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宇宙太陽光発電システムへの第一歩。JAXAが要素技術の実験に成功

電力送り、ドローン飛ばす。実用化は2030年代以降
宇宙太陽光発電システムへの第一歩。JAXAが要素技術の実験に成功

宇宙太陽光発電システムの概念図(JAXA提供)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11日、宇宙空間で太陽光エネルギーをマイクロ波やレーザー光に変換後、地球に伝送して電力として利用する「宇宙太陽光発電システム(SSPS)」の要素技術の実証試験に成功したと発表した。宇宙と地上との間のレーザー発振を模擬し、地上と高さ200メートルの実験棟の屋上で電力を伝送、飛行ロボット(ドローン)を飛ばすことに成功した。SSPSの実用化は2030年代以降と当面先だが、エネルギー問題解決につながる重要な一歩だ。

 川崎重工業と日立ビルシステムの協力を得て行った。天候に左右されない宇宙空間で太陽光発電設備を展開するSSPSの実用化には、レーザー光を正確に地上の設備に照射しなければならない。

 その際、大気の揺らぎにより検出器に入るレーザー光の位置がずれるため、レーザー光を正確に決まった場所に照射するシステムが必要となる。 

 日立製作所水戸事務所(茨城県ひたちなか市)にある高さ約200メートルの実験塔を利用。塔の屋上に衛星に相当する「ダウンリンクユニット」、地上に方向制御精度の計測などを担う「アップリンクユニット」を設置し、200メートル離れた場所へ電力を供給した。 

 レーザー出力340ワット、直径1ミリメートル程度の範囲内でレーザー光の方向を制御できることを実証した。さらに光電変換装置において電力伝送効率が21・3%となることも明らかにした。今後、効率35%を目指すという。
日刊工業新聞2016年10月12日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 SSPSは将来のエネルギー供給源として期待されるシステム。地上3万6000キロメートル上空の静止軌道上に、太陽電池と送電パネルが付いた衛星を打ち上げる。太陽エネルギーで発電し、その電気をマイクロ波などで地上に設置した受電アンテナに送る。昼夜や天候を問わず安定的に電力供給が可能。太陽光の利用効率は地上の約10倍という。運用時は二酸化炭素を排出せず地球温暖化対策としても有効。  大きな課題として指摘されるのが、宇宙空間に材料を運ぶための輸送費。原子力発電所1機分にあたる100万キロワット級の発電所を構築する場合、システムは2キロメートル四方に及ぶ。現在の輸送技術で試算すると、その費用は数兆円に上り、実用化するには50分の1くらいに圧縮する必要があるという。宇宙空間にキロメートル級の大規模施設を整備した経験はなく、それも実現する上での課題と言える。

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