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“両輪作戦”でホンダのブランド力”上がるか

「NSX」発売。面白い会社というイメージが広がれば小型車に好影響
“両輪作戦”でホンダのブランド力”上がるか

新型「NSX」の前に立つ八郷社長

 「収益面で苦しいところはあるが“両輪”をしっかりやることでブランド力を上げる」。ホンダの八郷隆弘社長は新型スーパースポーツカー「NSX」の発表会でこう話した。両輪とは「生活に役立つ」車と「操る喜びを提供する」車だという。前者は軽自動車「Nシリーズ」や小型車「フィット」などの比較的安価な量販車のことで、後者がNSXに該当する。

 NSXは高価な部品を採用したり、専用工場を建てて熟練技術者が手作りしたりして、走りや品質を追求した「ぜいたくな一品」(八郷社長)だ。日本での年販見通しは100台、先行発売した最大市場の北米でも初年度800台のみ。高い価格設定とはいえ、これだけのコストのかけ方と販売規模を考えると採算性は度外視していると言えよう。

 そこまでして発売にこぎ着けたのは「高級車プロジェクトや商品の存在はエンジニアを中心に社内でモチベーション向上につながる」(他メーカー関係者)ことがある。「NSXのような車を作った面白い会社というイメージが広がれば、普通の小型車の販売にも好影響がある」(ホンダ国内担当の寺谷公良執行役員)との期待もある。

 特に日本市場では2年前に発生した主力車での相次ぐリコールで「ブランドが毀損した」(ホンダ幹部)との危機感もあった。少量販売ではあるが、“両輪”を回してブランド力を上げたいホンダとしてはNSXにかける期待は大きい。
(文=池田勝敏)

「走りをどう極めるホンダなりの一つの提案だ」


 ホンダは25日、新型スーパースポーツカー「NSX」の国内での受注を開始した。2005年の生産終了以来およそ11年ぶりの国内投入で、ハイブリッドシステムを採用した。税込み価格は2370万円からと、国内メーカーが発売するモデルでは、限定車種を除いて最高価格となる。超高級車の投入でブランド力の向上につなげたい考え。

 同日都内で開いた発表会で八郷隆弘社長は「走りをどう極めるか。という問いに対するホンダなりの一つの提案だ」と自信をみせた。

 ミッドシップに配置した排気量3・5リットルのV型6気筒ツインターボエンジンに、三つの電動モーターを組み合わせたハイブリッドシステム「スポーツハイブリッド SH―AWD」を搭載し、運動性能を高めた。骨格部品には、高い剛性を持つ複数の素材を組み合わせたスペースフレームを開発して採用。軽い上に高い衝突安全性を実現した。

 生産は先代の国産に代わり、米オハイオ州の専用工場が担う。熟練技術者約100人がボディーの製造から最終組み立てまで、最新の溶接ロボットなどを駆使しながら手がける。販売はホンダから「NSXパフォーマンスディーラー」の認定を受けたホンダカーズ店(全国42都道府県の127拠点)が展開する。納車は17年2月27日からで年販100台を見込む。

国内販売、70万台+アルファを安定的に


日刊工業新聞2016年6月22日


 ホンダで日本事業を統括する寺谷公良執行役員は日刊工業新聞のインタビューに応じ、国内販売の中期的な見通しについて「70万台プラスアルファで安定的に売っていきたい」と話した。足元では消費増税の延期や三菱自動車の不正問題で環境が変化するが「ホンダの受注動向は読み通り来ていて現時点で計画の修正は考えていない」とし2016年度に68万5000台とする販売計画に変更はないとした。

 軽自動車税の増税などで軽市場が減少しているが「地方を中心に軽の需要は多く中長期的には底堅い。ホンダとしても引き続き軽に力を入れる」とした。環境・安全技術について「ハイブリッド車(HV)を普及するのが先決。自動運転がもてはやされているがホンダとしては運転支援として現実的な技術を普及したい」とした。

 16年度の国内市場は485万台との見通しを示した上で、三菱自の不正問題について「影響は一時的で市場全体がへこむようなことはない。敵失で顧客が流れて来ているという認識はない」とした。

 寺谷氏は系列販社社長から4月にホンダ日本本部長に就任。社長時代にホンダが国内販売100万台を目指していたが主力車種の相次ぐリコールなど品質問題で揺れた。

 「高い目標を目指していた時にブランドを損なうなどの反省点があった」とした上で「台数を追うよりまずはホンダというブランドが改めて支持されるようにしたい」とし、販売現場の経験を生かしてブランド力を高めたいとの抱負を語った。

《解説》
 台数と収益性をどのバランスに落とし込むか。ホンダの国内販売には厳しいかじ取りが続く見通しである。台数を追う姿勢は確かに後退こそしたが、「70万台プラスアルファで安定的に売っていきたい」とのコメントにある通り、一定の台数を前提とした経営戦略に変わりが有る訳ではない。70万台プラスアルファの台数、国内収益力、ホンダらしさがあるブランド力に本当に持続的なバランスが取れるのか注目している。
(ナカニシ自動車産業リサーチ代表・中西孝樹氏)
日刊工業新聞2016年8月26日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
一つのスーパースポーツカーが全体のブランドへ波及するとはまったく思わない。ホンダの先進性やチャレンジ性という意味では「ホンダジェット」の方がよほど企業ブランド価値を上げているように思う。スバルやマツダのような規模であれば、よりエッジの効いたクルマづくりが可能かもしれない。今のホンダを見ていると、「生活に役立つ」車と「操る喜びを提供する」車の両方とも中途半端になっていると感じる。それは経営トップの迷いがエンジニアにも伝播している面もあるのではないか。

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