「小売自由化」で電力とガス統合の可能性が。数社の「総合エネルギー企業」に収れんか
<情報工場 「読学」のススメ#11>『検証 電力ビジネス」(井熊 均 編著)
**大手企業と地域密着生活サービス企業の「二極化」というシナリオ
ここに来て「電気」をめぐる動きが活発になってきている。いわゆる「電力自由化」だ。東日本大震災、福島第一原発事故発生後の電力状況を踏まえ、規制を緩和することで競争力を高め、技術革新と安定した質の良い電力供給をめざすことが目的。2015年4月には、地域をまたいだ電力の融通を円滑にする「電力広域的運営推進機関」が設立され、2020年には「発送電分離」の実現を目指す。しかし、何と言っても話題を呼んだのが、2016年4月からの「電力小売自由化」だ。
盛んにTVCMを打つなど宣伝に力を入れている企業もあったので、関心をもった人も多いことだろう。自由化以前は、一般家庭や小規模事業者向けの「低圧」電力の販売(契約)は、大手電力会社10社(東京電力、関西電力など地域ごとにつくられた電力会社)が独占していた。それを、2016年4月1日から完全自由化し、他業種からの参入を可能としたのだ。
それを受けて、大手ガス会社、新電力(大規模事業者向けに高圧電力を提供していた新興電力会社)、商社、携帯電話会社、ケーブルテレビなど、実にバラエティに富んだ企業が参入。資源エネルギー庁によれば、7月14日現在で318社が名乗りを上げている。
実際に電気の契約を切り替えたのは、6月末の時点で126万4400件で、総契約数の2割強だった。ただし、大手ガス会社は強く、東京ガスは40万件という目標を7月20日時点で達成し、目標を53万件に上方修正した。
『検証 電力ビジネス』(日刊工業新聞社)では、こうした電力自由化の波の中で、再生可能エネルギー関連をはじめとするさまざまな新ビジネスが勃興している日本および世界の現況をリポート、分析している。電力・エネルギーをめぐる動向のほぼすべてを俯瞰できる、有益な一冊だ。
同書によれば、今回の小売自由化の本質的な目的は「企業間の競争を促し低廉で質の高いサービスを提供すること、グローバルに競争できる事業者を輩出すること」だという。「企業間の競争」ということでは、圧倒的に優位なのは当然、既存の大手電力会社だ。次いで独自の販売網や発電機能をもつ大手ガス会社になる。大手電力会社同士、あるいは電力会社VSガス会社の競争になるとも考えられるが、同書では「電力・ガス会社が合従連衡し、いずれは数社に統合される」というシナリオを指摘している。
かつて銀行業界がいくつかの大グループに収れんしたように、あるいは現在進行形で合併が進む石油元売り業界のように、数社の「総合エネルギー企業」にまとまるというのだ。1年後には、ガスの小売も自由化されるため、十分考えられるシナリオだ。自由化が進むドイツでは8大電力会社が4大電力会社になったという先例もある。
そのドイツで、電力小売の5割弱のシェアを獲得しているのが「シュタットベルケ」という地域エネルギー会社だという。900社近くあり、各地域の住民や地元企業に電力を供給している。ただしシュタットベルケは電力会社ではなく、ガス、水道、公共交通、通信、廃棄物なども扱う生活インフラサービス会社である。ドイツの電力供給は、四つに収れんされた大手電力会社と、地域密着のシュタットベルケに二極化しているのだろう。
日本とドイツをまったく同じに考えるわけにはいかないが、日本でも同様の二極化が進むのではないだろうか。というよりもそうならざるをえない気がする。なぜなら、電力の需要が減っているからだ。同書でも、3.11以来の産業界をあげた省エネ努力、世帯数の伸びの鈍化、さらにスマート化が進むことで、電力消費量が減少に転じる可能性が高いことを指摘している。
需要が減らなければ、小売事業者が多くても、なんとか収益を上げていくことは可能だろう。だが、顧客のパイが小さければ当然淘汰が起こる。その結果として二極化が起こる。同様のことは、今後、たとえば大学や病院などでも起きてくるのではないだろうか。
