「新しい東北」へ。震災復興5年半、産業の今
「失ったものは大きいが、挑戦する姿勢など得られた」
東日本大震災からまもなく5年半が経つ。政府の「集中復興期間」が3月で終了し、被災地の復興は次のステージに向かって動き始めた。医療、ロボットなど新たな産業の芽が生まれ、古くから地域に根付いた産業にも動きがみられる。新しい姿へ生まれ変わろうとしている東北の姿を追った。
トヨタ自動車のコンパクトカーを生産するトヨタ自動車東日本(TMEJ、宮城県大衡村)。設立4年を迎え、域内サプライヤーの数も増加し、東北経済のけん引役として存在感を増している。
人気車種「アクア」の生産でフル稼働を続けるTMEJ岩手工場(岩手県金ケ崎町)は、生産能力の増強に向けて3―11月に期間従業員230人を募集している。しかし「現段階で採用人数は2ケタにとどまる」と担当者は足元の採用難に頭を抱える。
宮城県大河原町に工場を構える鋳造業のコイワイ(神奈川県小田原市)も「熟練技術者の採用に苦労している」(小岩井豊己社長)と同様の悩みを持つ。
厚生労働省がまとめた6月の有効求人倍率(季節調整値)は、岩手県1・39倍、宮城県1・54倍、山形県1・41倍、福島県1・60倍。震災被害が大きかった3県を含むこの4県は全国平均の1・37倍を上回る。
全国的に企業の求人が増加する中、東北においては建設業中心とした求人数が高止まりを続けるものの、雇用のミスマッチも存在し、事業規模を問わず人材確保に工夫が求められている。
東北沿岸地域の基幹産業である水産加工業。水産庁が2月に公表したアンケートによると、青森、岩手、宮城、福島、茨城の5県で売り上げが震災前の水準に回復した企業は5割を切る。震災後1年でほぼ震災前の水準にまで回復したとされる鉱工業生産と比べ、水産加工業は苦戦を強いられている。
「三陸を世界トップの水産ブランドに」。これを合言葉に、東北六県商工会議所連合会、東北経済産業局などは「三陸地域水産加工業等振興推進協議会」を設置した。宮城県の気仙沼漁港、岩手県の釜石漁港、青森県の八戸漁港など三陸地域の水産物の輸出に関わるブランド価値向上が最大のテーマだ。
7月末に「第1回三陸ブランド検討委員会」を開催し、宮城大学、仙台商工会議所、東北経済連合会、地元の水産加工業など産学官の29人が出席。「栄養成分が豊かな海で自然と共生してカキ、ホタテ、ホヤなどの養殖に取り組んできたことを強調すべきだ」(古藤野靖末永海産執行役員)、「魚種が多い三陸は、宮城の金華サバ、青森の前沖サバなど具体的に売り込む必要がある」(仙台商工会議所の佐藤充昭中小企業支援部長)など意見が活発に出された。
(震災後に再建された石巻魚市場。国内最大規模を誇る)
福島県は医療関連産業の集積地を目指す。県内に立地するオリンパスの生産拠点では世界の消化器内視鏡の約7割が生産される。ほかにも国内外約60社の医療機器製造業が立地するポテンシャルを生かし、県は「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト」を推進する。
福島県郡山市で開かれた「ふくしま医療福祉機器開発事業費補助金成果報告会&交流会」では関連企業18社が成果品を展示し、医療・福祉関係者にアピールした。
福島県の大越正弘医療関連産業集積推進室長は「事業成果を製品化して販売につなげることが重要。販路開拓などで継続的な支援を実施していく」と話す。県内では医療のほか、災害用ロボットの事業化を目指す地場企業の動きも出ている。
山形県は10月に「やまがた技能五輪・アビリンピック2016」の開催を控える。大会スローガンは「輝け!ものづくり東北の未来」。
山形開催は初めてで、東北のモノづくりの早期復興・発展に向け、東北各県や経済団体が一体となって大会招致に動いた。東北のモノづくり力を結集し、震災を乗り越え、新しい姿を全国に発信する役割が期待される。
「震災で失ったものは大きいが、挑戦する姿勢など得られたものもある」。当時、苦境に陥った企業からはこんな声も聞かれるようになった。
12月には、震災後運休していたJR常磐線の相馬(福島県相馬市)―浜吉田(宮城県亘理町)間で運転が再開される。仙台圏と福島県を結ぶ鉄路の再開で、復興の活発化や交流人口の増加が期待できる。
東北は震災前から人口流出などさまざまな問題を抱えていた。目指すのは震災前ではなく、新しい姿だ。未来を見つめる全ての人の取り組みが実を結び、「新しい東北」を浮かび上がらせる日はそう遠くはない。
