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なぜ日立は2050年という“超長期”の環境目標を作ったのか

パリ協定が契機。革新的技術の開発を社内に促す
なぜ日立は2050年という“超長期”の環境目標を作ったのか

2015年末の気候変動枠組条約COP21におけるパリ協定の採択(環境省ビデオより)

 日立製作所は今月5日、2050年度までに二酸化炭素(CO2)排出量を10年度比80%削減する環境目標「日立環境イノベーション2050」を公表した。工場の操業で発生するCO2だけでなく、製品が使われることで排出されるCO2も大幅に減らす。工場のCO2削減は事業の足かせになりかねないが、消費電力を大幅に抑えた製品の販売は社会の低炭素化に貢献し、事業成長もできる。

 この“超長期”目標の策定について、同社CSR・環境戦略本部の荒木由季子本部長は「パリ協定が契機だった」と語る。

 15年末の気候変動枠組み条約21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定は、産業革命前からの温度上昇を2度Cに抑え、さらに1・5度C未満に向けても努力することが盛り込まれている。科学者が温暖化の被害を検討する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、2度C達成には50年までにCO2を40―70%削減する必要があると指摘する。

 大胆な削減に国際社会が合意したパリ協定を受け、日本政府は6月、地球温暖化対策計画を閣議決定した。国連に提出した30年度に13年度比26%削減する目標に加え、「50年80%減」の長期目標も定めた。国際社会は50年を軸に議論しており、日本も50年目標が必要となった。

 日立製作所の長期目標もパリ協定と整合性をとって作られた。また、途中の30年にCO2を50%削減する中期目標も設定した。製品のエネルギー使用の高効率化、再生可能エネルギーなど既存技術の普及が50%減のベースとなるが、30年以降は新しい技術が求められる。

 荒木本部長は「50年の社会を想定するのは難しいが最大限、目標に向かって取り組む」と語る。「50年80%減」の高い目標を課すことで、CO2を劇的に減らす革新的技術の開発を社内に促す。

 長期目標を作る動きが産業界に広がっている。パナソニックも30年と50年の目標を検討している。環境経営推進部の長崎達夫部長は「30年は具体的な目標、50年はありたい姿になるだろう」と話す。

 パリ協定には今世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出を事実ゼロにする目標もある。化石資源に依存しない「脱炭素」が目標だ。社会は脱炭素を求め始めた。企業は数%の省エネにしのぎを削るよりも、大幅な削減技術を開発できれば競争で優位に立てる。パリ協定を念頭にした長期視点の開発が求められる。
日刊工業新聞2016年9月27日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
化石資源に依存しない社会を目指す「パリ協定」が合意されてから初のCOPが11月初旬に始まります(COP22、モロッコ)。米大統領選に重なるのが、絶妙な巡り合わせです。12月には生物多様性条約のCOP13もあります。10月、11月はパリ協定、生物多様性関連の記事を増やしていきます。

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