1万2000km走行が保有の境界線?シェアリングは自動車業界を揺るがすか
主要国でクルマの保有台数が最大半分に?影響は限定的、と見方が分かれる
ライドシェア(相乗り)やカーシェアといった“シェアリング”の波が自動車業界に押し寄せている。車の所有から利用という価値観の変化のうねりは、既存の車ビジネスを根幹から揺るがす可能性がある。トヨタ自動車がライドシェア最大手米ウーバーテクノロジーズと提携するなど車メーカーが新たな潮流を見据えた動きを取っている。
スマートフォンなどのアプリを利用して車を呼び出し、一般の運転手に目的地まで運んでもらうライドシェアサービス。最大手ウーバーは米国で2010年にサービスを始め、利便性や安さが受けて急速に広まり、今や世界の500超の都市で展開している。
こうした潮流を背景に、車メーカーが相次いで触手を伸ばしている。「ライドシェアは、未来のモビリティー社会を創造する上で大きな可能性を秘めている」(トヨタの友山茂樹専務役員)というトヨタはウーバーと5月に資本業務提携を発表。ライドシェアが拡大している地域で試験的な取り組みをして新たなサービスを模索するという。
同日に独フォルクスワーゲン(VW)がライドシェアを手がけるイスラエルのゲットに3億ユーロ出資したとも発表。これに先立つ1月には、米ゼネラルモーターズ(GM)がライドシェア大手米リフトに5億ドルを出資すると発表している。世界3大車メーカーがライドシェアを巡って対峙する構図となった。
「これまでの量販型のビジネスモデルは成長限界を迎える懸念がある」と分析するのはみずほ銀行産業調査部の斉藤智美氏。自動車の普及に伴い環境問題や交通事故、渋滞といった社会的費用が増大する。長期的には台数増は限界に達し、たくさん作ってたくさん売るというこれまでのビジネスモデルが勢いを失う。
一方、増大する移動ニーズを満たすためには台数をいたずらに増やすことなく移動の手段を提供する必要がある。「そのソリューションとしてシェアリングがある。私有を前提としない領域まで含めた移動ソリューションの構築に本気で取り組む必要がある」とみずほ銀行の斉藤氏は指摘する。
デロイトトーマツコンサルティングによると年1万2000キロメートル以上走行する場合、車を保有する方が安くなる。それ以下はカーシェアの方が安くなり、同1000キロメートルを下回るとライドシェアが最も経済合理的となる。
仮に年1万2000キロメートル以下のユーザーがカーシェアかライドシェアに移行した場合、主要地域の乗用車保有台数が最大で50%減り、2台に1台がシェアリング車両になる可能性があるという。
一方で、カーシェアやライドシェアは今後もレンタカーやタクシーの代わりという位置付けに留まり、自動車の所有に大きな影響は与えないとの調査報告もある。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査はカーシェアに限ったものだが、それによれば21年の調査対象地域の新車販売台数7800万台のうち、カーシェア拡大により新車販売の減少分は約80万台の1・0%に留まるという。
デロイトは新興国で近年シェアリングが急速に拡大していることに注目している。シェアリングサービスによる収入を当てにして車を購入するケースが増えており、一部の国では新車販売台数を押し上げる要因となっているという。
最近のベトナム市場ではウーバー利用者による新車購入が目立ち、新車販売を押し上げている。ASEANでは「規制が緩やかなこともあり、社会的・規制的に、個人がさまざまな形で副収入を得ることが珍しくないことも要因だろう」(デロイト)としている。
一方の先進国。日本ではライドシェアは“白タク”に当たるとして通常のサービスは認められていない。タクシー業界が規制緩和に強く反発している。トヨタはウーバーとの提携で日本を対象地域に入らないようにしている。欧州の一部でタクシー業者の反対運動にあっており、サービスの拡大は限定的になっている。シェアリングがまんべんなく拡大するには壁も多い。
(文=池田勝敏)
波がどこまで拡大するかは未知数だが、ここまで受け入れられている現実を目の当たりにして、傍観していられないというのがメーカーの本音だろう。
(日刊工業新聞社第一産業部・池田勝敏)
『ベトナム市場ではウーバー利用者による新車購入が目立ち、新車販売を押し上げている』というのが面白い。「そのものを買って自分が使うこと」が、購入のゴールではなく、「それを使ってどんなことができるのか」というシステム的な視点で購買が動き始めているというのは、購買行動の進化かもしれません。
