住友化学、成長への事業再構築
高機能樹脂の生産能力倍増、千葉に新プラント
住友化学は21日、千葉工場(千葉県市原市)に高機能樹脂のポリエーテルサルホン(PES)の製造設備を新設すると発表した。投資額は数十億円。航空機や人工透析膜、自動車向けの需要増に伴って生産増強を決めた。2018年の量産開始を予定。PESの年産能力は全体で現状比2倍の約6000トンに拡大する。千葉工場の空き建屋を活用して、年産3000トンのプラントを新設する。現在は愛媛工場(愛媛県新居浜市)で同規模のPES生産能力を持つ。
6月下旬。住友化学千葉工場(千葉県市原市)でヘルメットをかぶり化学プラントのセンサーの動作説明に熱心に耳を傾ける外国人たち。国籍はサウジアラビア、インド、マレーシア、インドネシアと多岐に及ぶ。彼らはサウジにある世界最大級の石油精製・石油化学複合施設ペトロ・ラービグから送り込まれた総勢80人の現場社員たちだ。「第2期プラントの安定稼働を全力で支援する」と、研修の意義を説明する生産技術室部長の小野拓也の言葉にも力がこもる。
第2期を含め、住友化学がラービグに投じた資金は約2660億円。社運を賭けた一大プロジェクトだ。国営石油会社サウジアラムコと合弁で09年から年産能力130万トンに上る巨大なエチレン生産設備などを運営している。日本のエチレン生産設備が原料とするナフサ(粗製ガソリン)の15分の1以下の価格で調達できるエタンを原料とし、高い競争力で新興国メーカーに対抗する狙いだった。
だが、稼働当初からたびたびトラブルが発生、14年にようやく安定稼働が実現したが、13年には2度の大規模停電が発生した。だからこそ80人のラービグ社員を日本に呼んで「半年間、安定稼働に関する知識を徹底的に学ばせる」(小野)。圧倒的に安いコストに日本流の細やかな運用手法を注入し、ラービグ計画を成功に導く戦略だ。第2期の完成でラービグのエチレン年産能力は160万トンに増える。より川下に近く高付加価値な合成ゴム原料やアクリル樹脂原料の生産も始める。
(第2期設備が相次ぎ稼働するペトロ・ラービグ)
5月11日、住友化学は千葉工場で化学品の基礎原料となるエチレン生産設備を停止した。これで自社単独での国内エチレン生産から事実上撤退した。北米のシェールガス、中国の石炭由来の安い化学品生産の本格化を控え、化学品生産を巡る環境も大きく変化する中、国内の汎用化学品の生産縮小が本格化した。
国内のエチレン生産停止で退路を断ち、より高機能分野でグローバル市場での闘いに活路を見いだす。設備を止めた日本はマザー拠点として高機能品に特化、84年に稼働したシンガポール拠点の高機能品比率も7割となった。これに高機能化を進めるラービグ第2期の安定稼働で、社長の十倉雅和が進める石化事業高度化が一つの完成形を見る。
原油価格の下落や中国企業の想定を上回る大増産など、化学業界を取り巻く環境は、ラービグ事業の計画当初より厳しいものとなっている。とはいえ、ペトロ・ラービグ事業の成功なくして、同社の成長戦略は描くことができない。十倉は「座して死を待たないようにするためにも石油化学事業の高度化が不可欠」と、厳しい道程に一歩を踏み出した。グローバル経営路線を突き進む住友化学の挑戦を追う。
旭化成や三菱ケミカルホールディングスが化学系中核事業会社を統合するなど、総合化学各社で化学部門を再編する動きが本格化している。事業環境の変化が激しくなる中、自社グループの経営資源を一本化して厳しい国際競争を勝ち抜く戦略だが、住友化学も4月1日付で化学部門の再編に動いた。従来の基礎化学部門と石油化学部門を、収益改善が不可欠な「石油化学部門」、顧客開拓が課題の「エネルギー・機能材料部門」に再編した。
石化部門は原料の低コスト化、生産工程開発による収益改善を目指すポリプロピレン(PP)やアクリル樹脂原料など基礎化学品を所管する。エネ・機能材料部門は顧客ニーズに合った新製品開発が求められる合成ゴム、ディーゼルエンジン車用排ガス浄化部材など機能化学品を管轄。それぞれの課題を解決する技術や人材を横展開しやすくする狙いだ。
「残せるプラントは残した。内需減が続く中、誘導品(エチレンなどから作る化学品)で、いかに付加価値を生み出せるかが勝負になる」。石化部門を統括する専務執行役員の大野友久は、今後の戦略をこう語る。
5月に千葉工場(千葉県市原市)のエチレン生産設備を停止。併せて誘導品生産を最適化するため、ポリスチレン原料とプロピレンオキサイドの併産設備も停止したが、「自動車部材向けPPコンパウンド(混練樹脂)でグローバル生産を増強する」(大野)といった成長施策も打ち出した。
一方、エネ・機能材料部門では生産増強が相次ぐ。約63億円を投じてポーランドに新設したディーゼル車用すす除去フィルター工場は年産能力100万個を持ち、自動車大手に採用が決まった。シンガポールでは省燃費タイヤ用合成ゴムS―SBRの生産設備(年産能力4万トン)が立ち上がり、能力増強を検討中。同部門を統括するのは、情報電子化学や有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)も担当する専務執行役員の出口敏久。各事業の共通課題である顧客開拓を担う出口の手腕に注目が集まる。
