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【連載】挑戦する地方ベンチャー No.10 八戸学院大学

起業、ヤフーへのバイアウト。それから地方創生の担い手になったジーパン学長
【連載】挑戦する地方ベンチャー No.10 八戸学院大学

「起業家養成講座」の授業

 「10年で100人の起業家を青森から」輩出することをスローガンに起業家支援を積極的に行っているのが、八戸学院大学(青森県八戸市)だ。水曜夜に開催される「起業家養成講座」は、現役大学生から社会人、引退後のシニアまで幅広い人材が起業を目指し受講している。

「たまたま」地元の八戸に


 その中心となって事業を動かすのが学長の大谷真樹氏。自身も起業家として活躍していた一人だ。1996年にウェブ市場調査会社「インフォプラント」を興し、2007年にヤフーにバイアウト。ヤフーバリューインサイトの会長となる。大谷氏は八戸市出身ではあるが、青森発の起業家支援に取り組むようになったことの「直接的な要因ではない」と話す。「2006年にBCPの観点から、データ処理などを行うバックオフィスを移転しました。いくつか候補を挙げた移転先で最有力になったのがたまたま八戸だったのです」(大谷氏)。

 この移転をきっかけに地元とのつながりができ、2008年より八戸学院大学の産学連携に関する研究所の所長に就任した。八戸への東京企業の開発拠点やオフィス移転のサポートに携わるようになる。マネックス証券やヤフーが八戸センターを開設するなど、現在では「八戸グリーンハイテクランドや市内中心街」にIT企業が集積するようになった。 

 しかしリーマンショックを機に、首都圏の資本に依存した地方活性には限界があることに気付く。そこで地元でイノベーションを起こせる人材を育てるため、2009年に起業家養成講座を始めた。「自分で起業しようとも考えましたが、1人で1のことを起こすより、1のことを起こせる人を10人育てるべきだと思い至りました」。

(大谷真樹氏)

“タテ”と“ヨコ”のつながり


 起業家養成講座は現在7年目。月に2回、夕方から夜にかけて開催され、参加者の大半は仕事をしながら参加する社会人だ。「先代の会社を引き継いで第二創業を目指す経営者や、シングルマザー、現役を退職して新たに起業を目指す方などさまざま。年齢も学生から最高齢は72歳の方もいましたね」。定員は10人で、約半年かけてビジネスモデルを考え、事業計画の立案まで行う。講師は大谷氏をはじめアントレプレナーなどを招聘。地元の旦那衆、地銀などもメンターとして活躍している。「授業が終わった後まで支援するのも特徴。資金調達の支援やコミュニティづくりもその一環です」。

 中でも受講者同士で鍛え合う体験を重要視しており、「共通した体験が受講者の“横のつながり”を生み出し、講座終了後にも貴重な財産になります」。実際にビジネスを起こした後にも相談し合ったり、情報交換をしたりすることが支えになる。

 さらに受講終了したOB全体での交流も盛んだ。定期的に交流会が開かれ、ビジネスが生まれることもある。現在修了生は130人ほど。OB同士でインキュベーション施設のようなものを作り、共同出店している例もある。

 イノベーションを生み出す人材を育成する仕組みをつくり、OB会という“タテ”と、受講者同士の“ヨコ”のつながりを作ったことで人材が集まる場所ができた。「地方にいると起業や新たなビジネスに興味のある人が集まる場がない。このコミュニティは新たなつながりを作るきっかけとしての役割を果たしています」。

 卒業生の興したビジネスは、地域の課題を細やかに解決するものから世界に目を向けたものまで幅広い。古民家を改装してお年寄りが集まるコミュニティスペースにし、同じように起業した仲間たちとソバやあんぱん、コーヒーなど小さなお店を開いたり、地元の海産物をアジアへ輸出する企業を立ち上げたり。最高齢では62歳で起業した受講者OBもいるという。

起業に「ちょうどいい規模感」


 現在の受講者は八戸へのUターンが多い。「いきのいい大学生はどうしても都市部へ出て行ってしまいます。しかし最近では『地方で起業した方が、勝算があるのでは?』と気付き始めている若者も増えてきました。逆に都市部から来たからこそ、地方にビジネスモデルを見つける例も多いですね」。

 八戸は何かビジネスを始めるのには「ちょうどいい規模感」だと大谷氏は説明する。人口24万人。理系と文系の大学が1つずつ、高等専門学校が1つあり産学連携の土壌も整っている。産業構造のバランスもよく、言わずもがな自然豊かな環境も魅力だ。新幹線に乗れば東京まで3時間ほど。

 この特性を生かし、U、I、Jターンなど都市部から人を呼ぶことが目下の課題だ。「Uターンでは『地元を置いてきた』という“うしろめたさエネルギー”を刺激。八戸コミュニティの東京支部も作っている。Iターンでは地元の価値を訴求する。いずれにしろチャレンジできる環境を整えていくことが必要」。

 1990年代後半には渋谷は有名なITベンチャーが集積し、「ビットバレー構想」と呼ばれていた。八戸の起業家育成に関する取組みを、大谷氏は自らの名前を使い「ビッグバレー構想」と呼ぶ。八戸から本気で世界を目指す企業や人材の育成に、地域一丸となって取り組んでいく。
ニュースイッチオリジナル
前田亮斗
前田亮斗 Maeda Ryoto
シリコンバレーをはじめ、イノベーションは大学や研究所、都市の中心部に才能持った人と技術が集積して数多く生まれている。地方創生が声高に叫ばれ、首都圏からの人材の確保が論点として語られがちだが、本質は首都圏のみならず、全世界から優秀な人材・技術・投資を呼び込むことではないかと思う。そのためにはその土地独自の文脈とリーダーが必要。独自の文脈とは、例えばチャレンジしやすい環境であったり、顔が見えるコミュニティだったり、固有の地域資源などが考えられるが、最大の文脈は「人」である。人は人に吸い寄せられる。通称「ジーパン学長」と呼ばれる大谷学長はまさに魅力的な「人」であり、八戸のリーダーだ。大谷学長が掲げる「ビッグバレー構想」がより進行し、八戸から多くの起業家が世界へ飛び立つことに期待したい。

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