リオ開幕!トヨタの自動運転開発とパラリンピックの意外な関係
障害者の「ファンツードライブ」が共通の価値を創造する
連日熱戦が繰り広げられるブラジル・リオデジャネイロ五輪。9月7日にはリオパラリンピックが開幕する。パラリンピックはスポーツとしての注目度が高まっているだけでなく国内モノづくりに与える影響も大きくなっている。とりわけ自動車業界。トヨタ自動車はパラリンピック支援をきっかけに自動運転開発を加速したと公言している。トヨタ以外にも競技用具を開発する動きが活発化している。2020年東京パラリンピックを控える中、障害者支援という観点が国内自動車産業の技術を一段上げる要素となりそうだ。
「パラリンピックこそトヨタの果たす役割がある」。豊田章男トヨタ社長は、こう強調する。トヨタは五輪の世界最高位スポンサーに続き、パラリンピックの世界最高位スポンサー契約を締結。豊田社長は「パラリンピックのスポンサーをするためにオリンピックのスポンサーをしているとも思う」というほどパラリンピックに対し熱い思いを抱く。
自動運転技術に対するトヨタの姿勢は、パラリンピックをきっかけに変化している。トヨタは20年ごろに自動車専用道路での自動運転車の実用化を目指しており、一般道に対応できる自動運転車も開発している。そんなトヨタも少し前までは自動運転と距離を置いていた。
「24時間レースで自動運転が人(の運転)に勝ったら、もう少し(開発を)進める」。豊田社長は以前、冗談交じりにこんなことも言っていた。またパラリンピック選手や障害者にとっては福祉車両「ウェルキャブ」シリーズが最適なクルマと考えていたという。しかしパラリンピックに携わるようになり選手らの話を聞くと、そうした考えが「自分本位だった」(豊田社長)と気付くことになる。
「私たちもかっこいいスポーツカーに乗りたい」。障害者が本当に求めているのは、まさにトヨタがスローガンに掲げる「ファンツードライブ」そのもの。障害者に、そのファンツードライブを提供する方法こそ自動運転だった。
トヨタが自動運転の見方を変えたところにギル・プラット氏との出会いがあった。プラット氏はトヨタが米シリコンバレーに設立した人工知能(AI)研究拠点「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)の最高経営責任者(CEO)に就任。AIは自動運転の高度化に欠かせない。プラットCEOは障害者や高齢者を含めた「すべての人のためのモビリティーがトヨタのテーマ」と強調する。
7月7日、豊田社長の姿は義足などを製作する鉄道弘済会義肢装具サポートセンター(東京都荒川区)にあった。経団連オリンピック・パラリンピック等推進委員会委員長としての活動の一環で、ハンマー投げの室伏広治氏とともに訪問。義肢装具士の臼井二美男氏や義足の走り高跳び選手の鈴木徹さん、同じく短距離走者の村上清加さんらと交流を持った。
走り高跳びは走り幅跳びとは異なり、踏切足に「ねじり」の動きが生じるため「(踏切足が)義足の選手はいない」(鈴木さん)という。豊田社長は「義足の技術革新が進まない限り無理なのですね」と競技用具の進化の重要性を再認識した。競技用具なくして成り立たないパラリンピック。その用具は進化しており、さらなる進化も期待されている。
(今仙技術研究所がミズノと共同開発したスポーツ用義足板バネ)
自動車業界では培った技術を生かしてパラリンピック競技用具を開発する動きが活発化している。シート骨格部品メーカーの今仙電機製作所の子会社で、福祉用具を手がける今仙技術研究所(岐阜県各務原市)。ミズノと共同で炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の短距離走用義足板バネを開発した。
リオパラリンピックに出場する、走り幅跳び選手の山本篤さんや義肢装具士の臼井氏も開発に協力。コンピューター構造解析も駆使し日本人に合わせた形状を追求した。競技用義足板バネは現在、海外メーカーが市場を席巻している。今回、世界で戦える「国産義足」を目指し開発したという。
ホンダ系の完成車・部品メーカーの八千代工業は、陸上競技用車いすを手がける。同社所属の車いすマラソン選手の土田和歌子さんは、同社製車いすを使ってリオパラリンピックに出場する。同社は本田技術研究所などと炭素繊維をフレームに採用した軽量車いすを共同開発し、販売している。
