「ポケモンGO」はもう古い?“超人スポーツ”は地域活性化の起爆剤になるか
ハイテク×アイデア次第でユニークな競技がビジネスに
ハイテクとスポーツを掛け合わせた「超人スポーツ」が地域振興の起爆剤として地方自治体に広がっている。市民や大学、地域企業を巻き込んで新しいスポーツを開発する試みだ。新種のスポーツが誕生すれば、イベント開催やデバイスで稼げる可能性がある。最初は小さくても息の長い産業に育てようと奮闘する各地の取り組みを追った。
カートを乗り回し対戦相手を撃ち倒す―。まるでテレビゲームのようなモータースポーツが商店街で楽しめるようになった。慶応義塾大学とmeleap(メリープ、東京都港区)などが開発した「HADOカート」は電動車いすに乗ってプレーする。手の動きをウエアラブルセンサーで検出し、エネルギー弾を仮想的に放つ。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)に飛び交う弾や対戦ポイントを表示する。3人のプレーヤーが三つどもえで対戦する。
場所を選ばず対戦できるように、相手を認識するための拡張現実(AR)マーカーを電動車いすに付けた。電動車いすは最高時速5キロメートルと衝突してもけがをしにくい。低速でも車高が低いためスピード感がある。慶大大学院生の武田港氏は「競技で車いすの市場が広がればコストが下がる。ご当地化はアイデア次第」という。
この超人スポーツに岩手県の達増拓也知事が目を付けた。「岩手発超人スポーツ開発プロジェクト」を立ち上げ、アイデアソンやハッカソンを重ねて新競技を開発中だ。達増知事は「平泉の祭りの弁慶力餅競争は数十キログラムの餅を抱えて歩く。パワードスーツを着て激しく競えば面白い。そこから農業をサポートする技術が生まれ、産業化につながれば」と期待する。
岩手大学で開いたハッカソンでは4種目が考案された。最優秀賞に選ばれた「toritori」は、岩手出身の宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』に登場する「鳥捕り」を競技にした。鳥捕りが鳥を捕まえる様子をドローンで再現。HMDでドローンのカメラ映像を見ながら小型ドローンを捕まえる。
チームリーダーを務める岩手大院生の稲上つくし氏は「大空を自由に飛ぶ感覚が楽しい。ただ高く飛んで周囲に建物が見えなくなると平衡感覚を失う。ドローン酔いを防ぐインターフェースを開発したチームが強くなる」という。
岩手県の澤田彰弘文化振興担当課長は「岩手らしさをスポーツに盛り込めるのかと心配していたが、面白い競技ができてきた」とほほを緩める。県は各チームに資金を提供し、開発を支援する。9月の国体に合わせて披露する予定だ。
神戸市は「神戸マラソン」のウエアラブル化を進めている。神戸大学の塚本昌彦教授とアシックス、神戸市の3者が連携。約60人がスマートウオッチやスマートヘッドホンを装着して走り、端末からペース管理や観光案内のメッセージを流して効果を検証した。
マラソンは競技、観光の両面から地域振興イベントとして広がっている。塚本教授は「競技目的のランナーはペース配分や給水所の情報、観光目的のランナーはランドマークや道中に補給できる特産品の紹介など、好みに応じてメッセージを選べばいい」という。マラソン大会でアプリを検証し、普段のジョギングなどに広める。
神戸市はウエアラブル先進都市を目指し、介護や観光などの実証フィールドを提供している。神戸市企画調整局の長井伸晃係長は「ウエアラブルを試しやすい環境を整え、ウエアラブルコンテンツの産業育成につなげたい」と説明する。
(スマートグラスやスマートウオッチなどをつけて走る塚本教授=神戸マラソン2015、塚本教授提供)
山口市はハイテクスポーツの開発を小学校の授業に組み込んだ。山口市の第三セクター、山口情報芸術センター(YCAM)がスマホ搭載のビーチボール「ナカマンボール」など、5種類のスポーツ用デバイスを開発した。ナカマンボールはスマホで振動や音声を計測したり、タイマー機能を付けたりと幅広い使い方ができる。これらデバイスと綱引きや二人三脚などの運動会の種目を組み合わせ、小学生が2時間でハイテク競技を編み出す。
