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一つの時代の終わりか、“インテルどこでも入ってる”戦略は成功するか

アームからライセンス、楽しみになってきたIoTのロードマップ
一つの時代の終わりか、“インテルどこでも入ってる”戦略は成功するか

3Dカメラ技術「リアルセンス」が搭載されたドローンを手にするクルザニッチCEO(基調講演の動画から)

 米インテルは、ソフトバンクグループが買収を決めた半導体設計の英アーム・ホールディングスと提携する。アームから技術ライセンス供与を受け半導体の受託生産(ファウンドリー)事業の拡大を目指す。モバイル機器市場に強いアーム仕様の半導体も作ることで受託生産の規模を拡大し、半導体の性能を高める微細化技術でのリードを守る。

 インテルはパソコン向けのMPU(超小型演算処理装置)で約8割のシェアを握っているが、モバイル機器向け事業では出遅れ、スマートフォン(スマホ)市場ではアーム仕様の半導体を使うライバルメーカーの後じんを拝している。

 インテルは回路線幅が10ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を生産できる最新設備を使い、アーム仕様の半導体を生産する。韓国のLGエレクトロニクスから最初の生産委託を受けたという。LGは新型のスマホに採用する予定。

 インテルがアームからライセンスを受け半導体を生産するのはこれまでにもある。今回、ブライアン・クルザニッチ最高経営責任者(CEO)の決断は、次の主戦場であるIoT(モノのインターネット)で、主導権を握るという強い意志を反映している。減速するパソコン市場に対応するため、データセンターやにIoTに注力するため事業再編も実施している。

スポーツ、ドローン、ロボットなどに展開


ニュースイッチ2016年01月07日


 米ラスベガスで6日(米国時間)に開幕した世界最大の家電見本市「CES 2016」。一足早く5日夕方にはインテルのブライアン・クルザニッチCEOの基調講演が行われたが、パソコンやスマートフォンの話は一切なし。3Dカメラ技術の「リアルセンス(RealSense)」やボタンサイズのセンサーデバイス「キュリー(Curie)」を前面に打ち出し、スポーツ向けを中心に、ゲーム、エンターテインメント、産業、ロボット、ファッション、ホームオートメーションなどさまざまな分野での提携事例を次々に紹介した。すべてのモノがコンピューターやセンサーでつながり、情報をリアルタイムに可視化するIoT(モノのインターネット)時代を見据え、「インテルどこでも入ってる」とでもいうべき戦略を推し進めている。

自律的に木を避け、人を追跡するドローン


 とくに、「リアルセンス」を組み込み、提携企業が開発したハードウエア製品では、次世代ドローンとロボットが出色のできばえ。基調講演のデモでも、高いレベルの自律制御機能をアピールした。

 リアルセンスを搭載したドローンは、中国・ユニーク(Yuneec)が開発した「タイフーンH」。自転車で林のセットの間を走るバイカーについて、木をよけながら空から追跡し、4Kカメラで撮影した映像を送り続ける自律飛行のデモを見せた。目の前で木が倒れても、それを検知して空中で停止する。「コンシューマー向けで最も優れた衝突回避性能を持つ」(クルザニッチCEO)という。2000ドルを下回る価格で今年上半期に発売する。

セグウェイが自律ロボットに早変わり


 体重移動で操作できるセグウェイ型の電動立ち乗り2輪車にリアルセンスを内蔵したのは、中国・ナインボット。同社はスマートフォンで急成長する中国・シャオミ傘下の新興ロボット企業で、2015年には電動立ち乗り2輪車のパイオニアとして知られる米セグウェイを買収している。

 この電動2輪車が面白いのは、自律制御のパーソナルロボットに早変わりできること。2輪車を降り、ハンドルの中央部を押すと、アニメの顔を表示するディスプレーが現れ、音声による受け答え・操作が行える。「OK、セグウェイ、フォローミー」と呼びかければ、歩く人の後をずっと付いてくる。さらに、物体検知、顔認識といった機能を持ち、例えば自宅内で警報が鳴ると、自動的に現場に駆けつけ、持ち主にカメラで撮影した現場映像をストリーミング送信といった使い方ができるという。さまざまな周辺機器を接続できるようオープン仕様なのも特色で、デモでは両腕のロボットアームを中央の支柱にはめ込み、音声指示でそれを上下してみせた。2016年下半期に発売の予定という。