豊田トヨタ社長は東京パラリンピックに向け「日本のモノづくりが果たす役割は大きい」と主張する。日本の技術力により進化した競技用具を使い、日本人選手が活躍する―。そんな東京パラリンピックを期待したい。
(文=名古屋・伊藤研二)
トヨタの熱い思い、“すべての人に”
「パラリンピックこそトヨタの果たす役割がある」。豊田章男トヨタ社長は、こう強調する。トヨタは五輪の世界最高位スポンサーに続き、パラリンピックの世界最高位スポンサー契約を締結。豊田社長は「パラリンピックのスポンサーをするためにオリンピックのスポンサーをしているとも思う」というほどパラリンピックに対し熱い思いを抱く。
自動運転技術に対するトヨタの姿勢は、パラリンピックをきっかけに変化している。トヨタは20年ごろに自動車専用道路での自動運転車の実用化を目指しており、一般道に対応できる自動運転車も開発している。そんなトヨタも少し前までは自動運転と距離を置いていた。
「24時間レースで自動運転が人(の運転)に勝ったら、もう少し(開発を)進める」。豊田社長は以前、冗談交じりにこんなことも言っていた。またパラリンピック選手や障害者にとっては福祉車両「ウェルキャブ」シリーズが最適なクルマと考えていたという。しかしパラリンピックに携わるようになり選手らの話を聞くと、そうした考えが「自分本位だった」(豊田社長)と気付くことになる。
「私たちもかっこいいスポーツカーに乗りたい」。障害者が本当に求めているのは、まさにトヨタがスローガンに掲げる「ファンツードライブ」そのもの。障害者に、そのファンツードライブを提供する方法こそ自動運転だった。
ギル・プラットとの出会い
トヨタが自動運転の見方を変えたところにギル・プラット氏との出会いがあった。プラット氏はトヨタが米シリコンバレーに設立した人工知能(AI)研究拠点「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)の最高経営責任者(CEO)に就任。AIは自動運転の高度化に欠かせない。プラットCEOは障害者や高齢者を含めた「すべての人のためのモビリティーがトヨタのテーマ」と強調する。
7月7日、豊田社長の姿は義足などを製作する鉄道弘済会義肢装具サポートセンター(東京都荒川区)にあった。経団連オリンピック・パラリンピック等推進委員会委員長としての活動の一環で、ハンマー投げの室伏広治氏とともに訪問。義肢装具士の臼井二美男氏や義足の走り高跳び選手の鈴木徹さん、同じく短距離走者の村上清加さんらと交流を持った。
走り高跳びは走り幅跳びとは異なり、踏切足に「ねじり」の動きが生じるため「(踏切足が)義足の選手はいない」(鈴木さん)という。豊田社長は「義足の技術革新が進まない限り無理なのですね」と競技用具の進化の重要性を再認識した。競技用具なくして成り立たないパラリンピック。その用具は進化しており、さらなる進化も期待されている。
自動車技術で競技用具開発が活発化
(今仙技術研究所がミズノと共同開発したスポーツ用義足板バネ)
自動車業界では培った技術を生かしてパラリンピック競技用具を開発する動きが活発化している。シート骨格部品メーカーの今仙電機製作所の子会社で、福祉用具を手がける今仙技術研究所(岐阜県各務原市)。ミズノと共同で炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の短距離走用義足板バネを開発した。
リオパラリンピックに出場する、走り幅跳び選手の山本篤さんや義肢装具士の臼井氏も開発に協力。コンピューター構造解析も駆使し日本人に合わせた形状を追求した。競技用義足板バネは現在、海外メーカーが市場を席巻している。今回、世界で戦える「国産義足」を目指し開発したという。
ホンダ系の完成車・部品メーカーの八千代工業は、陸上競技用車いすを手がける。同社所属の車いすマラソン選手の土田和歌子さんは、同社製車いすを使ってリオパラリンピックに出場する。同社は本田技術研究所などと炭素繊維をフレームに採用した軽量車いすを共同開発し、販売している。
豊田トヨタ社長は東京パラリンピックに向け「日本のモノづくりが果たす役割は大きい」と主張する。日本の技術力により進化した競技用具を使い、日本人選手が活躍する―。そんな東京パラリンピックを期待したい。
(文=名古屋・伊藤研二)
日刊工業新聞2016年8月15日