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工作機械トップが米国で感じたIoT、ロボットの新潮流

シカゴ工作機械見本市、現地座談会
工作機械トップが米国で感じたIoT、ロボットの新潮流

左から中村氏、森氏、山口氏、花木氏、石丸氏

 米シカゴで17日まで開かれた工作機械の見本市「国際製造技術展(IMTS)」。IoT(モノのインターネット)やロボットなどの出展が目立った。日本工作機械工業会(日工会)会長、副会長を務めるメーカー首脳は新しい潮流をどのように感じとったか。会場で語り合ってもらった。

日本工作機械工業会会長(オークマ社長)花木義麿氏
日本工作機械工業会副会長(DMG森精機社長)森雅彦氏
日本工作機械工業会副会長(中村留精密工業社長)中村健一氏
日本工作機械工業会副会長(ファナック社長)山口賢治氏※稲葉善治会長の代理
日本工作機械工業会専務理事・石丸雍二氏
司会 日刊工業新聞社記者 六笠友和
(敬称略)


自動化を本気で進めている


 ―今回のIMTSの印象をお話しください。
 花木 非常に珍しいことに初日の午前から来場者が多く、驚かされた。IMTSは新技術の展示よりは営業活動が主体のビジネスショー。今回は各社の成約が多そうだ。技術面ではIoT、米国ではIIoT(インダストリアル・インターネット・オブ・シングス)だが、これがいよいよ動きだしたと思った。もうひとつ今回驚いたのは、自動化を本気で進めていること。地に足が付いた自動化が本格的に始まったのではないか。ロボット、パレットチェンジャー、ワークチェンジャーを使った自動化に皆さん取り組んでいる。

  ロボット、パレット搬送システム、ワーク搬送システムの各社の展示がとても増えた。ロボットのコントロールと機械のコントロールが一体化するような仕組みが出てきているのは大変面白い。ハンドリングだけでなく、アディティブ(アディティブ・マニュファクチャリング=積層造形)や粗い位置決めに使うなどとても興味深い。アディティブの出展は、前回の5倍以上の20社超という。

 中村 設備投資が落ち込んでいると思ったが、思ったより来場者が多く、商談が進んでいる。大変よい見本市だ。ただ、大統領選が目の前にあるので、まだ何が起こるかわからないところがある。

 山口 IoTに各社が力を入れている印象だ。ロボット化は以前よりも進み、ごく普通になった印象を受けた。工作機械とロボットを組み合わせたシステムなどは、特に海外ではインテグレーションがビジネスとして成立していることを再認識できた。

積層造形は日本より米国の執着がすごい


 石丸 初日からにぎわった。日工会会員の出展者に状況を聞くと、ビジネス上もいい見本市になっているようだ。アディティブは米国が日本よりも執着がすごい気がする。前回は3Dプリンターで作った自動車の展示があったが、今回は家まであった。日本ではIoTを前に影が薄くなった印象すらあるが、推進するAMT(米国製造技術協会)の決意は、日本の業界、政府とは違う。

MTコネクトへ対応。北米で必須に


 ―米国発の通信規格「MTコネクト」の現状をどうみましたか。
  当社が売っている機械の約30%が何らかの自動化になっていて、すべてMTコネクトだ。10年前に始めた時は「何かな」と思ったが、今や普通になった。

 花木 今やデファクトスタンダードだろう。(MTコネクト発表者の)AMTの努力の成果だろう。

 石丸 AMTは日本国際工作機械見本市(JIMTOF)で講演を予定している。

 山口 MTコネクトへの対応は北米では必須になった印象だ。

 花木 IoT、“つながる”工場は2通りある。ひとつは工場、エンタープライズレベルのこと。もうひとつは計測装置、ボールネジ、ベアリングといった機器にセンサーを組み込み、データを取り込んで予防保全などに生かす。これは大きな動きだ。

ERPとつなぐとビジネス広がる


  スマートな機械、工場、会社とあるが、我々は機械のところで、何ミリ秒でコントロールするというのが得意だ。工場単位や、統合業務パッケージ(ERP)とつなぐとなると違う業界の人と付き合うことになり、うまくいけばビジネスが広がる。面白くなってきた。工作機械のユーザーが工場管理などのベンチャー企業をつくった例もある。それも面白いと思う。

 中村 各産業分野でソフトウエア技術者の取り合いになりそうだ。世界的にも大手が囲い込みをしている。

  外部とつながるソフトは米マイクロソフトなどの大手にまかせればいい。機械、ロボットのソフトは我々が普通にやっている。Gコードは典型的な我々のプログラムだ。あれはほかの世界の人には作れない。工作機械のアプリケーションエンジニアを多く抱えているので、そこは自信を持つべきだ。