プログラムでは生徒50―60人が4チームに分かれて種目を考え、体を動かしながらルールを決める。各チームが競技を発表し、投票で選んだ種目で運動会を開いて授業終了だ。
例えばナカマンボールと玉入れを組み合わせたチームは、バスケットボールのような種目を考案した。ボールを籠に入れるまでにボールを振った回数が得点になる。最初、振動は減点にし、ボールをできるだけ揺らさず籠に入れる競技を考えた。やってみると盛り上がらず、とにかく全員で振った方が楽しいとわかった。代わりに「ボールを持っている人は動けない」「全員にパスを回す」などルールを追加して競技性を高めた。
小学生がルールを議論する中で、論理的思考や考えを説明する力が養われる。体を動かして試せば、言葉で伝えにくい部分を補える。YCAMの朴鈴子(パク・リョンジャ)エデュケーターは「山口市の小学生全員に体験してもらいたい。運動会の種目は自分たちで作れるものと思えば、スポーツの楽しみ方が広がる」と期待する。
ナカマンボールは地域企業に技術移転し、製造販売を委託する予定だ。YCAMがスマホの計測機能や得点管理機能をアプリ化してソースコードを提供。自由に新種目を開発できる環境を整える。
デバイスとイベントはそれぞれビジネスになりつつある。企業や学校向けに運動会請負サービスを手がけるNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ(横浜市都筑区)は、YCAMが開発したスポーツ用デバイスを採用した。米司隆明代表理事は「運動会は日本独自のイベントで、組織の一体感を高める効果がある。タイやインドでも好評だ。テクノロジーを取り込むと日本への評価がより上がる。ハイテク運動会は海外で戦える商品になる」と力を込める。
(文=小寺貴之)
ポケモンだけでなくマリオカートも実現しました。HADOカートでは甲羅はエネルギー弾。バナナの皮は開発次第で実装できます。ただダッシュキノコは難しいかもしれません。ARマーカーを商店街や観光地に配置すれば、モンスターが出てくるライド系アトラクションになります。ゆるキャラや地方ルールなど、ご当地化はアイデア次第です。
<続きはコメント欄で>
場所を選ばずカートで撃ち合い
カートを乗り回し対戦相手を撃ち倒す―。まるでテレビゲームのようなモータースポーツが商店街で楽しめるようになった。慶応義塾大学とmeleap(メリープ、東京都港区)などが開発した「HADOカート」は電動車いすに乗ってプレーする。手の動きをウエアラブルセンサーで検出し、エネルギー弾を仮想的に放つ。ヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)に飛び交う弾や対戦ポイントを表示する。3人のプレーヤーが三つどもえで対戦する。
場所を選ばず対戦できるように、相手を認識するための拡張現実(AR)マーカーを電動車いすに付けた。電動車いすは最高時速5キロメートルと衝突してもけがをしにくい。低速でも車高が低いためスピード感がある。慶大大学院生の武田港氏は「競技で車いすの市場が広がればコストが下がる。ご当地化はアイデア次第」という。
岩手県が開発プロジェクト、映像で確認しドローン捕獲
この超人スポーツに岩手県の達増拓也知事が目を付けた。「岩手発超人スポーツ開発プロジェクト」を立ち上げ、アイデアソンやハッカソンを重ねて新競技を開発中だ。達増知事は「平泉の祭りの弁慶力餅競争は数十キログラムの餅を抱えて歩く。パワードスーツを着て激しく競えば面白い。そこから農業をサポートする技術が生まれ、産業化につながれば」と期待する。
岩手大学で開いたハッカソンでは4種目が考案された。最優秀賞に選ばれた「toritori」は、岩手出身の宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』に登場する「鳥捕り」を競技にした。鳥捕りが鳥を捕まえる様子をドローンで再現。HMDでドローンのカメラ映像を見ながら小型ドローンを捕まえる。
チームリーダーを務める岩手大院生の稲上つくし氏は「大空を自由に飛ぶ感覚が楽しい。ただ高く飛んで周囲に建物が見えなくなると平衡感覚を失う。ドローン酔いを防ぐインターフェースを開発したチームが強くなる」という。
