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建機ロボット、ダムを行く!鹿島が日本で初めて自動化建機の利用へ

コマツと共同開発した自動ブルドーザーも実証。震災をきっかけに無人化建機に注目集まる
建機ロボット、ダムを行く!鹿島が日本で初めて自動化建機の利用へ

鹿島の無人化振動ローラー(鹿島提供)

 鹿島は14日、自動化した振動ローラーを実際のダム工事に適応したと発表した。自動化建機が実工事で使われるのは日本初となる。合わせてコマツと共同開発した自動化ブルドーザーの実証実験にも成功した。積まれた土砂をブルドーザーで敷きならして、振動ローラーで圧し固める作業をロボットだけで施工できるようになる。数年内に大型ダンプや油圧ショベルを自動化し、自動施工システムとして完成させる。空港造成工事などの自動化に提案する。

 市販の振動ローラーにGPSや障害物センサーなどを取り付け自動運転できるようにした。熟練作業者の操縦ノウハウを制御プログラムに組み込み、誤差10センチメートルと熟練者と同等の施工精度を持つ。自動化ブルドーザーは土砂の崩れ方をシミュレーションし、走行経路やブレードの高さを自動調整して施工する。
(日刊工業新聞2015年05月15日 機械・ロボット・航空機面)


東日本大震災をきっかけに、無人化建機に注目が集まっている

 「福島原発の中でさまざまなロボットが機能停止したが、その外では無人建機が粛々とがれきを片づけていった」―。東京電力福島第一原子力発電所の事故対応を振り返るとき、ロボット技術者たちは複雑な表情を浮かべる。油圧ショベルやブルドーザーなどの建設機械をラジコン化した無人建機は災害対応ロボの一つの形だ。その働きぶりにみな目を見張った。

 無人建機は1991年の雲仙普賢岳の噴火後の対応で発展し、有珠山や三宅島、福島第一原発などで活躍している。だが現在稼働中の無人建機は日本に100台もない。ゼネコンや建機メーカーなど20社が集まり「建設無人化施工協会」を作り、災害対応用に細々と運用している。地震や大雨によって土砂崩れなどが起きると仕事は発生するが、先の需要を予測できず設備更新が滞っているのが現状だ。「現在の機械でいつまで保つのか」と関係者の表情は暗い。

 問題の一つが遠隔操作用に改良するコストだ。普段は有人操作で稼働しており、建機としての稼働率自体は低くない。ただ改良に1台1000万―2000万円かかり、この費用を償却するほどの仕事がない。

 そこでフジタは建機遠隔操作ロボット「ロボQ」を開発。東京大学の山下淳准教授と共同開発した俯瞰(ふかん)映像システムと組み合わせると、建機周囲を確認しながら操縦できる。ロボQを操縦席に座らせてハンドルを握らせるだけで幅広い機種を操作可能。災害時に現場の近くにある普通の建機を遠隔操作できれば、無人建機を配備できなかった地域でも災害対応できる。遠隔操作システムと建機への投資負担を分け、別々に運用できる。同様の遠隔操作ロボットを富士建(佐賀市富士町)やコーワテック(東京都千代田区)も開発している。

 稼働率の低い機械をゼネコンなどが保有するのは難しいが、建機レンタル会社なら稼働率を高め採算をとりやすい。油田信一筑波大学名誉教授は「無人化施工の仕事がレンタル会社に集中し、建機もノウハウも技術者もレンタル会社に集まっている」と指摘する。西尾レントオールは遠隔操作用の着脱式油圧制御システム「HRCシステム」や車両カメラ「オペカムXIII」などを自社開発し、災害用に無人施工機を配備している。油田教授は「建機メーカー各社の技術をいいとこ取りした結果、国のレジリエンス(強靱〈じん〉性・回復力)を支える要になっている」と説明する。

 無人建機は有人操作に比べて作業効率が3―5割に下がるため、普段の工事で使われていない。そこで西尾レントオールは、情報通信技術(ICT)の活用により高効率・高精度な施工を実現する情報化施工システムと組み合わせて作業効率を高めている。情報化施工では建機の位置や施工図面データをもとにショベルの掘削量やブルドーザーのブレードの高さなどを指示誘導する。有人操作と比べた作業効率が6―8割にまで向上した。危険地帯など人間が入れない区域では効果は大きい。無人化と情報化を含めたシステム提案は大きな強みだ。
 
【現実は半自動化】
 無人建機の情報化対応が進み、作業を半自動化できるようになると中央管制塔方式の遠隔施工が視野に入る。この時はじめて有人施工の効率を上回ると期待される。すでに鉱山など限られた環境ではコマツの無人ダンプが走り回っている。

 大成建設は転圧ローラーをロボット化し、自律施工に成功した。11トン級の振動ローラーが施工エリアを自走して、決められた回数締め固める。人間は作業を指示しスタートボタンを押すだけだ。障害物回避機能を搭載し、落石などのリスクがある現場でも運用できる。立石洋二土木本部機械部長は「実証機だが砂防ダムなどの工事ならすぐにでも投入できる」と説明する。油圧ショベルの自律化も進めており、目標を指定するだけでブレーカーで岩を自動破砕する予定だ。

 ただロボット化された建機が有人操作の建機と置き換わるには、まだまだ時間がかかりそうだ。地盤強度など現場での判断は機械にはできず「地質や地形が毎回変わる建設現場では完全自律化は不可能」とされる。さらに人間と一緒に働くためには高度な安全管理が必須で、施工計画自体を自律建機にあわせて再設計する必要がある。中央管制塔方式よりも現行のように作業を半自動化して、徐々に自動化範囲を広げるのが現実路線だ。

 大きな効果が期待されるのは水中施工と原発の廃炉工事だ。水中用では大成建設とアクティオ(東京都中央区)、極東建設(沖縄県那覇市)がダムのリニューアル工事用の遠隔操作建機「T―iROBO UW」を開発した。水上の台船から伸ばしたシャフトに沿ってバケットやブレーカーを降ろし、水深100メートルで遠隔施工できる。湖底を掘り返すと土砂が舞い上がり何も見えなくなるが、ソナーで地形を測定するため操縦者はCGで掘削状態を把握できる。遠隔操作と情報化施工の技術を詰め込んだ結果、ダム工事の工期が従来に比べ3―4割短縮する予定だ。2月には京都府の天ケ瀬ダムの再開発工事に投入され、その後はダム改修の需要を開拓する。

 無人建機は国が専用の仕事を発注することで生きながらえてきた。雲仙普賢岳噴火後の開発と同様に、廃炉に注ぎ込まれる開発リソースは建設ロボットを飛躍的に進化させる。人間の立ち入り禁止区域から鉱山や水中へと適応範囲を広げ、通常の建設現場に進出できれば平時と非常時の“共使い”が実現する。その時、強力な輸出競争力になるだろう。
(小寺貴之)
日刊工業新聞2015年01月5日 科学技術・大学面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
建機は産業用ロボット以外でロボット化がうまく進んでいる分野。ロボットを使う必要性と、活躍できるフィールドがあったことが成果につながる要因だろう。加えて各社のロボット建機の情報を集約し、窓口となり、技術の維持や人材育成など、いつでも稼働できるようなインフラを維持してきた「建設無人化施工協会」というプラットフォームがあったことが大きい。この事例は他の分野でも応用できるはずだ。

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