エクストリームスポーツで技の高さ、回転をリアルタイム表示


 一方、スポーツ関連では、バスケットボールなどのスポーツについて、360度どのアングルからでも即座にリプレーできる「フリーD」を、米リプレーテクノロジーズと共同開発中。

 また、米スポーツチャンネルのESPNとは、スノーボードはじめさまざまな種類のエクストリームスポーツを集めた競技大会「Xゲームズ」の放送で提携。ドローンやGoProのアクションカメラのほか、インテルのキュリーチップが採用され、例えば2月にコロラド州アスペンで開かれるスノーボード競技では、スノボにこのセンサーデバイスがつけられ、ジャンプの高さや回転、加速度(G)といったデータをリアルタイムでテレビ画面に表示する。同じくエクストリームスポーツの放送に力を入れるレッドブル・メディア・ハウスとも提携した。

 キュリーチップは小さいだけでなく、1個あたり10ドル未満という安さも売り物。スノボに加え、自転車競技のBMXや、空身でジャンプや宙返りを行うパフォーマンスなども含めて、放送のほかトレーニング、審判の判定、解説者のコメント、報道、医療向けのライフデータ収集といった用途に役立てられるという。

 メガネメーカーのオークリー(Oakley)とは、自転車やランニング向けのスマートメガネ「レーダーペース(Radarpace)」の共同開発に取り組む。グーグルグラスのように「OK、レーダー」とコンピューターに話しかけることによって、今どれくらいのペースで走っていて、これまでにはどれだけ走ったか、どれだけ高低差があるか、などのデータを音声で知ることができる。

 さらに、創業110年というスポーツシューズメーカーのニューバランスとは、ランナー向けのスマートウォッチを開発するという。クルザニッチCEOも当日履いていたが、顧客の足にぴったりフィットする3Dプリンター製のオーターメードランニングシューズも4月から事業展開する。

ARで作業を指示するスマートヘルメット


 産業用では米ダクリ(DAQRI)のスマートヘルメットが面白い。リアルセンスと「Core m7」プロセッサーを内蔵したAR(拡張現実)ヘルメットで、同日、出荷を開始した。例えば、プラントなどでの作業手順を実際の配管や部品に重ね合わせ、ヘルメット前部の透過型スクリーンに映し出す。熟練者でなくても作業手順が一目で分かる仕掛けだ。温度を色で可視化するサーモカメラ機能も備え、プラントの異常や危険を事前に知ることもできる。

 そのほか、音楽向けではキュリーを内蔵した腕時計のようなバンドを紹介。作曲家・歌手であり、映画『スラムドッグ$ミリオネア』の音楽を作曲したA.R.ラフマーンが登場し、空中で動かすと楽器の音が鳴るこのバンドを両手にはめ、演奏を披露した。
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
1つの時代の終わりと言えるかもしれない。PCでもうけてきたインテルが、ライバルARMからライセンス供与を受けて自社ファブでARMコアのチップも作るとは。 Edisonなどの集積度高いチップとモジュールを発表しIoT時代にふさわしいチップのあり方を模索してきたが、一向に花開かない事が続いてきた。  そのため、より大きなエコシステムと市場が出来上がっているARMライセンスドなチップの製造にブリッジをかけることで顧客とニーズを取りに行く、ひいては自社製品のラインナップにフィードバックをかけることもあり得るだろう。ARMを買収したソフトバンクはこのことを知っていたかどうか。何れにせよホクホクだ。自社他社競合の区別が再定義されるのがすべてが繋がり境目がなくなるIoT時代の面白さ。インテルの今後のロードマップや戦略がとても楽しみになってきた。

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