岩手県の澤田彰弘文化振興担当課長は「岩手らしさをスポーツに盛り込めるのかと心配していたが、面白い競技ができてきた」とほほを緩める。県は各チームに資金を提供し、開発を支援する。9月の国体に合わせて披露する予定だ。
神戸市はマラソンにウエアラブル
神戸市は「神戸マラソン」のウエアラブル化を進めている。神戸大学の塚本昌彦教授とアシックス、神戸市の3者が連携。約60人がスマートウオッチやスマートヘッドホンを装着して走り、端末からペース管理や観光案内のメッセージを流して効果を検証した。
マラソンは競技、観光の両面から地域振興イベントとして広がっている。塚本教授は「競技目的のランナーはペース配分や給水所の情報、観光目的のランナーはランドマークや道中に補給できる特産品の紹介など、好みに応じてメッセージを選べばいい」という。マラソン大会でアプリを検証し、普段のジョギングなどに広める。
神戸市はウエアラブル先進都市を目指し、介護や観光などの実証フィールドを提供している。神戸市企画調整局の長井伸晃係長は「ウエアラブルを試しやすい環境を整え、ウエアラブルコンテンツの産業育成につなげたい」と説明する。
(スマートグラスやスマートウオッチなどをつけて走る塚本教授=神戸マラソン2015、塚本教授提供)
山口市、小学生がボールゲームのルール作り
山口市はハイテクスポーツの開発を小学校の授業に組み込んだ。山口市の第三セクター、山口情報芸術センター(YCAM)がスマホ搭載のビーチボール「ナカマンボール」など、5種類のスポーツ用デバイスを開発した。ナカマンボールはスマホで振動や音声を計測したり、タイマー機能を付けたりと幅広い使い方ができる。これらデバイスと綱引きや二人三脚などの運動会の種目を組み合わせ、小学生が2時間でハイテク競技を編み出す。
プログラムでは生徒50―60人が4チームに分かれて種目を考え、体を動かしながらルールを決める。各チームが競技を発表し、投票で選んだ種目で運動会を開いて授業終了だ。
例えばナカマンボールと玉入れを組み合わせたチームは、バスケットボールのような種目を考案した。ボールを籠に入れるまでにボールを振った回数が得点になる。最初、振動は減点にし、ボールをできるだけ揺らさず籠に入れる競技を考えた。やってみると盛り上がらず、とにかく全員で振った方が楽しいとわかった。代わりに「ボールを持っている人は動けない」「全員にパスを回す」などルールを追加して競技性を高めた。
小学生がルールを議論する中で、論理的思考や考えを説明する力が養われる。体を動かして試せば、言葉で伝えにくい部分を補える。YCAMの朴鈴子(パク・リョンジャ)エデュケーターは「山口市の小学生全員に体験してもらいたい。運動会の種目は自分たちで作れるものと思えば、スポーツの楽しみ方が広がる」と期待する。
海外で戦える「ハイテク運動会」
ナカマンボールは地域企業に技術移転し、製造販売を委託する予定だ。YCAMがスマホの計測機能や得点管理機能をアプリ化してソースコードを提供。自由に新種目を開発できる環境を整える。
デバイスとイベントはそれぞれビジネスになりつつある。企業や学校向けに運動会請負サービスを手がけるNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ(横浜市都筑区)は、YCAMが開発したスポーツ用デバイスを採用した。米司隆明代表理事は「運動会は日本独自のイベントで、組織の一体感を高める効果がある。タイやインドでも好評だ。テクノロジーを取り込むと日本への評価がより上がる。ハイテク運動会は海外で戦える商品になる」と力を込める。
(文=小寺貴之)
記者ファシリテーターの見方
ポケモンだけでなくマリオカートも実現しました。HADOカートでは甲羅はエネルギー弾。バナナの皮は開発次第で実装できます。ただダッシュキノコは難しいかもしれません。ARマーカーを商店街や観光地に配置すれば、モンスターが出てくるライド系アトラクションになります。ゆるキャラや地方ルールなど、ご当地化はアイデア次第です。
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日刊工業新聞2016年7月25日