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ARM買収、アローラ氏退任後の孫マネジメントチームにとって大きなチャレンジ

ほとんどの人はわからないだろうけれど、孫さんには見えている世界がある!?
ARM買収、アローラ氏退任後の孫マネジメントチームにとって大きなチャレンジ

孫社長と退任したアローラ前副社長

 ソフトバンクグループが半導体設計の英ARMホールディングスを買収する。IoT(モノのインターネット)による大きな事業機会が今後生まれると見通しており、その分野で世界の覇権を取るための先行投資だ。ソフトバンクグループは携帯電話がインターネットにつながる時代を見据えて2006年にボーダフォン日本法人を買収するなど、巨額投資により成功をつかんできた。IoTによる次のパラダイムシフトの到来を見通し、大きな決断を下した。

 ARMは、中央演算処理装置(CPU)といった半導体向けの回路設計に特化したファブレスメーカーだ。技術ライセンスを半導体メーカーなどに提供し、利益を得るライセンス型ビジネスを展開する。ARMのプロセッサーの強みは省電力で、スマートフォン向け半導体では世界で95%のシェアを握る。主力のCPU設計では米インテルとシェアを二分している。

 日本にはCPUを手がける半導体メーカーはほぼなく、ソフトバンクによるARM買収の直接的な影響は小さそうだ。さらに「買収後もARMは完全に中立的な存在」(孫社長)である以上、ARMのCPUコアを採用する半導体メーカーの状況は変わらない。自動車向けなどの半導体製品でARMコアを採用しているルネサスエレクトロニクスも「状況を注視するが、現時点では影響はないと見ている」(広報担当者)。

半導体関係者から「戦略見えず」



 ただ「ソフトバンクが何をしようとしているのか分からない」(半導体関係者)。ソフトバンク傘下でARMのビジネスモデルに変化があれば、既存のパートナーにも戦略を見直す必要性が出てくるかもしれない。

 一見するとシナジーの見えにくい買収劇だが、ARMにとってのメリットはいくつかみえる。一つは研究開発投資だ。かねて技術者や研究開発への投資をより強化しようとしていたARMだったが、「上場企業である限り利益や配当を無視できず、思いきった投資ができなかったと聞いた」(孫社長)。孫社長は「技術開発投資を我々が後押しする」としており、ARMは強力なバックアップを得られる。

 年々、巨額の投資が必要になっている研究開発投資への対策として、半導体各社は合従連衡や、成長分野への集中投資を進める。オランダのNXPは車載用半導体に照準を絞り、米フリースケールを買収。同時に他の事業売却を進める。

 また米アバゴ・テクノロジーが米ブロードコムを買収するなど、その動きは加速している。ARMが研究開発投資を強化する動きからは、IoT時代における研究開発のさらなる重要性をうかがわせる。

顧客との距離が近づくか


 ARMにとってのもう一つのメリットは、顧客との距離が近づく点だ。あらゆる製品にセンサーなどが搭載されるIoTでは、半導体ユーザーであるデバイスメーカーとの連携が欠かせない。

 ルネサスエレクトロニクスが顧客ニーズを吸い上げ早期の製品化につなげるべく、ユーザーとコンソーシアムを作っているのが一例だ。ARMの技術と、一般消費者や企業を顧客に抱えるソフトバンクが持つサービスやノウハウを組み合わせれば、よりニーズに即した半導体の提供も可能だ。

 現状スマートフォン向けでは高いシェアを持つARMだが、組み込みシステムやネットワーク機器でのシェアは25%以下。ソフトバンク傘下で技術力を高め、サービスと組み合わせてこれらの分野でシェアを高められれば、将来の拡大を見込むIoT市場の覇者となるかもしれない。
(文=葭本隆太、政年佐貴恵)
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日刊工業新聞2016年7月20日「深層断面」から抜粋
原直史
原直史 Hara Naofumi
やはり、孫さんは大胆な経営者だ。今回の買収も、一般的な基準からすれば、大変に高い買い物になる。会見の中で孫さんは、 「今回(の買収)もわかる人にはわかる、わからない人にはわからない。ほとんどの人はわからないだろうけれど、ARM社の事業がこれからのソフトバンクの主事業になっていく。」と言われたそうだが、孫さんには見えている世界があるのだろう。投資回収などどう評価すればよいのか、報道する側も困っているように見える。今回、買収されるARM 社は半導体の設計会社だ。これまでの成果はライセンス料などで回収されるとしても、将来のパフォーマンスは社員の創造性に頼ることになる。人が最大の資産であり、人材マネジメントの巧拙が決定的な影響を与えるだろう。海外案件を担当していたアローラ氏退任後の孫マネジメントチームにとって、大きなチャレンジになりそうだ。

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