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トヨタが2025年に国内販売150万台をこだわる理由

「今と同じやり方では130万台にとどまる」(佐藤常務役員)
トヨタが2025年に国内販売150万台をこだわる理由

8月にダイハツを完全子会社した。トヨタの豊田章男社長(左)とダイハツ三井正則社長

 国内の新車市場が低迷している。消費増税や軽自動車税の増税が影を落とし、日本自動車工業会によれば2016年度の国内市場は2年連続の500万台割れとなる見通し。厳しい環境下で、商品・販売戦略をどう描くか。トヨタ自動車の佐藤康彦常務役員に聞いた。

 ―駆け込み需要を見込んだ消費増税の延期決定後も2016年暦年、年度の販売計画を据え置いています。
 「二つの理由がある。『プリウス』など今までお客さまに待ってもらっていた車の需給が適正になってきたのが一つ。もう一つは特別仕様車を用意したり販売促進策を打ったりして需要を活性化させること。販売店と一緒に年間155万台、年度160万台という目標にこだわっていく」

 ―8月にダイハツ工業を完全子会社化しました。販売面で連携をどう深めますか。
 「これから検討に入るが例えば車や用品などを運ぶ物流。トラックドライバー不足が深刻化する中、協業すればウィン−ウィンになるのでは。トヨタの販売店は新車販売だけに頼らない『バリューチェーン経営』を進めてきた。そうしたノウハウをダイハツの販売店とシェアすることもテーマとなり得る」


国内生産の半分を国内販売で


 ―10年後を見据えた長期販売ビジョン「J―リボーン計画」を今年スタートさせます。
 「東京五輪まではそれなりの市場があると思うが人口減少や高齢化を考えるとその後、一気に市場が冷え込むことも想定しないといけない。今と同じやり方では25年には(トヨタの国内販売は)130万台にとどまるだろう。しかし国内生産300万台のうち半分の150万台を国内販売で、という形にはこだわりたい。(J―リボーンは)プラス20万台をどう積み上げていくかというチャレンジであり、その道筋だ」

 ―まずはどこから手をつけますか。
 「デジタルマーケティングを『One IDトヨタ』と称して推進する。今は商品紹介や販売金融などサイトごとにIDが異なっている。すべてのIDを一つにしてお客さまのさまざまな情報をつなげてビッグデータとして活用する。販売店では今秋以降、電子署名システムを導入する。生産性を向上してCS(顧客満足度)、ES(従業員満足度)につなげる」

 ―J―リボーン計画の中で4チャンネル体制が変化する可能性はありますか。
 「4チャンネルみなさんと一緒にチャレンジしたいと言っており再編は一切考えていない。ただ人口減少が著しい速度で進んでいる地域ではオールトヨタの販売店同士が助け合う『ローカル対応』は柔軟にしていきたい」

【記者の目・リボーンの実現が重要】
 新設計思想「TNGA」でクルマづくりをリボーン(再生)するトヨタが販売店にもリボーンを求める。トヨタの販売店の特徴は大半が独立の地場資本ということ。ただ、これまではトヨタに従う「待ち」の姿勢が目立った。最近は販売店に対し「自分たちで考えてください」と訴えるトヨタ。25年に向け各販売店がおのおののリボーンを実現できるかが重要だ。
(聞き手=名古屋・伊藤研二)

※日刊工業新聞では「自動車国内販売・担当役員に聞く」を連載中
日刊工業新聞2016年9月16日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今のトヨタは章男社長自身が鋭敏なセンサーになって商品会議を進めている。昔のような簡単に組織の流れの中で物事が動いていくことはない。150万台という数字は結果的に達成できないかもしれない。トヨタのような大企業に限らず、今の時代、経営者は想像しているほど会社をコントロールできない。トヨタは一人ひとりが、必ず少しずつ会社のことを考るチームへ組織を変えつつある。現場に自由裁量を持たせながら、最後は経営トップが覚悟を決めて意志決定する。章男社長は、意思決定しないリスクの大きさを十二分に理解しているようにみえる。その計画が成功するか失敗するかは以上に「会社が前進している」ことが重要であり、今のプロセスが適切に回っていく限り、トヨタは前に進む可能性が高いと思う。

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