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「君津」はフル稼働なのに力強さ欠く粗鋼生産

「1ドル=100円」の誤算。企業が設備投資を見直しへ
「君津」はフル稼働なのに力強さ欠く粗鋼生産

大量受注で活況を呈する君津製鉄所の厚鋼板ライン

 国内の粗鋼生産量は回復に力強さを欠いたまま、2016年度を折り返した。大規模な減産に突入した前年の水準こそ上回るものの、一昨年には及ばない。当初は需要の盛り上がりが期待された10―12月期も、円高などの足かせで生産水準は前年同期を多少上回るだけの物足りないものとなりそうだ。他方で原料価格の急騰もあり、この期は値上げに向けての努力が一層求められることになる。

 「低生産の状況から元に戻りつつあるものの依然、中国のあおりを受けている」。新日鉄住金の君津製鉄所(千葉県君津市)総務担当者の表情はさえない。足元、同製鉄所はおおむねフル生産中。

 特にメキシコの海底ガスパイプライン向けに過去最大級の大量受注を獲得した厚鋼板のラインは、例年にない高い稼働水準となっている。ただ、全体では「稼働状況は春先からあまり大きな変化はない。フル生産なのも熱間圧延ラインのすべてではない」とトーンを落とす。

 進藤孝生社長も日本鉄鋼連盟会長としての会見で「生産自体は4―6月期より7―9月期の方が増えている。とはいえ力強さはない」とその弱さを認める。鋼材需要についても当初、秋以降の本格回復を見込んでいたが、「思ったより弱含んでいる。大きな変化は、一気に1ドル=100円まで進んだ円高」を誤算に挙げる。

 東京製鉄の今村清志常務も「円高で企業が設備投資の見直しに入った」と口をそろえる。東京五輪・パラリンピックなどに派生する建材需要も現時点では「期待したほど出てこなかった」と述べ、「今年後半はきつい。辛抱どころだ」と吐露する。輸出も円高に加え、中国の鋼材市況が弱含んでおり、以前より成約しづらくなっているという。

 こうした背景から、10―12月期の粗鋼生産量は前年同期の約2633万トンよりは数%増えそうだが、2年前の約2753万トンには届きそうにない。進藤鉄連会長も10月以降の生産量については「(減産下だった)去年の水準より少し上回ると期待している」と弱気な見方に終始する。

 一方で原料炭のスポット価格が急騰。7月末には1トン当たり90ドル台だったのが、足元、同210ドル台まで一気に上昇した。鉄鋼大手の10―12月期の調達価格も大幅引き上げが必至だ。新日鉄住金の建材営業幹部は「製品の価格改定(値上げ)は喫緊の課題。経営的にも最優先課題だ」と腹をくくる。

 ただ、製品需要が弱含む中での顧客との価格交渉は従来にも増して厳しい。昨年の10―12月期は中国市況の底割れという悪夢に見舞われた鉄鋼業界だが、今年も一筋縄ではいかない10―12月期となりそうだ。
(文=大橋修)
日刊工業新聞2016年10月6日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
粗鋼生産が伸びない背景には、中国による過剰生産という構造的な問題に加え為替や原材料価格の急騰が拍車をかけているということか。

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