これは、自動車業界に限らず、他の様々な産業でも起こってきていることではないでしょうか。
世界3大車メーカーがライドシェアを巡って対峙
スマートフォンなどのアプリを利用して車を呼び出し、一般の運転手に目的地まで運んでもらうライドシェアサービス。最大手ウーバーは米国で2010年にサービスを始め、利便性や安さが受けて急速に広まり、今や世界の500超の都市で展開している。
こうした潮流を背景に、車メーカーが相次いで触手を伸ばしている。「ライドシェアは、未来のモビリティー社会を創造する上で大きな可能性を秘めている」(トヨタの友山茂樹専務役員)というトヨタはウーバーと5月に資本業務提携を発表。ライドシェアが拡大している地域で試験的な取り組みをして新たなサービスを模索するという。
同日に独フォルクスワーゲン(VW)がライドシェアを手がけるイスラエルのゲットに3億ユーロ出資したとも発表。これに先立つ1月には、米ゼネラルモーターズ(GM)がライドシェア大手米リフトに5億ドルを出資すると発表している。世界3大車メーカーがライドシェアを巡って対峙する構図となった。
量販型のビジネスモデルは成長の限界に
「これまでの量販型のビジネスモデルは成長限界を迎える懸念がある」と分析するのはみずほ銀行産業調査部の斉藤智美氏。自動車の普及に伴い環境問題や交通事故、渋滞といった社会的費用が増大する。長期的には台数増は限界に達し、たくさん作ってたくさん売るというこれまでのビジネスモデルが勢いを失う。
一方、増大する移動ニーズを満たすためには台数をいたずらに増やすことなく移動の手段を提供する必要がある。「そのソリューションとしてシェアリングがある。私有を前提としない領域まで含めた移動ソリューションの構築に本気で取り組む必要がある」とみずほ銀行の斉藤氏は指摘する。
デロイトトーマツコンサルティングによると年1万2000キロメートル以上走行する場合、車を保有する方が安くなる。それ以下はカーシェアの方が安くなり、同1000キロメートルを下回るとライドシェアが最も経済合理的となる。
仮に年1万2000キロメートル以下のユーザーがカーシェアかライドシェアに移行した場合、主要地域の乗用車保有台数が最大で50%減り、2台に1台がシェアリング車両になる可能性があるという。
新車販売台数の減少は1%に留まる?
一方で、カーシェアやライドシェアは今後もレンタカーやタクシーの代わりという位置付けに留まり、自動車の所有に大きな影響は与えないとの調査報告もある。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査はカーシェアに限ったものだが、それによれば21年の調査対象地域の新車販売台数7800万台のうち、カーシェア拡大により新車販売の減少分は約80万台の1・0%に留まるという。
デロイトは新興国で近年シェアリングが急速に拡大していることに注目している。シェアリングサービスによる収入を当てにして車を購入するケースが増えており、一部の国では新車販売台数を押し上げる要因となっているという。
最近のベトナム市場ではウーバー利用者による新車購入が目立ち、新車販売を押し上げている。ASEANでは「規制が緩やかなこともあり、社会的・規制的に、個人がさまざまな形で副収入を得ることが珍しくないことも要因だろう」(デロイト)としている。
一方の先進国。日本ではライドシェアは“白タク”に当たるとして通常のサービスは認められていない。タクシー業界が規制緩和に強く反発している。トヨタはウーバーとの提携で日本を対象地域に入らないようにしている。欧州の一部でタクシー業者の反対運動にあっており、サービスの拡大は限定的になっている。シェアリングがまんべんなく拡大するには壁も多い。
(文=池田勝敏)
記者ファシリテーターの見方
波がどこまで拡大するかは未知数だが、ここまで受け入れられている現実を目の当たりにして、傍観していられないというのがメーカーの本音だろう。
(日刊工業新聞社第一産業部・池田勝敏)
ファシリテーター・土田智憲氏の見方
『ベトナム市場ではウーバー利用者による新車購入が目立ち、新車販売を押し上げている』というのが面白い。「そのものを買って自分が使うこと」が、購入のゴールではなく、「それを使ってどんなことができるのか」というシステム的な視点で購買が動き始めているというのは、購買行動の進化かもしれません。
これは、自動車業界に限らず、他の様々な産業でも起こってきていることではないでしょうか。
日刊工業新聞2016年8月12日