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英国、EUから離脱で科学技術大国の地位は揺らぐか

高い国外からの研究開発費の調達。EUとの連携は維持も
 英国は科学技術の水準の高さで欧州で1、2を争う。欧州連合(EU)が2020年までの7年間に総額800億ユーロを投入する大型研究助成事業「ホライズン2020」でも重要な存在だ。

 ただEUから離脱して英国の国際競争力が低下すれば、海外からの研究費調達力や人材確保の面で、今の水準を維持できるかは不透明。研究開発をめぐる世界各国の関係も変わることになりかねず、日本の企業や大学、研究機関にも影響を与える恐れがある。

 「英国が今後、高い科学技術の水準をどう維持するのか。その動向で日本への影響度も変わる」。須崎彩斗三菱総合研究所科学・安全政策研究本部産業イノベーション戦略グループグループリーダーはこう指摘する。

科学論文シェア4位、被引用数1位


 英国の科学技術の高さを示す指標の一つに論文数がある。米トムソン・ロイターのデータを基に文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめた調査結果によると、英国が執筆に関わった科学論文の世界に占めるシェアは、2011―13年の3年平均で7・1%で世界4位。被引用数の上位1%の論文に絞ると、英国はドイツを抜き世界3位に入る。

 研究開発費では英国は全体の18・7%(13年)を海外調達している。一方、ドイツは4・3%(12年)、フランスは7・6%(同)、中国は0・9%(13年)、日本は0・5%(同)。英国が科学技術の水準維持に海外資金を活用している構造が透けて見える。

 EUから離脱すれば海外からの研究資金調達や研究者確保に支障が出る恐れがある。対策の一つとして想定されるのが、アジア諸国や新興国との研究連携の拡大だ。中国などが先手を打って英国との積極的な連携に乗り出すことも想定される。

 ただ、EU離脱後も、科学技術分野で英国はEUとの協力関係を維持するとの見方もある。英王立協会は05―14年の10年間に英国が関わった国際共著論文のパートナー国を調査。それによると上位20カ国のうち12カ国はEU加盟国で、関係は簡単に断ち切れそうにない。現にスイスやイスラエルのように、EU非加盟国でも研究開発ではEUとつながりを持つ国もある。

 EUはホライズン2020を通じ、情報通信技術(ICT)やナノテクノロジー、ロボット、宇宙産業などの産業競争力を強化する。健康増進や気候変動対策など、社会的課題の解決に取り組むプロジェクトも支援する。同事業の成功に向け、EUにとっても英国の高い科学技術水準を無視できない事情があり、両者の駆け引きが続きそうだ。
日刊工業新聞2016年6月30日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今話題のゲノム編集などでは英国が世界をリードしている。科学技術においてすぐに影響があるとは思えない。国際ルールづくりにおいても英国の声は無視できないだろう。

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