「47都道府県・一番搾り」に見る地域限定食品の作り方。各社が力を入れるワケ
新規開拓の有力ツールに。商品愛着高める
大手飲料・食品各社が地域限定商品に力を入れている。キリンビールは47都道府県それぞれ限定の「一番搾り」ビールを発売し、元気だ。販売好調で、同社は同ビールの年間販売目標を当初予定の約7割増となる200万ケース(1ケースは大瓶20本換算)に上方修正。アサヒビールやアサヒ飲料、日清食品、ハウス食品なども地域限定商品を発売している。地域限定商品の発想自体は新しいものではないが、数が増えているのは事実。景気不安で消費者が財布のひもを締め始めたと言われる中、地域限定は新たな購入のキーワードになる。
キリンビールはこれまでに40都道府県で、各県オリジナルの一番搾りビールを発売した。「鳥取や山形県など、これまで地元ビールを発売してこなかった地域から反応が良い」と、布施孝之社長は販売の伸びに手応えを感じている。
2015年も9工場限定の一番搾りビールを発売したが、工場発であるため名称は「取手づくり」「横浜づくり」など、工場立地県に限られていた。今回は47都道府県とした分、キリンビールの工場がない長崎や鳥取、徳島、青森、埼玉、広島などの県でも発売できる。
これらの県では、県名が商品名についているため「地元の居酒屋や料理店で、客寄せのため、ぜひとも店に置きたいと要望が多い」(布施社長)と語る。県名が入ったビールに地元料理を合わせて、提案しようとの思惑だ。
もっとも、単に県名が入っただけの商品ならば他にもある。キリンビールの一番搾りの場合、商品の味覚設計からコンセプトづくり、飲み方提案まで、同社社員と地域消費者が徹底して共同で関わっている点が特徴だ。
例えば広島づくりは広島カープの象徴である赤色を目指し、焙煎(ばいせん)麦芽などで褐色に近い液色にする。山形づくりは紅花色の液色にこだわり、低温麦汁濾過製法と県産ホップを使用するという具合だ。埼玉づくりは麦作の盛んな地域を象徴するため麦を多めに使用してモルト感を出し、缶はすでにほぼ完売したという。
ビール消費者に「キリンが考える、当県の味はこれだ」とお仕着せの商品を販売するのではなく、最初から開発に参加してもらうことで商品愛着を高める。47都道府県ビールの発売で、一番搾りを扱う料飲店はこれまでに1万店以上、増えた。
他社ビールを扱う料飲店の攻略には通常、多大の営業努力と年月、資金を必要とする。ビールを置いてもらうため同一店舗に長らく通い詰める営業マンの苦労を考えれば、キリンビールは新規開拓訪問で有力なツールを手に入れたことになる。
営業面でプラスになるのは確かだが、生産面においてコストが上がるとのデメリットを指摘する声もある。各県ごとに味の異なるビールを生産すれば、その都度、タンクの洗浄や原料交換が必要だし、都道府県一番搾りを生産するために他商品がつくれない機会損失も考慮する必要がある。
都道府県ビールの売り上げが伸びたからといって「一番搾り」ブランド全体の販売量が減っては元も子もない。こうした点はまだしばらく、販売数字を分析する必要がある。
6月下旬に関東・甲信越や東北など全国7地域で、それぞれ地域限定の「十六茶」を発売したアサヒ飲料。発売の狙いについて、大越洋二執行役員マーケティング本部長は「ブランドのニュース性にある」と明かす。
(「十六茶」では、それぞれの地域の原料を使用)
飲料の世界は商品の新陳代謝が激しく、新商品を発売しても売り場ではすぐに、他社新商品との生き残り競争を余儀なくされる。関東・甲信越とか北陸などのブランドがあれば、同じジャンルの飲料で消費者がどちらにするか考えたときに、選ばれる可能性は高い。
コンビニエンスストアなどの商品棚にも、入り込みやすい利点がある。アサヒビールは6月21日に、関西限定の「クリアアサヒ」を発売。販売数量は7月末までに7万ケースと目標の6万5000ケースを上回り、一般品のクリアアサヒとの競合はなく「クリアアサヒの数量にそのままプラスオンした感じ」(同社)という。
味の素ゼネラルフーヅ(東京都新宿区)は、独自開発した分析ツールを生かし、東北や関西など地域ブロック別に、店舗向けのコーヒー営業を展開している。東日本のコーヒー党はブラック好き、関西はミルクコーヒーや甘い味を好むというように、コーヒーの嗜好(しこう)は地域により違いがある。
「その違いを考慮し、店ごとにベストな品ぞろえを提案する」と同社。サントリー食品インターナショナルは8月23日から、関西エリアで「伊右衛門ほうじ茶 関西限定」を発売する。「伊右衛門シリーズで、地域限定商品は初めて。京番茶を使うことで関西人が好む味を出した」という。
日清食品は即席カップめん「どん兵衛」、ハウス食品は即席袋めん「うまかっちゃん」で、地域限定商品を発売している。これらの地域商品は帰省の際、みやげに使われるほどの人気だ。ポッカサッポロフード&ビバレッジ(名古屋市中区)も富良野ラベンダーティーなど国産希少素材商品を強化している。
