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中島飛行機から富士重へ。群馬と栃木に流れる航空機産業のDNA

産業クラスターは育つか。動きが活溌化する中小企業
中島飛行機から富士重へ。群馬と栃木に流れる航空機産業のDNA

航空機関連事業を強化する石井機械製作所

 群馬、栃木両県の中小企業で、航空宇宙分野への新規参入の取り組みが活発化している。群馬県は戦前に有数の航空機メーカーだった中島飛行機を育み、栃木県はその流れをくむ富士重工業の主力拠点を擁する。中小企業の参入には関連認証の取得、展示・商談会での顧客ニーズ把握が不可欠で参入ハードルは低くないが、海外部品メーカーと取引する企業もあり、分野も装置、エンジン関連へと広がっている。

 町田ギヤー製作所(群馬県高崎市)は、大手部品メーカーなど複数企業から受注を獲得。2015年に航空宇宙の品質管理規格「JISQ9100」の認証を取得。しかし「実績がないから受注できない」(町田和紀社長)状況が続いた。転機は15年秋に東京で開かれた航空宇宙関連イベントへの単独出展。ブースに立ち寄る人と話す中、やるべきことが明確化した。

 航空宇宙大手部品メーカーとの取引が堅調な山岸製作所(同)。参入にあたり「顧客のニーズを把握するには、打って出ないといけない」(山岸祐二専務)と海外の商談会にも参加し、自社が顧客の課題解決にどう役立てるのかを探った。

 菊地歯車(栃木県足利市)は11年の「パリ航空ショー」への出展を機に、数年かけて仏航空機エンジン大手との直接取引にこぎつけた。受注したのは低圧タービンブレード。15年に子会社のAeroEdge(同)を設立。この3月に専用工場を完成し、8月には本格生産に入った。

 直接取引にあたり、チタンなど難削材の加工技術が評価された。菊地歯車は09年、「JISQ9100」の認証を国内歯車メーカーで初めて取得した。「航空機部品は従来の歯車と別世界。事業化では行政などの支援が大きい」と菊地義典社長は強調する。
 
 「航空機産業では高品質、そのマネジメント力が求められる」と語るのは、石井機械製作所(同)の石井大洋社長。08年に「JISQ9100」を取得し、今や航空機関連が売上高全体の3割を占める。現在、大手企業から受注した中央翼リベット留め用搬送装置の開発を進めている。

 機械やロケットの部品を手がける奥田製作所(栃木県鹿沼市)は、航空機エンジン部品分野への参入を目指して新工場を17年1月に稼働する。湯原製作所(同さくら市)は、航空機エンジン関連のチューブ部品の受注獲得に向け、塑性加工技術などを提案中。10年以内に、航空機関連で売上高の3割を目指す。

 栃木県は航空機関連製造品出荷で、20年に13年比44%増の1850億円との目標を掲げる。県内には航空宇宙の特殊工程の国際規格「Nadcap」認証を持つ中小企業が9社あり、愛知県に次いで多い(15年1月時点)。新規参入は容易でないとはいえ、参入ノウハウの伝授や設備支援など行政の支援も欠かせない。中部の航空宇宙クラスターに続くよう栃木、群馬両県、富士重工の連携が注目される。

(群馬・大友裕登、栃木・山中久仁昭、栃木・前田健斗)
日刊工業新聞2016年10月12日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
富士重は2017年3月期に航空機事業の設備投資で前期比約2・3倍の140億円を計画する。米ボーイングの次世代大型旅客機「777X」の機体部品向け自動化投資が中心。富士重は777X向けに、胴体と主翼をつなぐ中央翼などを担当していて、投資するのは宇都宮製作所(宇都宮市)と半田工場(愛知県半田市)。中央翼部材の加工などを担う宇都宮製作所では、錆の発生を防ぐプライマーの吹きつけや航空機用のシーラント剤の塗布に、アーム型ロボットを導入。鋼板に補強材を打ち付ける工程には、オートリベッター(自動打鋲機)を追加した。富士重自体の航空機事業は777から777Xに移行するところで踊り場だ。品質など重工メーカーに頼ってきた部分を、中小メーカー自らが担うことも求めらる。

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