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大阪万博誘致、「廃墟」にならないために

2025年へ「やってみなはれ」。そして常に「祭りの後」を考えておく
 2025年の万国博覧会(万博)を大阪に誘致する動きが活発化してきた。低迷する関西経済浮揚の起爆剤となる可能性もあるが、資金負担など問題も山積する。開催の可否は政府と大阪府、関西経済界が一致団結できるかどうかにかかっている。

 大阪府は14年に誘致の検討を開始。今年8月に世耕弘成経済産業相に正式に協力を要請した。9月には近畿圏の自治体の集まりである関西広域連合の協力を仰ぎ、開催を訴えた。ただ関西経済界は、費用など具体的な判断材料に乏しいことから慎重姿勢だった。

 その後、安倍晋三首相が臨時国会の代表質問で「万博は地域経済の活性化も期待される」と言及。府は首相発言の翌日に基本構想素案を提示し、経済界の費用負担について「(寄付を割り当てる)奉加帳方式ではなく、民間の投資を呼び込むアイデアを募る」ことを明記した。

 これらを受けて関西経済同友会の蔭山秀一代表幹事が「話し合える余地が出てきた」と話すなど、経済界も慎重ながらも前向きな姿勢に転じている。

 素案によると万博のテーマは「人類の健康・長寿への挑戦」。大阪市此花区の夢洲(ゆめしま)地区約100ヘクタールを会場として25年5―10月に開催する。3000万人以上の来場と約6兆円の経済効果を見込む。ただ実現までには国への構想提出、政府の閣議了承と博覧会国際事務局総会での承認などのハードルがある。

 資金負担も難題だ。会場費は1200億―1300億円と試算。過去の万博は国、自治体、経済界が3分の1ずつ負担した。しかし府は財政再建途上にあり、関西経済界も家電の低迷や原子力発電の停止など、けん引役不在の状況が続く。

 もちろん万博開催は直接の経済効果だけでなく、跡地を活用した国際会議や展示会(MICE)、統合型リゾート(IR)の誘致など新たな街づくりにつながる。首都圏の経済一極集中を是正する意義は大きい。

 関係者が意思を統一できるのであれば、大阪の「やってみなはれ」精神を発揮して挑戦する価値はある。

日刊工業新聞2016年10月12日「社説」
原直史
原直史 Hara Naofumi
万国博覧会のような大きなイベントを計画する場合は、常に「祭りの後」を考えておかなければならない。東京オリンピックでも、小池知事登場のおかげで、何を、どう残すのかの議論がやっと活発になってきたが、本来は誘致の前にしっかりと考えておく必要がある大きな課題だ。人口が増加傾向にあり、経済が右肩上がりであった過去のようには行かない。計画を間違えば、レガシー(遺産)どころかルーイン(廃墟)が残り、地域の荒廃と住民の税負担増につながりかねないことを十分に考えて進めてもらいたいイベントだ。

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