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話題の巨大で甘い高級イチゴは「50歳からのベンチャー」で生まれた

<情報工場 「読学」のススメ#9>『「ひと粒五万円!」世界一のイチゴの秘密』(白石 拓 著)
**ウェディングケーキの代わりにイチゴに“入刀”するアイデアも
 「美人姫」という華やかな名前のイチゴをご存知だろうか? 「ひと粒5万円」の高級イチゴとしてテレビや雑誌で紹介されたのをご覧になった方も多いかもしれない。 

 美人姫は、岐阜県羽島市の奥田農園のみで栽培・生産されている品種。残念ながら実物を見たことも、ましてや食べたこともまだないのだが、写真を見ただけでも度肝を抜かれる。大きいのだ。いや、巨大と言っていい。手の平をほぼ占領する大きさ。奥田農園から「高級イチゴ」として売り出されているのは80グラム以上で、これまで最大は114グラムだという。ふつうのイチゴは、大粒のものでも15~18グラムだ。

 大きさだけではない。色もヘタに向かう根元まで真っ赤で、ツヤがある。味も、糖度がメロンやマンゴー並みにあり、それに酸味が加わり絶品だそうだ。

 奥田農園で生産されている美人姫は、すべてが「5万円」というわけではない。小さめの粒(それでも30グラム級)は1パック数百円で売られている。奥田農園の主人である奥田美貴夫さんは、美人姫を独力で品種改良により生み出し、現在ジュースなどへの加工、販売、宣伝までをほぼ一人で手がける。美人姫は贈答用の高級品、日用のパック販売分ともにネットを中心に人気を集めており、日本経済新聞の報道によれば、2016年末にはUAE(アラブ首長国連邦)への輸出も始めるという。

 『「ひと粒五万円!」世界一のイチゴの秘密』(祥伝社新書)は、「美人姫」で成功を収めた奥田さんの挑戦の軌跡を追っている。著者の白石拓さんは、幅広いジャンルで活躍する科学ジャーナリスト。

 同書第5章のタイトルが「ベンチャー奥田農園」となっているように、奥田さんは、まるで起業家のようにさまざまなアイデアを打ち出しながら美人姫の生産・加工・販売を行っている。農協は奥田さんが50歳の時に訣別して以来関わっていない。そう、奥田さんは、50歳にして今の事業を始めたのだ。

 奥田さんのアイデアで秀逸なのは、結婚式での「美人姫入刀」だ。新郎新婦が手を取り合ってウェディングケーキにナイフを入れる、あの儀式をイチゴで行うというもの。これは、たまたま縁があった佐渡ヶ嶽部屋・琴欧洲関の結婚式に美人姫を提供しようとした時に奥田さんが思いついたアイデアだ。琴欧洲関の結婚式では実現しなかったものの、ホームページを見た一般のカップルが手を挙げ、名古屋のホテルで初の「美人姫入刀」が執り行われた。その後も、ちらほらと問い合わせがあるという。
ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
平均的な農家では、農業だけで生計を立てることはとても難しいと言われています。果物の世界では、ちらほらと付加価値をつけた商品をつくる農家がでてきているようです。たとえば、高知の谷井農園。取組みをはじめてから15年でキロ当たり90円だったみかんを2400円にし、現在は、アマン東京をはじめとした都内高級ホテルにジュースを卸しています。この谷井農園ももともとは零細農家でした。TPP参加をめぐる議論から、日本の農業がどのように生き残れるのかに焦点があたっていますが、奥田農園、谷井農園の成功は今後の日本の農業における一つの可能性を示唆していると思います。

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