(敬称略)
※内容、肩書きは当時のもの
退路を断ち高機能分野でグローバル市場へ
日刊工業新聞2015年7月7日/20日「挑戦する企業」より
6月下旬。住友化学千葉工場(千葉県市原市)でヘルメットをかぶり化学プラントのセンサーの動作説明に熱心に耳を傾ける外国人たち。国籍はサウジアラビア、インド、マレーシア、インドネシアと多岐に及ぶ。彼らはサウジにある世界最大級の石油精製・石油化学複合施設ペトロ・ラービグから送り込まれた総勢80人の現場社員たちだ。「第2期プラントの安定稼働を全力で支援する」と、研修の意義を説明する生産技術室部長の小野拓也の言葉にも力がこもる。
第2期を含め、住友化学がラービグに投じた資金は約2660億円。社運を賭けた一大プロジェクトだ。国営石油会社サウジアラムコと合弁で09年から年産能力130万トンに上る巨大なエチレン生産設備などを運営している。日本のエチレン生産設備が原料とするナフサ(粗製ガソリン)の15分の1以下の価格で調達できるエタンを原料とし、高い競争力で新興国メーカーに対抗する狙いだった。
だが、稼働当初からたびたびトラブルが発生、14年にようやく安定稼働が実現したが、13年には2度の大規模停電が発生した。だからこそ80人のラービグ社員を日本に呼んで「半年間、安定稼働に関する知識を徹底的に学ばせる」(小野)。圧倒的に安いコストに日本流の細やかな運用手法を注入し、ラービグ計画を成功に導く戦略だ。第2期の完成でラービグのエチレン年産能力は160万トンに増える。より川下に近く高付加価値な合成ゴム原料やアクリル樹脂原料の生産も始める。
(第2期設備が相次ぎ稼働するペトロ・ラービグ)
5月11日、住友化学は千葉工場で化学品の基礎原料となるエチレン生産設備を停止した。これで自社単独での国内エチレン生産から事実上撤退した。北米のシェールガス、中国の石炭由来の安い化学品生産の本格化を控え、化学品生産を巡る環境も大きく変化する中、国内の汎用化学品の生産縮小が本格化した。
国内のエチレン生産停止で退路を断ち、より高機能分野でグローバル市場での闘いに活路を見いだす。設備を止めた日本はマザー拠点として高機能品に特化、84年に稼働したシンガポール拠点の高機能品比率も7割となった。これに高機能化を進めるラービグ第2期の安定稼働で、社長の十倉雅和が進める石化事業高度化が一つの完成形を見る。
原油価格の下落や中国企業の想定を上回る大増産など、化学業界を取り巻く環境は、ラービグ事業の計画当初より厳しいものとなっている。とはいえ、ペトロ・ラービグ事業の成功なくして、同社の成長戦略は描くことができない。十倉は「座して死を待たないようにするためにも石油化学事業の高度化が不可欠」と、厳しい道程に一歩を踏み出した。グローバル経営路線を突き進む住友化学の挑戦を追う。
付加価値を生み出せるかが勝負
旭化成や三菱ケミカルホールディングスが化学系中核事業会社を統合するなど、総合化学各社で化学部門を再編する動きが本格化している。事業環境の変化が激しくなる中、自社グループの経営資源を一本化して厳しい国際競争を勝ち抜く戦略だが、住友化学も4月1日付で化学部門の再編に動いた。従来の基礎化学部門と石油化学部門を、収益改善が不可欠な「石油化学部門」、顧客開拓が課題の「エネルギー・機能材料部門」に再編した。
石化部門は原料の低コスト化、生産工程開発による収益改善を目指すポリプロピレン(PP)やアクリル樹脂原料など基礎化学品を所管する。エネ・機能材料部門は顧客ニーズに合った新製品開発が求められる合成ゴム、ディーゼルエンジン車用排ガス浄化部材など機能化学品を管轄。それぞれの課題を解決する技術や人材を横展開しやすくする狙いだ。
「残せるプラントは残した。内需減が続く中、誘導品(エチレンなどから作る化学品)で、いかに付加価値を生み出せるかが勝負になる」。石化部門を統括する専務執行役員の大野友久は、今後の戦略をこう語る。
5月に千葉工場(千葉県市原市)のエチレン生産設備を停止。併せて誘導品生産を最適化するため、ポリスチレン原料とプロピレンオキサイドの併産設備も停止したが、「自動車部材向けPPコンパウンド(混練樹脂)でグローバル生産を増強する」(大野)といった成長施策も打ち出した。
一方、エネ・機能材料部門では生産増強が相次ぐ。約63億円を投じてポーランドに新設したディーゼル車用すす除去フィルター工場は年産能力100万個を持ち、自動車大手に採用が決まった。シンガポールでは省燃費タイヤ用合成ゴムS―SBRの生産設備(年産能力4万トン)が立ち上がり、能力増強を検討中。同部門を統括するのは、情報電子化学や有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)も担当する専務執行役員の出口敏久。各事業の共通課題である顧客開拓を担う出口の手腕に注目が集まる。
(敬称略)
※内容、肩書きは当時のもの
日刊工業新聞2016年7月22日