「飲料競争の中、希少素材の使用は有力な武器になる」と國廣喜和武社長。地方創生が必要とされる今、動きはしばらく続きそうだ。
(文=嶋田歩)
消費者と徹底して“共同開発”
キリンビールはこれまでに40都道府県で、各県オリジナルの一番搾りビールを発売した。「鳥取や山形県など、これまで地元ビールを発売してこなかった地域から反応が良い」と、布施孝之社長は販売の伸びに手応えを感じている。
2015年も9工場限定の一番搾りビールを発売したが、工場発であるため名称は「取手づくり」「横浜づくり」など、工場立地県に限られていた。今回は47都道府県とした分、キリンビールの工場がない長崎や鳥取、徳島、青森、埼玉、広島などの県でも発売できる。
これらの県では、県名が商品名についているため「地元の居酒屋や料理店で、客寄せのため、ぜひとも店に置きたいと要望が多い」(布施社長)と語る。県名が入ったビールに地元料理を合わせて、提案しようとの思惑だ。
もっとも、単に県名が入っただけの商品ならば他にもある。キリンビールの一番搾りの場合、商品の味覚設計からコンセプトづくり、飲み方提案まで、同社社員と地域消費者が徹底して共同で関わっている点が特徴だ。
例えば広島づくりは広島カープの象徴である赤色を目指し、焙煎(ばいせん)麦芽などで褐色に近い液色にする。山形づくりは紅花色の液色にこだわり、低温麦汁濾過製法と県産ホップを使用するという具合だ。埼玉づくりは麦作の盛んな地域を象徴するため麦を多めに使用してモルト感を出し、缶はすでにほぼ完売したという。
お仕着せの商品ではなく
ビール消費者に「キリンが考える、当県の味はこれだ」とお仕着せの商品を販売するのではなく、最初から開発に参加してもらうことで商品愛着を高める。47都道府県ビールの発売で、一番搾りを扱う料飲店はこれまでに1万店以上、増えた。
他社ビールを扱う料飲店の攻略には通常、多大の営業努力と年月、資金を必要とする。ビールを置いてもらうため同一店舗に長らく通い詰める営業マンの苦労を考えれば、キリンビールは新規開拓訪問で有力なツールを手に入れたことになる。
営業面でプラスになるのは確かだが、生産面においてコストが上がるとのデメリットを指摘する声もある。各県ごとに味の異なるビールを生産すれば、その都度、タンクの洗浄や原料交換が必要だし、都道府県一番搾りを生産するために他商品がつくれない機会損失も考慮する必要がある。
都道府県ビールの売り上げが伸びたからといって「一番搾り」ブランド全体の販売量が減っては元も子もない。こうした点はまだしばらく、販売数字を分析する必要がある。
ブランドのニュース性でコンビニ棚に入り込む
6月下旬に関東・甲信越や東北など全国7地域で、それぞれ地域限定の「十六茶」を発売したアサヒ飲料。発売の狙いについて、大越洋二執行役員マーケティング本部長は「ブランドのニュース性にある」と明かす。
(「十六茶」では、それぞれの地域の原料を使用)
飲料の世界は商品の新陳代謝が激しく、新商品を発売しても売り場ではすぐに、他社新商品との生き残り競争を余儀なくされる。関東・甲信越とか北陸などのブランドがあれば、同じジャンルの飲料で消費者がどちらにするか考えたときに、選ばれる可能性は高い。
コンビニエンスストアなどの商品棚にも、入り込みやすい利点がある。アサヒビールは6月21日に、関西限定の「クリアアサヒ」を発売。販売数量は7月末までに7万ケースと目標の6万5000ケースを上回り、一般品のクリアアサヒとの競合はなく「クリアアサヒの数量にそのままプラスオンした感じ」(同社)という。
味の素ゼネラルフーヅ(東京都新宿区)は、独自開発した分析ツールを生かし、東北や関西など地域ブロック別に、店舗向けのコーヒー営業を展開している。東日本のコーヒー党はブラック好き、関西はミルクコーヒーや甘い味を好むというように、コーヒーの嗜好(しこう)は地域により違いがある。
味の違い、お土産で人気
「その違いを考慮し、店ごとにベストな品ぞろえを提案する」と同社。サントリー食品インターナショナルは8月23日から、関西エリアで「伊右衛門ほうじ茶 関西限定」を発売する。「伊右衛門シリーズで、地域限定商品は初めて。京番茶を使うことで関西人が好む味を出した」という。
日清食品は即席カップめん「どん兵衛」、ハウス食品は即席袋めん「うまかっちゃん」で、地域限定商品を発売している。これらの地域商品は帰省の際、みやげに使われるほどの人気だ。ポッカサッポロフード&ビバレッジ(名古屋市中区)も富良野ラベンダーティーなど国産希少素材商品を強化している。
「飲料競争の中、希少素材の使用は有力な武器になる」と國廣喜和武社長。地方創生が必要とされる今、動きはしばらく続きそうだ。
(文=嶋田歩)
日刊工業新聞2016年8月16日