(文=仙台・苦瓜朋子、福島支局長・阿部義秀、山形支局長・大矢修一)
トヨタ、経済けん引役として存在感
トヨタ自動車のコンパクトカーを生産するトヨタ自動車東日本(TMEJ、宮城県大衡村)。設立4年を迎え、域内サプライヤーの数も増加し、東北経済のけん引役として存在感を増している。
人気車種「アクア」の生産でフル稼働を続けるTMEJ岩手工場(岩手県金ケ崎町)は、生産能力の増強に向けて3―11月に期間従業員230人を募集している。しかし「現段階で採用人数は2ケタにとどまる」と担当者は足元の採用難に頭を抱える。
宮城県大河原町に工場を構える鋳造業のコイワイ(神奈川県小田原市)も「熟練技術者の採用に苦労している」(小岩井豊己社長)と同様の悩みを持つ。
厚生労働省がまとめた6月の有効求人倍率(季節調整値)は、岩手県1・39倍、宮城県1・54倍、山形県1・41倍、福島県1・60倍。震災被害が大きかった3県を含むこの4県は全国平均の1・37倍を上回る。
全国的に企業の求人が増加する中、東北においては建設業中心とした求人数が高止まりを続けるものの、雇用のミスマッチも存在し、事業規模を問わず人材確保に工夫が求められている。
「三陸」世界の水産ブランドへ6県で振興
東北沿岸地域の基幹産業である水産加工業。水産庁が2月に公表したアンケートによると、青森、岩手、宮城、福島、茨城の5県で売り上げが震災前の水準に回復した企業は5割を切る。震災後1年でほぼ震災前の水準にまで回復したとされる鉱工業生産と比べ、水産加工業は苦戦を強いられている。
「三陸を世界トップの水産ブランドに」。これを合言葉に、東北六県商工会議所連合会、東北経済産業局などは「三陸地域水産加工業等振興推進協議会」を設置した。宮城県の気仙沼漁港、岩手県の釜石漁港、青森県の八戸漁港など三陸地域の水産物の輸出に関わるブランド価値向上が最大のテーマだ。
7月末に「第1回三陸ブランド検討委員会」を開催し、宮城大学、仙台商工会議所、東北経済連合会、地元の水産加工業など産学官の29人が出席。「栄養成分が豊かな海で自然と共生してカキ、ホタテ、ホヤなどの養殖に取り組んできたことを強調すべきだ」(古藤野靖末永海産執行役員)、「魚種が多い三陸は、宮城の金華サバ、青森の前沖サバなど具体的に売り込む必要がある」(仙台商工会議所の佐藤充昭中小企業支援部長)など意見が活発に出された。
(震災後に再建された石巻魚市場。国内最大規模を誇る)
医療機器・ロボ集積進む福島、モノづくり復権に意欲
福島県は医療関連産業の集積地を目指す。県内に立地するオリンパスの生産拠点では世界の消化器内視鏡の約7割が生産される。ほかにも国内外約60社の医療機器製造業が立地するポテンシャルを生かし、県は「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト」を推進する。
福島県郡山市で開かれた「ふくしま医療福祉機器開発事業費補助金成果報告会&交流会」では関連企業18社が成果品を展示し、医療・福祉関係者にアピールした。
福島県の大越正弘医療関連産業集積推進室長は「事業成果を製品化して販売につなげることが重要。販路開拓などで継続的な支援を実施していく」と話す。県内では医療のほか、災害用ロボットの事業化を目指す地場企業の動きも出ている。
山形県は10月に「やまがた技能五輪・アビリンピック2016」の開催を控える。大会スローガンは「輝け!ものづくり東北の未来」。
山形開催は初めてで、東北のモノづくりの早期復興・発展に向け、東北各県や経済団体が一体となって大会招致に動いた。東北のモノづくり力を結集し、震災を乗り越え、新しい姿を全国に発信する役割が期待される。
「震災で失ったものは大きいが、挑戦する姿勢など得られたものもある」。当時、苦境に陥った企業からはこんな声も聞かれるようになった。
12月には、震災後運休していたJR常磐線の相馬(福島県相馬市)―浜吉田(宮城県亘理町)間で運転が再開される。仙台圏と福島県を結ぶ鉄路の再開で、復興の活発化や交流人口の増加が期待できる。
東北は震災前から人口流出などさまざまな問題を抱えていた。目指すのは震災前ではなく、新しい姿だ。未来を見つめる全ての人の取り組みが実を結び、「新しい東北」を浮かび上がらせる日はそう遠くはない。
(文=仙台・苦瓜朋子、福島支局長・阿部義秀、山形支局長・大矢修一)
日刊工業新聞2016年8月16日 中小企業・地域経済面