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東京五輪でドーピングデータ改ざんや交通まひを防げるか

サイバー攻撃対策が始動。オールジャパンで脅威除去
東京五輪でドーピングデータ改ざんや交通まひを防げるか

総務省では、サイバーセキュリティー対策の演習を定期的に行っている

 ブラジル・リオデジャネイロ五輪が閉幕した。リオ五輪は治安や施設の不備が取り沙汰されたが、大会を中断するような一大事はなかった。その経験は2020年の東京五輪・パラリンピックにも反映されるが、情報通信技術(ICT)が駆使される東京五輪は“デジタルオリンピック”とも称され、リオとは違ったリスクがある。斬新(ざんしん)かつ安全な大会にするには、サイバーセキュリティー対策が欠かせない。オールジャパンでの取り組みがいよいよ本格始動する。

 リオ五輪ではサイバー攻撃について、大きな被害は伝えられていない。また12年のロンドン五輪に比べて、攻撃の頻度や度合いが増していたかなどの実態も明らかになっていない。

 詳細は専門家による検証と報告を待つしかないが、すでに国際オリンピック委員会(IOC)の活動は東京へとシフトしている。懸案のサイバーセキュリティー対策も多様な取り決めが具体化される段取りだ。

 セキュリティー上の課題はサイバー空間と現実空間の双方にあるが、両者は別々に存在するわけではない。「サイバー空間の脅威は現実空間にも大きな打撃を与える」と東京五輪の警備担当は気を引き締める。

トップガン育成


 病院へのサイバー攻撃により、ドーピングのデータを改ざんされる恐れもある。また電光掲示板のデータを書き換え、交通機関を機能不全に陥れることも可能だ。

 さらには監視カメラをハッキングして使えなくした状態で、悪事を働くことだってあり得る。こうしたさまざまな脅威から、何をどう守るのかが問われる。

 セキュリティー対策は技術だけではなく、防御体制や人的スキルによっても被害の度合いが変わる。20年に向けて、サイバーセキュリティー人材のすそ野拡大と、「トップガン」と呼ばれる高度人材の育成強化が待ったなしの状況だ。

 総務省は東京五輪の運営システムを模した大規模な演習システム「サイバーコロッセオ」の新設を決定。NICT北陸StarBED技術センター(石川県能美市)内に、サイバーコロッセオを構築する予定。

 同センターはセキュリティー向け大規模テストベッド(検証システム)「スターベッド」の運用で実績を持つ。演習の対象者はオリンピック組織委員会や開催地となる東京都に加え、オリンピックに関連する企業などを予定する。

 サイバーセキュリティーへの取り組みでは東京五輪が旗印となるが、それだけでは不十分だ。近年、産業界では重要インフラへの攻撃をはじめ、セキュリティー被害が増加の一途をたどっている。

 またインターネットバンキングを狙った攻撃による不正送金の被害額も増え続け、15年は過去最高を記録した。今後4年間で日本全体がサイバー攻撃に対抗できるよう強靱(きょうじん)な国に変わる必要がある。


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日刊工業新聞2016年8月30日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
日本のサイバーセキュリティーはもともと脆弱。五輪を契機に官民とも徹底的に強化すべき。五輪後のビジネス活用の視点も忘れずに。

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