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三菱重工「冷熱事業」分社で20兆円市場へどこまで食い込めるか

M&Aで新技術と時間を買って、専業他社に対抗
三菱重工「冷熱事業」分社で20兆円市場へどこまで食い込めるか

ターボ冷凍機を製造する高砂製作所

 三菱重工業は10月1日付で、ターボ冷凍機やヒートポンプシステム、ルームエアコンなどを手がける冷熱事業を分社する。本体からの権限委譲により、意思決定のスピードを加速。競合の専業メーカーと同じ時間軸で勝負する地盤を整える。3年後に売上高3000億円(現状比約5割増)を掲げ、製品群の拡充や技術開発で成長軌道を描く。世界の市場規模が20兆円と言われる冷熱分野で、存在感を示せるかどうかが注目されている。

 「冷熱市場で破壊的イノベーションを起こしたい」―。冷熱事業の新会社「三菱重工サーマルシステムズ」(東京都港区)の社長に就任する楠本馨三菱重工冷熱事業部長は力を込める。狙うは産業用冷熱システム分野での“世界一”だ。

 省エネルギー化や温室効果ガスの排出削減など、冷熱関連で企業の抱える課題は多岐にわたる。楠本事業部長は「三菱重工グループの幅広い技術を生かしつつ、多様な顧客の課題解決に貢献する」と話す。

 三菱重工の強みは低温(ターボ冷凍機)から高温(ヒートポンプ給湯機)まで、広い温度領域で製品をそろえること。顧客ニーズにきめ細かく対応できる「世界一の商品ラインアップを持つ」(楠本事業部長)。

新冷媒を軸に世界戦略を描く


 では、世界をとるための武器は何か―。それは技術革新による既存製品・技術の置き換えだ。冷凍・冷蔵分野では温室効果ガスであるフロン冷媒の代替となる新冷媒の開発を軸に戦略を描く。フロンは欧州では使用禁止、中国や日本では使用削減を批准している。

 産業向けでは倉庫や医療、半導体など幅広い分野で使われる冷凍・冷蔵システム。「新冷媒を使った機械を開発できれば、世界的に置き換わる可能性も出てくる」と楠本事業部長は指摘する。

 三菱重工では13年に買収した東洋製作所が、新冷媒として期待される空気や二酸化炭素(CO2)を用いた自然冷媒の技術を保有する。

 自然冷媒は機械が大型化するなど制約はあるが「分社しても引き続き、本社の支援を受けて課題を解決していく」(楠本事業部長)。グループのトップクラスの技術を使えることも、大きな差別化となる。

 産業向け分野で競合する、米ユナイテッド・テクノロジーズや同ジョンソンコントロールズなどを技術力で突き放しにかかる。

 給湯など高温システムでは、化石燃料を使うボイラから、ヒートポンプへの代替を模索。楠本事業部長は「冷温、高温の両分野で新技術・製品が受け入れられれば、売上高1兆円も夢物語ではない」と強調する。

 新技術の獲得には三菱重工グループの経営資源を有効活用するのはもちろん、時間をお金で買うM&A(合併・買収)という選択肢もある。分社化により一定規模のM&Aであれば、自前で判断できるようになる。

 突出した市場規模や技術ポテンシャルの高さから「冷熱事業に対する本社の期待は相当高まっている」と楠本事業部長。ただし、分社後は独立採算のシビアな事業運営が求められる。他の専業メーカーのスピード感に追従できるかどうかは、未知数の部分も多い。三菱重工の孝行息子となるべく、慎重かつ大胆なかじ取りで事業拡大に取り組む。
(文=長塚崇寛)
日刊工業新聞2016年9月30日
長塚崇寛
長塚崇寛 Nagatsuka Takahiro 編集局ニュースセンター デスク
ターボ冷凍機では国内トップシェアを誇る三菱重工業だが海外展開はまだまだ十分でない。分社によるメリットを最大限に生かし存在感を高めてほしい。機器の単体売りから、システムやアフターサービスといったソリューション提供の拡大にも期待したい。

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