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終活を考える。人は一人で死ぬことができないのか

第一生命経済研究所主席研究員・小谷みどりさんに聞く
 ―いま、65歳以上の約6人に1人は一人暮らしというデータもあるなど、将来、一人暮らしになる可能性は誰にでもあります。
 「1970年代までは、年をとったら子供や孫と暮らすのが当たり前とされていた。ところが、今は未婚者も増え、高齢者の一人暮らしは珍しくなくなった。一人暮らしかどうか、子供や孫がいるかどうかに関係なく、どのように人生の最期を迎えるかを考えることが重要だ。健康なうちから、準備を怠らないことが大事になる」

“呼び寄せ高齢者”、スーパーにも注意を


 ―別居していた子供夫婦が、一人暮らしで高齢の親を呼び寄せることもあります。
 「“呼び寄せ高齢者”でも、スープの冷めないような距離の移動であれば良いが、例えば行き慣れたスーパーマーケットが変わるだけで駄目になるケースもある。健康なうちに転居するならまだしも、健康状態が悪くなってからの転居は高齢者に大きなストレスとなってしまう」

 ―心がけとして大事なことは。
 「死ぬ時は皆一人で死ぬ。問題は誰にも気付いてもらえず、放置されたままになってしまうことだ。“生老病死”という言葉があるが、老いや病気、死は一人暮らしの人に限らず、誰もが直面する。30年程前までは、死後の葬式は誰かがやってくれるという感覚があった。その分、自分も他人の葬式を手伝った」

 「自助努力として人とつながることが最大の不安解消になる。今は人の手を借りる際に、家族、友人、介護サービスなど選択肢はたくさんある。結局、誰かの手を借りないといけない。同時に、生前、どんなに準備をしていても、人は一人で死ぬことができないことに気が付くことが必要だ」

何を食べたいか分からなくなるおじいさん


 ―著書(※)の中では、自分らしく生きる四つの柱として「身体的」、「経済的」、「生活的」、「精神的」自立を挙げています。
 「日本人に一番足りないのは、精神的自立だろう。自分の意思で物事を判断し、自分の責任で行動ができる能力のことだ。例えば、子供のころは周囲から将来の夢は何かを聞かれるが、年齢を重ねるにつれ、そうした話はあまり聞かれなくなる。すると、将来の夢を考えなくなる」

 「毎日、手料理を作ってくれたおばあさんが亡くなると、何を食べたいのかが分からなくなるおじいさんがいる。理由は、何を食べたいかを考えたことがないから、分からないのだという。誰かが決めてくれたことに従うのは楽だが、自らが決めるということを普段から意識することは大切だ」

 ―厚生労働省の資料では、日本人の“平均寿命”と“健康寿命”の差は男性で約9年、女性で約12年となっています。
 「不健康な期間を極力縮め、健康寿命を伸ばす努力が大事になる。体を動かしたり、人とコミュニケーションを図ったりすることで、誰かが助けてくれることもある。かかりつけの医者を見つけておくことも心強いだろう。いろいろなことに興味や関心を持ち、ドキドキすることも欠かせない。血縁や地縁は自動的にできるが、絆は自動的にできない。縁を絆(きずな)にするには、お互いの努力や覚悟が求められる」
(聞き手=浅海宏規)

【略歴】
小谷みどり(こたに・みどり)93年(平5)奈良女子大院修了、同年ライフデザイン研究所(現第一生命経済研究所)入社。12年主席研究員。博士(人間科学)。専門は死生学、生活設計論、余暇論。大学や自治体の講座などで「終活(人生の終わりに向けた活動)」に関する講演を行っている。大阪府出身、47歳。
※『ひとり終活 不安が消える万全の備え』(小学館刊)
日刊工業新聞2016年9月19日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
うちは母が先に亡くなった。父は幸いまだ元気にしている。田舎なので地域のコミュニティーや家業もあって、表面的には孤独ではないように見える。しかし本当の父の孤独感は息子の自分にも分からない。元々、一人で何でもやれる父だが、「精神的自立」のとらえ方は人それぞれで、もともとの性格に加え環境によっても変わる。逆にいかに孤独に死んでいけるかも、改めて考えてみたい。

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