500 Startups アクセラレーターから見た黄金の国「日本は肥沃な市場」
JapanをPassしない理由は、出る杭を引き上げるトレンド
500 Startupsがファンド展開する地域は北米のほか、南米、カナダ、東南アジア、韓国など11地域。最も勢いのある地域は東南アジアだという。日本について、「英語情報が少ないこともあり、外から見るとブラックボックス。そのため機関投資家を中心に投資の世界ではJapan passingの風潮がある」と澤山氏はいう。では、なぜそのJapan向けのファンド設立に至ったのか。
その大きな理由の1つとして2人は、日本市場の潜在能力に対し、ベンチャー投資があまりにも小さいことを挙げる。2014年の日本の名目GDPは約490兆円で世界第3位、1位のアメリカ(約17.3兆ドル。日本円で約1900兆円)の約4分の1だ。「アジアのような高い成長率はないといっても、国民全体のITリテラシーが高く、さまざまな消費がされている肥沃な市場」とライニー氏は評価している。
それに対し、日本のベンチャー投資額は約1154億円(2014年・ジャパンベンチャーリサーチ発表)にすぎず、「アメリカではVCから約480億ドル、エンジェル投資家から約240億ドルで合計約720億ドル(約7兆9200億円)規模」(澤山氏)と比べると、約70分の1とその差はあまりに大きい。
金額面だけではない。「素晴らしいエンジニアリングやものづくりといった、日本の強みが埋もれている現状がある。これはあまりにもったいない」と澤山氏。この日本の眠れる潜在能力を引き出したい考えだ。ライニー氏は「日本でのベンチャー投資額を10年以内に1兆円規模にしたい」と意気込む。
ではなぜ今なのか? それは、現在ベンチャー企業を取り巻く環境が改善してきたことが大きいという。「ここ5年くらいで、ベンチャーというものがクールで大きな可能性を秘めた存在として認識されるようになった」(澤山氏)。
エリート大学出身の人材も大企業一辺倒でなくベンチャー志向が高まってきたと同時に、大企業もオープンイノベーションを掲げてベンチャーへの興味が高まっていると話すライニー氏。
「日本では『出る杭は打たれる』という言い方があるが、今は『出る杭を引き上げる』くらいの状況ではないか」とその印象を説明する(ちなみに、このようにことわざを自然に引用するくらい、ライニー氏は日本語がペラペラだ)。
そして、日本の活動当初、みずほ銀行の担当者からいち早くFacebookメッセージで連絡があったことも、「最初、本当かな?と思ったくらい」(澤山氏)で、日本の状況が変わったという印象を受けた象徴的な出来事だという。
連絡をしてきたのはみずほ銀行内でベンチャー支援戦略を立案する担当者だった。そして現在、同行は500 Startups Japanの最大の出資者となっている。日本での資金調達は非常にスムーズで、初回冒頭で紹介した通り3000万ドルの目標に対し、第1次募集分の1500万ドルの資金調達をわずか3カ月で完了した。
公的機関からの後押しも受けた。現在、500 Startups JapanはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の認定VCとなっている。
これにともない、500 Startups Japanが投資した研究開発型のベンチャー企業にNEDOが追加で7000万円を限度に助成金を出す枠組みが用意されている。初期投資が必要な研究開発型の企業にとって、その支援の意味は大きい。
ベンチャー企業からも予想以上のアクセスがあるという。500 Startupsのブランドはもちろん、2人が築いてきたネットワークも生きている。「評判はなにより大事。どれだけ誠実に価値を提供していけるか、ギブ&テイクでなく、ギブ&ギブの精神を心掛けてきた」と澤山氏。
これまでのキャリアを振り返りながらその信念を話す(ちなみに、エンジニア畑出身が注目されがちな同氏であるが、JPモルガン証券のM&Aバンカーや野村證券のリサーチャーとして金融系のキャリアも長い)。
今後の日本での活動の大きな展望は3つあるという。1つ目が「シリコンバレーのノウハウと人的ネットワークを日本に持ち込むこと」。その中には、500 Startupsのグローバルでの投資先の人材も含まれる。300人以上のメンターに加え、1500の投資先に企業家が2人ずついるとすると約3000人の起業家の先輩がいることになるわけだ。
その中で起業家教育にも力を入れる姿勢だ。「株式の譲渡方法や契約など、企業経営で必要な知識も情報も不足している。その点をフォローしたい」と自身も起業経験を持つライニー氏は意欲を語る。ブログ(http://500startups.jp/blog/)で公開する内容も充実させていく予定だ。
2つ目は「日本のスタートアップを海外へ発信する」こと。前述のようにブラックボックスと思われている日本企業。澤山氏は「だからこそ、500 Startupsが関わることが、海外での認知度を高めるきっかけとなる。グローバルなvisibilityを高めることで、海外進出や海外からの資金調達も容易になるはず」と期待を込める。
そして3つ目は「起業家にとってM&Aというエグジットの選択肢を増やすこと」だという。では、どのような背景と戦略があるのか。500 Startups JapanのM&Aの考え方については次回に紹介する。
<プロフィール>
●James Riney=代表兼マネージングパートナー
J.P.モルガンに勤務の後、「ビリギャル」を世に送り出したSTORYS.JP初代CEOを務める。次にDeNAの投資部門に移り、初期段階の国際投資を担当。DeNAのタイ、インドネシア、フィリピン、インドへの出資を主導した。その後500 Startups Japan立ち上げに関わり現職。
●澤山 陽平氏=マネージングパートナー
JPモルガンの投資銀行部門においてTMTセクターの資金調達やクロスボーダーM&Aのアドバイザリー業務に携わった後、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にてITセクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事、2015年12月より500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任>