ここに来て「電気」をめぐる動きが活発になってきている。いわゆる「電力自由化」だ。東日本大震災、福島第一原発事故発生後の電力状況を踏まえ、規制を緩和することで競争力を高め、技術革新と安定した質の良い電力供給をめざすことが目的。2015年4月には、地域をまたいだ電力の融通を円滑にする「電力広域的運営推進機関」が設立され、2020年には「発送電分離」の実現を目指す。しかし、何と言っても話題を呼んだのが、2016年4月からの「電力小売自由化」だ。
盛んにTVCMを打つなど宣伝に力を入れている企業もあったので、関心をもった人も多いことだろう。自由化以前は、一般家庭や小規模事業者向けの「低圧」電力の販売(契約)は、大手電力会社10社(東京電力、関西電力など地域ごとにつくられた電力会社)が独占していた。それを、2016年4月1日から完全自由化し、他業種からの参入を可能としたのだ。
それを受けて、大手ガス会社、新電力(大規模事業者向けに高圧電力を提供していた新興電力会社)、商社、携帯電話会社、ケーブルテレビなど、実にバラエティに富んだ企業が参入。資源エネルギー庁によれば、7月14日現在で318社が名乗りを上げている。
実際に電気の契約を切り替えたのは、6月末の時点で126万4400件で、総契約数の2割強だった。ただし、大手ガス会社は強く、東京ガスは40万件という目標を7月20日時点で達成し、目標を53万件に上方修正した。
『検証 電力ビジネス』(日刊工業新聞社)では、こうした電力自由化の波の中で、再生可能エネルギー関連をはじめとするさまざまな新ビジネスが勃興している日本および世界の現況をリポート、分析している。電力・エネルギーをめぐる動向のほぼすべてを俯瞰できる、有益な一冊だ。
同書によれば、今回の小売自由化の本質的な目的は「企業間の競争を促し低廉で質の高いサービスを提供すること、グローバルに競争できる事業者を輩出すること」だという。「企業間の競争」ということでは、圧倒的に優位なのは当然、既存の大手電力会社だ。次いで独自の販売網や発電機能をもつ大手ガス会社になる。大手電力会社同士、あるいは電力会社VSガス会社の競争になるとも考えられるが、同書では「電力・ガス会社が合従連衡し、いずれは数社に統合される」というシナリオを指摘している。
かつて銀行業界がいくつかの大グループに収れんしたように、あるいは現在進行形で合併が進む石油元売り業界のように、数社の「総合エネルギー企業」にまとまるというのだ。1年後には、ガスの小売も自由化されるため、十分考えられるシナリオだ。自由化が進むドイツでは8大電力会社が4大電力会社になったという先例もある。
そのドイツで、電力小売の5割弱のシェアを獲得しているのが「シュタットベルケ」という地域エネルギー会社だという。900社近くあり、各地域の住民や地元企業に電力を供給している。ただしシュタットベルケは電力会社ではなく、ガス、水道、公共交通、通信、廃棄物なども扱う生活インフラサービス会社である。ドイツの電力供給は、四つに収れんされた大手電力会社と、地域密着のシュタットベルケに二極化しているのだろう。
日本とドイツをまったく同じに考えるわけにはいかないが、日本でも同様の二極化が進むのではないだろうか。というよりもそうならざるをえない気がする。なぜなら、電力の需要が減っているからだ。同書でも、3.11以来の産業界をあげた省エネ努力、世帯数の伸びの鈍化、さらにスマート化が進むことで、電力消費量が減少に転じる可能性が高いことを指摘している。
需要が減らなければ、小売事業者が多くても、なんとか収益を上げていくことは可能だろう。だが、顧客のパイが小さければ当然淘汰が起こる。その結果として二極化が起こる。同様のことは、今後、たとえば大学や病院などでも起きてくるのではないだろうか。
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