(盛況だったIMTS会場)

目立つ「コンパクトロボット付き工作機械」


 ―会場では工作機械とロボットを連携させた展示が目立ちます。
 中村 中小規模の加工会社にもどんどんロボットが普及しているようだ。測定など自動化に伴うものも自然についていくだろう。

 花木 米国は日本よりもずっと以前からロボットが活用されている。作業者の質、工場のゆったりとした広さなどが背景だ。ところが、今回の展示はロボットをコンパクトにうまく機械に納めている。「コンパクトロボット付き工作機械」という印象だ。

 山口 あらかじめロボットを組み込むことを前提に設計した工作機械も拝見した。協働ロボットも増え、より柔軟でコンパクトなシステムが出てきている。米はインテグレーションシステムが日本に比べ発達している。パッケージは一品ものでなく、何度も使えるパッケージに優れているような感じだ。日本での発展はインテグレーターの育成が重要だ。まだまだ足りない。

  小さいロボットが数百万円レベルになってきて、活用しやすくなった。ロボットの組み込み前提の工作機械は増えると思う。ワークの着脱だけではなく、切り粉の掃除や工具交換、計測などができるだろう。

台湾、韓国メーカーが少し息を吹き返す


 ―ところで、アジア勢の動向については。 
 花木 このところの円高で韓国、台湾勢が少し息を吹き返した感がある。製品ラインアップも広がった。中・高級機分野はまだまだ脆弱(ぜいじゃく)だが、格好はできた。汎用的な2軸旋盤や同じく3軸マシニングセンター(MC)で強みを発揮してきた。

  大きいのが最大の特徴といった旋盤は、韓国メーカーが価格をかなり下げている。

 中村 向こうも大変だから製造原価にこだわらず売るような傾向がある。

 花木 あれでやっていけるのだから、やはりコスト競争力があるのだろう。日本勢は機能や性能の引き上げはもちろん、自動化、インテリジェント化、総合ソリューションで勝っていくべきだ。汎用の2軸旋盤、3軸MCを全部持って行かれるのも困る。

大統領選後の政策が見えない


 ―米国は大統領選を控え、投資に慎重になっているようです。
 中村 環太平洋連携協定(TPP)はオバマ大統領でできないなら、ヒラリー・クリントン氏ならできるのか、ドナルド・トランプ氏になったとしたら…政策が全く違い先が読めない。また、利上げはどうなるのか。世界経済の見通しも立たない。とても心配だ。

 花木 大統領選の年は設備投資に慎重になるものだ。ただ、米国は何をいっても潜在能力がある。いま日本の工作機械業界にとって一番読みにくいのは、中国を中心としたアジア市場だ。

 石丸 工作機械団体の国際事務局長会合で経済・需要動向を議論した。米国は一般経済はいいが、投資がいまひとつ進まない。自動車、航空機はよいが、エネルギーの低迷はしばらく続くとの見通しだ。

 ―米国は航空と自動車を除くと勢いに乏しいようです。
  エネルギーはさっぱりだ。あとは医療分野がいいぐらいだ。

 中村 軍需も安定してはいる。

 花木 航空機も米国で組んでいる比率は低い。もっと日本に来るのではないか。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は日本勢が強い分野。エンジンにしても日本の強みが生かせるはず。


JIMTOFもIoT、ロボットのオンパレード


 ―11月17日から東京で開かれるJIMTOFの開催が近づいてきました。
 石丸 会場の東京ビッグサイトに東の新展示場が完成する。大変立派な施設になる。今回のJIMTOFでは海外勢に使っていただく。国際性の向上、質の引き上げに役立つだろう。

 中村 新製品をIMTSでは出さず、JIMTOFで日本の各メーカーがこぞって出品する。ロボット、IoTが前面に出てくるだろう。

 花木 ロボット、IoTのオンパレードと言えそうだ。

  そう思う。

 ―本日はありがとうございました。
日刊工業新聞2016年9月16日
六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
9月12~17日にシカゴで開かれた工作機械の国際見本市「IMTS(シカゴショー)で工作機械メーカー首脳に語ってもらいまいした。 ニュースイッチを運営している日刊工業新聞は、欧州と米国で開かれる工作機械の大型展示会で工作機械メーカー首脳による座談会を開いています。今回はIoTが全盛でしたが2015年10月にミラノで開いた前回の座談会では「インダストリー4・0やIoT、積層造形(AM)が話題の割には、出展の内容も実演もちょっと薄い。期待ほど進歩としてはまだ」(花木会長)との状況でした。この分野はとても急速に変化しているようです。 ファナックがシスコと、DMG森精機がマイクロソフトと組むなどの連携も活発化しています。

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