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報告書で明らかになった三菱自全社の病巣。根強い益子氏続投論はこれで封じ込められた

2回の内部告発をつかむチャンス逃す。三菱グループ主導の再生は最も大切なことを見落としていた
報告書で明らかになった三菱自全社の病巣。根強い益子氏続投論はこれで封じ込められた

会見する益子会長兼社長

 三菱自動車は2日、燃費不正問題の実態を解明するために設けた特別調査委員会の報告書を公表した。調査委は不正問題について開発部門だけの問題ではなく、経営陣をはじめとする会社全体の問題だと指摘。自動車の開発に対する理念の共有がされず、全社一体となって取り組むという姿勢が欠けていたことが本質的な原因だったとの考えを示した。

 調査委は不正があった軽自動車について燃費目標を達成するため、燃費算出の基なるデータ「走行抵抗」の恣意(しい)的な算出と引き下げが行われたと認定。開発が進むにつれ「走行抵抗の不正な作出が行われたと認定している」(調査委の吉野弦太弁護士)と厳しく指摘した。

 再発防止策について調査委は、個別・具体的な再発防止策を提示するのではなく、車の開発プロセスの見直しなど三菱自が自ら再発防止策を考えるための指針を示すことに留めた。

 同日会見した三菱自の益子修会長兼社長は調査委の指摘を重く受け止めるとし、「社員、役員のすべてが車づくりの原点に立ち返り、目指すべき理念を議論し、一体となって改革を実行する」と述べた。

益子氏「新しい課題を整理して引き継ぐことも責任」


 三菱自動車の益子修会長兼社長は2日、特別調査委員会の報告を受けて都内で会見を開き、「自動車メーカーの経営者として深刻に受け止めている」と話した。新たな不正が発覚し不正の芽を摘めない組織体質の課題が改めて浮き彫りになり、「現場の生の声にもっと向き合う努力をすべきだった」とした。1車種の開発を中止したことも明らかにし、身の丈に合った規模に改め再発防止を徹底する考えを強調した。

 特別調査委の報告では「開発本部だけでなく経営陣をはじめとする会社全体の問題である」と指摘。新たな不正も明らかになった。益子修会長兼社長は「経営責任は免れない。再発防止を進めて新しい課題を整理して引き継ぐことも責任だ」と述べた。これまでと同様に早期辞任を否定し、自身の進退は資本業務提携で基本合意した日産自動車からの出資を受けた後の新体制に委ねる姿勢を重ねて示した。

 さらに調査委の報告では2011年の社内アンケートで不正を指摘する声が上がっていたが、不正を見逃していたことが明らかになった。益子会長は「発見する機会があったのにそれを逸してしまったのは重く受け止めている。反省し改善しないといけない」とし、再発防止を徹底する方針だ。

 益子会長は「身の丈を超えた過大な車種展開が不正の背景にあったと改めて認識した」とも話し、小型スポーツ多目的車(SUV)「RVR」と中型SUV「アウトランダー」の間の大きさに相当する新型SUVのプラグインハイブリッド車(PHV)の開発を中止したことを明らかにした。同車種は17年度に発売する計画だった。

 会見には三菱自の開発部門の組織改革として日産から派遣された開発担当の山下光彦副社長も会見に同席。「車種を削ることになったがこれまで通り電動化に力を入れていきたい」とした。「工数を見積もるツールがそろっていない」と指摘した上で「工数見積もりを正確にしたい」とも話した。
日刊工業新聞2016年8月3日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
特別委員会報告書で明らかとなった2つの新事実は、2回の内部告発をつかむチャンスが有ったにもかかわらず、それを三菱自工経営陣は見過ごしてしまったということ。報告書が指摘する通り、経営全体に問題の病巣があったと批判されて致し方ない。社内、グループに根強い益子社長続投論はこれで封じ込められたと言えるのではないか。ダイムラークライスラー(当時)に放り出され、生死の淵から自工を生還させた再生には、一定の成果があったことは認める。しかし、グループ主導の再生は最も大切なことを見落としていたと言わざるを得ない。

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