ARは現実の視野空間の中に仮想のもの、デジタル情報を付与するという定義を我々ではしています。VRは仮想の視野空間中に仮想の情報を付与するもの。すべてデジタル上で起こっていることです。

 一方、複合現実、ミックスドリアリティ(MR)と呼ばれるものがあります。例えばカメラで撮影した映像をスマホに表示させて、そこにデジタル情報を付与する場合。これをARと言っていることも多いのですが、厳密にはMRだと考えています。このような混乱が生じた背景は、シースルーのスマートグラスができなかったことにあると思います。

 活用事例として最近引き合いが多いのがドローンのフィールドパーソンビュー。ドローンを飛ばすときには常時目視が法律で定められました。スマートグラスではドローンを目視しながらドローンが撮影した映像を確認できるようになっています。

 またBtoB分野ではハンズフリーでマニュアル情報を参照しながら作業ができるという点が評価されています。また現場作業者の視野をオペレーターやサポーターが共有し遠隔でも的確な指示ができます。

人の流れを変えられる可能性を持つ


津田 美術館での実証実験も進めています。音声ガイドのようにスマートグラスで解説を表示したり、言語対応や鑑賞者に合わせたコンテンツの出しわけたりすることも可能です。このコンテンツの内容を定期的に変えることで、低い投資でリピーターを増やせる可能性があります。

 また、イタリアのモンツァという街には、価値が高いが建物しか残っていない歴史的建造物があり、観光客が少ないことに悩んでいました。そこでスマートグラスでかつての情報を付与した、という例もあります。この例は地方創生として日本にも当てはまるんじゃないかと思います。人の流れを変えられる可能性を持っています。

 すこし違った例になるのですが、F1のレースではピット見学をしたいという要望があるのですが、音がうるさく説明ができない状況です。スマートグラスで技術やチームスピリッツについてより深い説明ができるようになりました。鈴鹿サーキットで開催されるレースでもBT-300が使用されます。

 これらの事例を総括すると、ARで現実と仮想を融合させることで、映像は単に視聴するものであったものが、体験するもの、一人ひとりを支援するものに変わっていく。これがARが変えていく未来であるとエプソンは考えています。

 津田さんのプレゼンの中で気づいた、興味深いキーワードが2つありました。「コンテンツの再発明」「人の流れが変わる」ということです。これは大きなビジネスチャンスにつながるのではないかと思っていて、地方創生の文脈にもつながっていくのではと考えています。

<次ページ:観光・教育現場でのスマートグラス活用>

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
ディスプレーの担当記者時代だった12、13年前。エプソンを熱心に取材していた。当時、有機ELは未来のディスプレーとっして各社が研究開発に力を入れ始めた頃で、コダックなどが特許技術を持っていたが日本ではエプソンがかなり先頭を走っていた。大型に向く高分子にこだわり、いずれテレビなどの展開も想定していた。エプソンの液晶事業は巡り巡って今はジャパンディスプレイにたどりついたが、有機ELはその後も自社で持ち続け試作ラインもまだ持っていることに驚く。韓国勢がアプリケーションでいち早くスマホを開拓し、先頭ランナーになった。エプソンはデバイス事業に大きく投資するわけにもいかずアプリ展開のところで苦労したが、このスマートグラスで日の目を見ることになるとは自分自身もとても感慨深い。     

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