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下着と図書室の「美しい関係」 ワコールが顧客と文化でつながる

「身体」「感性」「社会」の3視点から美を追求
下着と図書室の「美しい関係」 ワコールが顧客と文化でつながる

幅広い分野の書籍を自由に閲覧できる「ワコールスタディホール京都」

 歴史・哲学・芸術といった幅広い分野の書籍約3000冊が本棚に並び、自由に取り出して個別の自主学習スペースで閲覧する。そんな読書好き垂涎(すいぜん)の場所が、「ワコールスタディホール京都」だ。ワコールが10月に開設した。

 女性用下着の製造・販売という本来の事業の枠を超え「美しい生き方」を提案することで、顧客との関係性を深めている。京都駅八条口前のワコール新京都ビル(京都市南区)の1・2階のスペースを活用。書籍を閲覧できるライブラリースペースを提供するほか、伝統芸術に触れたり、生き方を考えるカルチャー講座も定期的に実施する。

 講座内容は、同社の専門部署で独自に企画し、運営まで一貫して手がけている。コンセプトは、「身体」「感性」「社会」の3視点から「美」を追求すること。そのため本棚の分類にも、「自然と親しむ」「次の旅先」「日本という国」といったファッションから遠いような言葉も並ぶ。知的好奇心が旺盛な男性層の取り込みも狙う。

 同社は第二次大戦後の復興期に、女性用下着という新しい文化を日本に持ち込み、業界をリードしてきた。顧客との関係性構築という視点に着目したのも早く、2000年代には他社に先駆け、アフターサービスを提供する会員制ウェブサイトを開設。下着着用に関する相談などを丁寧に受け付けてきている。

 グループとしては複合文化施設や服飾文化の研究財団なども立ち上げ、文化発信の担い手として存在感は大きい。スタディーホールは2017年3月までに、延べ利用者数1200人を目指す。ただ、下着販売の売り上げ増や、顧客マーケティングなどに直結する事業ではない。あくまで、「ワコールという企業体を、どうブランディングしていくか」(猪熊敏博総合企画室広報・宣伝部部長)が大きな狙いという。

 「美しいモノ」を提供するだけでなく、顧客と「美しい関係性」を構築していくことが、大きな潮流となっている。
(京都・園尾雅之)
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
ワコールの歴史は日本の女性用下着の歴史と重なり、いまや世界的にも大手の下着メーカー。お膝元の京都では中国観光客がワコール製品を爆買していたとも。新しい拠点はそんなワコールの情報発信の拠点となるが、一方でワコール製品そのものが世界の下着文化をけん引し始めている。中年男性という立場上、街に出てのマーケティング調査もまま成りませんが・・・

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