その大きな理由の1つとして2人は、日本市場の潜在能力に対し、ベンチャー投資があまりにも小さいことを挙げる。2014年の日本の名目GDPは約490兆円で世界第3位、1位のアメリカ(約17.3兆ドル。日本円で約1900兆円)の約4分の1だ。「アジアのような高い成長率はないといっても、国民全体のITリテラシーが高く、さまざまな消費がされている肥沃な市場」とライニー氏は評価している。
それに対し、日本のベンチャー投資額は約1154億円(2014年・ジャパンベンチャーリサーチ発表)にすぎず、「アメリカではVCから約480億ドル、エンジェル投資家から約240億ドルで合計約720億ドル(約7兆9200億円)規模」(澤山氏)と比べると、約70分の1とその差はあまりに大きい。
金額面だけではない。「素晴らしいエンジニアリングやものづくりといった、日本の強みが埋もれている現状がある。これはあまりにもったいない」と澤山氏。この日本の眠れる潜在能力を引き出したい考えだ。ライニー氏は「日本でのベンチャー投資額を10年以内に1兆円規模にしたい」と意気込む。
ではなぜ今なのか? それは、現在ベンチャー企業を取り巻く環境が改善してきたことが大きいという。「ここ5年くらいで、ベンチャーというものがクールで大きな可能性を秘めた存在として認識されるようになった」(澤山氏)。
エリート大学出身の人材も大企業一辺倒でなくベンチャー志向が高まってきたと同時に、大企業もオープンイノベーションを掲げてベンチャーへの興味が高まっていると話すライニー氏。
「日本では『出る杭は打たれる』という言い方があるが、今は『出る杭を引き上げる』くらいの状況ではないか」とその印象を説明する(ちなみに、このようにことわざを自然に引用するくらい、ライニー氏は日本語がペラペラだ)。
メガバンクがFacebookでアクセスしてきた!?
そして、日本の活動当初、みずほ銀行の担当者からいち早くFacebookメッセージで連絡があったことも、「最初、本当かな?と思ったくらい」(澤山氏)で、日本の状況が変わったという印象を受けた象徴的な出来事だという。
連絡をしてきたのはみずほ銀行内でベンチャー支援戦略を立案する担当者だった。そして現在、同行は500 Startups Japanの最大の出資者となっている。日本での資金調達は非常にスムーズで、初回冒頭で紹介した通り3000万ドルの目標に対し、第1次募集分の1500万ドルの資金調達をわずか3カ月で完了した。
公的機関からの後押しも受けた。現在、500 Startups JapanはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の認定VCとなっている。
これにともない、500 Startups Japanが投資した研究開発型のベンチャー企業にNEDOが追加で7000万円を限度に助成金を出す枠組みが用意されている。初期投資が必要な研究開発型の企業にとって、その支援の意味は大きい。
ベンチャー企業からも予想以上のアクセスがあるという。500 Startupsのブランドはもちろん、2人が築いてきたネットワークも生きている。「評判はなにより大事。どれだけ誠実に価値を提供していけるか、ギブ&テイクでなく、ギブ&ギブの精神を心掛けてきた」と澤山氏。
これまでのキャリアを振り返りながらその信念を話す(ちなみに、エンジニア畑出身が注目されがちな同氏であるが、JPモルガン証券のM&Aバンカーや野村證券のリサーチャーとして金融系のキャリアも長い)。
日本を海外へ発信する!
今後の日本での活動の大きな展望は3つあるという。1つ目が「シリコンバレーのノウハウと人的ネットワークを日本に持ち込むこと」。その中には、500 Startupsのグローバルでの投資先の人材も含まれる。300人以上のメンターに加え、1500の投資先に企業家が2人ずついるとすると約3000人の起業家の先輩がいることになるわけだ。
その中で起業家教育にも力を入れる姿勢だ。「株式の譲渡方法や契約など、企業経営で必要な知識も情報も不足している。その点をフォローしたい」と自身も起業経験を持つライニー氏は意欲を語る。ブログ(http://500startups.jp/blog/)で公開する内容も充実させていく予定だ。
2つ目は「日本のスタートアップを海外へ発信する」こと。前述のようにブラックボックスと思われている日本企業。澤山氏は「だからこそ、500 Startupsが関わることが、海外での認知度を高めるきっかけとなる。グローバルなvisibilityを高めることで、海外進出や海外からの資金調達も容易になるはず」と期待を込める。
そして3つ目は「起業家にとってM&Aというエグジットの選択肢を増やすこと」だという。では、どのような背景と戦略があるのか。500 Startups JapanのM&Aの考え方については次回に紹介する。
●James Riney=代表兼マネージングパートナー
J.P.モルガンに勤務の後、「ビリギャル」を世に送り出したSTORYS.JP初代CEOを務める。次にDeNAの投資部門に移り、初期段階の国際投資を担当。DeNAのタイ、インドネシア、フィリピン、インドへの出資を主導した。その後500 Startups Japan立ち上げに関わり現職。
●澤山 陽平氏=マネージングパートナー
JPモルガンの投資銀行部門においてTMTセクターの資金調達やクロスボーダーM&Aのアドバイザリー業務に携わった後、野村證券の未上場企業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)にてITセクターの未上場企業の調査/評価/支援業務に従事、2015年12月より500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任>
M&A Online編集部2016年07月07日